第20話
俺と暗殺者は手をつなぎながら、星が光る夜道へと歩き出した。音もしない暗い道を街灯を頼りに歩く。
「こんなに人がいなかったら、この世界で二人だけみたいだね」
「相模と私しか世界にいないなら迷わず命を絶ちます。それによくそんなに恥ずかしいことを、そう易々と」
そう言って地面の石を軽く蹴り飛ばす暗殺者。
「そりゃ好きな人と、こんな綺麗な道を歩けてたらテンションも上がる」
「す、好きな人とか.......もう」
そう言って暗殺者はため息をついた。春の夜風が、俺たちに吹く。手を繋いで火照った体を冷やすちょうど心地いい風。
「涼しい。でももう少しで夏。夏は暑いから嫌い」
「そうか?夏はプールとか海とか?祭りとかもあるし好きだったけどな」
「好きだった?」
そう言って暗殺者はコテン、と首を傾げた。そんな可愛い仕草に少しドキッとするも、俺は頑張って平常を保つ。
「あー、最近は全くどこにも行ってないから。一人で行くのも寂しいだろ?」
「友達いないんだ。まぁ、私もいないんだけど」
そう言って暗殺者は乾いた笑みを浮かべた。自分のことを自傷するような笑い。仕事上、俺も暗殺者も人との繋がりなんていらないというか、いない方がいい。そう思っていたけど、今は違う。
「今年は一緒に海にもプールにも夏祭りにも、行こうな」
「.......私たちは友達でもなんでもないけど?」
「彼氏と彼女だろ?」
「そんな話もしましたね。あの時は.......」
多分、俺が脅しをかけて彼女にさせていたことを思い出したのだろう。そして少しだけ恨むような目で俺の事を見た。
そして夜空に何かを期待するように言葉を紡ぐ暗殺者。
「行きたいなぁ、夏祭り。行ったことないから」
「俺も一回しかない。行きたかったけど、仕事が多くって」
そんなくだらない話をしていると、俺のことを暗殺しようとした場所が出てきた。言い方を変えれば俺と暗殺者が出会った運命の場所だ。
「.......なんか気まずいなぁ」
「何回もここを下見にきて、準備満タンで殺しにかかったんだけど。相模が化け物すぎた」
「そんなことない。まぐれで勝てただけだ。それに俺を殺しに来た人が、こんな美人でびっくりした」
「この時もそんな話に負けたの。変に動揺した私を今でも恨んでる」
そう言って暗殺者は握っていた手を強くする。俺は恐る恐る暗殺者の方を見ると、満面の笑みを浮かべていた。
いつでもやり合えると言わんばかりの表情の暗殺者を少しからかってやる。
「ノーパンでよく威嚇できるな」
「く、口に出さないで!変に意識しちゃうからっ///」
そう言って握っていた手を離して、スっと俺と距離を取って、背筋を丸くして小さくなってしまう暗殺者。
「ごめんて」
「絶対思ってない。早く買いに行く」
そう言って小走りになった暗殺者の背中を追いかける。でも暗殺者は道が分からないから立ち止まって、黙って俺の横に立つ。
「早く案内して」
「手を繋いでくれないと、歩けないなぁ。正直、履いてないほうが行為はヤリやすいし?」
俺が煽るようにそういうと、少しだけこっちに手をやった暗殺者か小さく呟く。顔は地面のアスファルトとにらめっこしたまんまで、
「ほら、早く行こ?」
「お、おう」
差し出された手に答えるように、手を握りかえる。この時、暗殺者よりも俺の方が心臓の鼓動が早かったのはここだけの話である。
♣♣
星が欲しい。
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