家で

「ただいま〜」

「おかえり〜」

家に帰ると、なぜか優二の声がする。

「さては...先に帰ったな...?」

「イェッス!!!キリスト!!!」

「そのネタは散々聞いたよ...」

卒業してからも...とは言わないでおいた。

「聞いてよ、さっちゃんと話し合って今月のお小遣い全てパーになったよ...」

「本当に...?」

「うん、本当に。それじゃぁ!」

自分の部屋に行き、財布の中を漁ってみる。

SSDのレシートと1000円札2枚が挟まっていた。

それだけ。


「2000円あるだけマシか...」

途中の大分駅で何か買おうと思ったのに...

まぁ当たり前。

というかそれ以上だったら誰も乗れない。

「とりあえず、宿題でもするか...」

正直、簡単すぎて吐き気が来そう。

授業中もそうだった。

「どうしてこうなったんだよ〜〜〜」

嘆いても何も変わらない。

「あいつめ...」

ここに来る前に実行したMY_LIFE.COMのアプリのせいなのか?

いや、本当に死んだのか?

「転生モノじゃあるまいし...現実だったら怖いよ...」

はやくこの夢から目覚めて未来の自分に戻りたい...

なのに...


ガチャッ


不意に扉が開いた。


「どうしたの?さっきから「あいつめ」とか「どうして」とか言って.,..」

「あ、いやなんでもないよ...」

「なら、いっか!」

「うん!」


バタン


「ふぅ...」

なんとかやり過ごせた。

こんなことにはすぐ反応する。

昔の自分のPCを開く。

適当にインターネットへ接続してみるが、何と言っても遅い。

未来の自分は10TBps回線に慣れすぎている。

ここの速度を測ると、驚きの2MBpsだった。

「遅い!」

電車の時刻表の読み込みに3秒かかる。

未来ではこれが0.1秒もかからない。

「ADSLみたいでいいや!!」

そういうことにした。


「ふぅ...」

隣のベッドに横たわってみる。

懐かしい風景だ。

隣のマンションに、さっちゃんは住んでたっけ。


ちょうど3階で、自分の部屋の窓とさっちゃんの部屋の窓の高さが同じぐらいだったから自作のインターホンを繋げて話したこともあったなぁ...

他にも、ロープで部屋と部屋を繋いで、物を受け渡しして、お母さんに見つかったこともあったよなぁ...


「小学校が、懐かしいなぁ...」

「あっ!間違えた!」

こんなこと言うと優二の「言葉センサー」が反応するぞ...


「ご飯食べるよ〜」

下から声がした。

「今行く!!」

そう言って一階へ向かう。


「「「「いただきます!!」」」」

「よぉし、今日はカレーだ!」

「今日の野菜は家で採れたものだから、おいしいよ〜」

「ママ、ゆで卵とって!」

「ごめん、今日はないのよ...」

「えぇ〜もう!」

そんなに言ってもないのは仕方ないのに...優二のやつ...

でも、このカレーが大人になっても好きだったんだよなぁ...

お母さんの手作りだもの...


「カレーは辛ぇーけどウメー」

いやいや、優二のそれ寒いから。耳にタコができるほど聞いたよ...

みんなそれ知ってるから。

それにしても、手作りカレーを久しぶりに食べたからか、すごく美味しく感じる

やっぱり昔に戻ってここで生活したほうがいいのか...?

けれどもう未来では会社に勤めているからなぁ...


そして、宿題を3分半で終わらせ、その日は終わりにした。


翌日は、さっちゃんが音割れするほどの大きい声の放送をして、自分は昔を思い出しながら他の友達と話した。

無事に終業式も終わり、まぁ重い荷物を持ち帰って今日は終わりにした。


「そういえば、」


机の引き出しから、ある「モノ」を取り出す。

それは、液晶表示器 Vistinaだ。

型番はHG2A-SS22BF。

今は部屋の照明とコンセントの制御に使っている。


ちょうど小学校4年生だった頃、プールの設備が更新されることになった。

自分はその作業の様子をじっと見ていた。

取り外されていく機械、線が切られてトラックに投げ込まれる分電盤の設備、昔からある錆びてボロボロになった配管がバーナーで切られていく様子...

全て見ていた。

そして、分電盤で作業している人がシーケンサーを手に持った時、自分は思わずこう言った。


「それ、捨てるのだったらください!!!」


自分でも驚いた。

こんなことを自分は言っていいのか。

絶対ダメだろ。

工事の人から、驚いたような目で見られる。

耐えきれず、自分は「いや、なんでもないです。」と言った。

そして去ろうとした時。


「これいるのかい?」


後ろから声をかけられた。


「まぁ...うん...そうです。」

「なら、ここの中から好きなの取りな。」


そう言ってトラックの後ろに案内してくれた。

そして、真っ先に選んだのがこの「Vistina」と「Micro 3c」だった。

そのほかにも、24Vのリレー、電源、圧力センサ、電流計、押しボタンスイッチなど...

とにかくあるもの全て持って帰った。

気がつくと、ランドセルの蓋が閉まらなくなっていた。

そして、体操服の袋まで侵略していた。

今はこうやって大切に使っている。

他に使わない部品も、棚にしまってすぐ見れるようにしている。

もちろん、未来の自分の場所でも、大切に保管している。

未来の先週に、Vistinaの方が先に逝ってしまった。

原因はバックライト用高圧トランスの巻線ショート。

前から「パリパリ」という音とともに、バックライトが点滅していたのはこの前兆だった。

すぐに改造して、LED式に変えると普通に動いたのはいいものの、昔ながらのちょっと緑がかった液晶の色は失われた。

無機質な「単なる白色」になってしまった。

自分の中での、「液晶表示器」は消えてしまった。

ちなみに、micro3cことFC2A-C24A1Cは出力用に使っている。

どちらも、メンテナンスは欠かさず行なっているし、今でも使っている。

だが、こちらの方はタッチパネルが手垢とお菓子のカスや油で台無しだ。

ここにもあるなんて、懐かしい。


「今、動くかな...?」

「トン」

軽く触れてみる。

「ピッ」

素早く反応し、バックライトがついて「照明を選択してください。」という画面になった。

お父さんの知り合いから、数日間プログラムローダー/ライターを貸してもらって書いた回路図と画面だ。

試しに、「ダウンライト」のボタンを押してみる。

「ピッ」「カチッ」「カンッ」「ピーッ」

明かりがナツメ球だけになった。

「なるほど。」

どうやら照明のリモコンから線を取り出して、ボタンを押しているらしい。

子どもらしい考えだ。

「あるものだけで全て作ろう」の精神がまだ残ってる時だな...

今はPICマイコンとかでできるけれど...

そう考えていると眠くなってくる。

「おやすみ...」

自分はベッドへ向かった。

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