第46話 再開(第二章開始)

※ここから第二章、という位置づけになります。






初めて会った時のことは、ほとんど覚えていない。


それくらい、印象の薄い男子だった。


イケメンでもブサメンでもない、ごく平均的な顔面偏差値。


マッチョでもなければガリガリでもない、中肉中背の体躯。


ただやたら姿勢が綺麗だったことだけは記憶にある。


一学期の自己紹介の時、ナントかっていう古流の跡取りだってことだけは頭の隅に残った。


聖演武祭は有名だし、クラスの友達に付き合わされて一緒に動画を見たこともある。


でも流派の名前とかは知らなかったし、頭の隅に残った情報もすぐに忘れてしまった。


あの時までは。


あの時、私を助けてくれた日までは。


私はやーくんの家を訪ねようとしてる。


三年もたってどの面下げて会いに行けばいいのって思うけど。


今謝りにいかないと、永遠に謝れない。


以前助けてもらったのにひどいことを言ってしまった。


ネットのニュースでやーくんが聖演舞祭で準優勝したって聞いた時は、おめでとうって思う気持ちと同時に。前はごめんね、と一言謝りたい気持ちがあふれ出てきた。


画面越しに大舞台で日本刀を振るうやーくんの姿を見た時は。


絶対勝てないよ、そう思う大柄な相手に勝った時は。


胸いっぱいに、あったかい気持ちと熱い想いがこみあげて止められなかった。


やーくんの家の住所なんて知らなかったけど、大勢の剣道着姿の人が歩いていく後をこっそりつけて、見つけた。


古い日本家屋にかけられた、「柳生」の表札。


大勢の人の掛け声がしていたから、少し時間を置くことにする。


六時近くなって、ぞろぞろと中から人が出てくる。


「またねー」

「お疲れ様でしたー」

「ういっす!」


小さな子から礼儀正しい子、ちょっと厳つい男子まで。


やーくんの道場って、あんなにたくさんの生徒さんを抱えてたんだ。


知らない間にやーくんが遠くの世界に行ってしまった気がして。少し迷ったけれど、玄関の呼び鈴を押した。


「グーテン・アーベント」


今では珍しくなった木の格子とガラスの引き戸を開けて、金髪碧眼の美少女が姿を表した。


ハリウッド映画で見る金髪と違う、いやもっときれいで金の糸みたいな髪の色。


彫像のような顔立ち。アメリカ人っていうよりヨーロッパの人かな?

 

さらによく見なくてもメイクしてない。すっぴんでこの容姿とか詐欺でしょこれ?


カノジョ? いや……


外人なのを見て、悪い想像が浮かぶ。家を売りに出したのかもしれない。


聖演武祭で日本文化に興味を持った外国の富豪が、道場や敷地を丸ごと買い取ることもあるって聞くし。


でも、彼女は道着を着ている。


「アナタは…… 入門希望者ですカ?」


「アレクシアさん、何かトラブル?」


 続いて黒髪で、縁のない眼鏡をかけた今度は日本人女子が出てきた。


 さっきの子に比べて地味でやぼったいけど、大人しくて女の子らしい。刺さる人には刺さるタイプだろう。


 ってかこの子もめっちゃかわいいしい! 一体何、大会で準優勝してハーレムでも作ったわけ?


「どうかしたの?」


家の中から、三年ぶりに聞こえてくるその声。


ちょっとだけ低くなったけど、すぐにわかった。


「やーくん」


「美鈴……?」





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