無線機 VS 木

遊び始めて数時間。

あたりはもう完全に闇に包まれている。

「これが...神隠し...?」

数え切れないぐらい転んだ。

数え切れないぐらいぶつかった。

数え切れないぐらい枝が落ちてきた。

数え切れないぐらい...

...。

考えるのはやめておこう。

疲れが出るだけだ。


「この坂を下れば、確か家だよね...」


やっと、家に帰れる。

そう思った。

坂を降りていく。

坂の終わりには明るい光が見える。


もうすぐだ。

もうすぐ帰れる。


「ついた...」


やっと家だ。

窓から出る光が...

...。

「...あれ?」

それは、幻覚だった。

「夢...?」

確かに、今は坂の終点にいる。

でも、そこにあるのは...

暗くてよく見えない。

触って確かめる。

「岩...だ...」

ただの岩。

何もない。

なぜ...?

「幻...覚...なの...?」

もう一度坂を登って頂上らしきところに行く。


「わぁっ!」

ドサリ

ガンッ

また転んだ。

真っ暗で何も見えない。


「もう嫌だよ...」


立ちあがろうとした時、足元に緑色に光る何かが見えた。

拾ってみると、それは無線機だった。

多分、落ちた衝撃で電源が入ったんだろう。

「ここで...試してみるか。」

この光は、15秒で消える。*あたりまえ

普通は見てもどうってことない、その光が頼もしく見えた。

「PTT」に指をあてる。

届くことを信じて、呼んでみる。

「カチッ誰かー...助けてー...ピッ」


誰も、答えてくれない。

もう一度。

「カチッ助けてー...ピッ」


だれも...


「ピッ...こに...の...ザッ」


!?


アンテナには指向性はない。

どこに向けたら最適なのかはわからない。

どこに向けても一緒だ。

そもそもアンテナはケースの中だから。

そもそも10mWが限界なのだから。

でも、わかる。

第六感が「こっちこっち」と叫んでいる。

受信感度を示すアンテナマークが次第に多くなっていく。

「ピッどこにいるの〜おーい!!ザッ」

走る。

あ、今度こそ光だ。

やっと...家に...帰れる...





b:「どこいってたの?心配したよ...」

s:「ちょっと逃げすぎたかなっっ」


z:「ごめんなさい。」

b:「いいのよ。ほら、今日はカレーにしているわよ。」

s:「やったー!!」


z:「...。」

こういうのは大人...いやいや、子供であっても(?)気が進まないものだ。


--セリフ追加--

s:さっちゃん

z:自分(健二)

b:さっちゃんのおばあちゃん


<o:さっちゃんのおじいちゃん>

--ここまで--


みんな:「いただきます!!」

うまい。

何十年ぶりかの手作りカレーはうまい!!

スーパーに売られているものがまずく思えてくる。

今まで半額弁当生活だった。

これは身に染みる...

これは完全無農薬で一つ一つ育ててくれた人参だ。

そしてこれは...


s:「そういえばおかわりいる??」

z:「うん!ってかそれさっちゃんのおばあちゃんのセリフだと思うけど...」

s:「いーのいーの」

b:「元気だねぇ...」

o:「いまたくさん食べて育たんと後がとれんぞ〜」

s,z:「いやだいじょうぶだから...」

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