第12話 前回優勝者登場
「柳生くんって、結構たくましいんだね……」
僕はまた、やらかした。
「中島さん、打ち合わせの続きを」
「あ、すいません。今行きます!」
彼女は立ち上がり、四菱工業の人たちと話し込んでいく。
自分の得意な話題のせいか、クラス内のカーストとかを気にしないで良いせいか、年配の男性と話すときの方が同じクラスの男子と話すときより堂々としていた。
マヨイガの調整が終わったので僕は一旦更衣室に戻り、道着から私服に着替えることにする。中島さんも彼女の分の調整は終わったので着替えてくると言って、武道場を離れた。
武道場の入場口で、別の選手の周囲にガラの悪そうな人を何人か見かけた。手伝いに来ている道場の後輩のようだ。
すれ違う大人たちには挨拶しているし、一応の礼儀はあるけれど。
周囲を威嚇するような視線、いからせた肩、声のデカさ、鬱屈が溜まっているような雰囲気。
会話の端々に聞こえる、下ネタ。
柳生流剣術をやる前の僕だったら、この場から逃げ出していただろう。
武道やっててもガラの悪い人はいるし、事件もある。
暴行、リンチ、凄惨なしごき、指導者による死亡事故など。
常識に反した考えだけど経験上、武道が人間形成に役立つとは思えない。多少体力がついて健康になるか、試合で勝って自分に自信が持てるくらいの効果はあるだろうけど。
それくらいなら他のスポーツでもいい。わざわざ人を傷つける練習をすることもない。
武道場を離れるため彼らの横を通り過ぎただけの中島さんは、彼らが大声で笑ったり話したりするだけで肩を震わせていた。
やがて彼らの関心が、中島さんから別の入場口に移る。
「終わりましたカ?」
スーツ姿のアレクシアが場の注目を集めながら歩いてくるのが見えた。
根元だけが黒いエセ金髪とは比べ物にならない輝きの金糸の髪、ハリウッド女優もかくやというほどのスタイルと容姿。
会場の男の半分以上から舐められるように見つめていたが、アレクシアは意に介した様子もない。
まるで動物園で猿の群れを眺めるかのような表情で僕のほうに歩いてくる。
周囲の視線がアレクシアに対する欲望と羨望から、僕に対する殺意へと変わった。
やだな、こういうの。
「うん、ちょうど中島さんと四菱工業の人たちに調整してもらったところ」
努めて周囲の殺気を無視して、なるべく感情をこめない声で話す。
別に彼女と特別な関係なわけじゃないと言外にアピールしながら。
「さすがはアヤ、シーメンス社が目をかけているだけはありまス」
だが周囲の嫉妬の視線は収まらず、速めにこの場を逃げ出そうと考えた時。
周囲からざわめきが起こり、僕たちを緩やかに囲んでいた人の輪が割れていく。アレクシアに集まっていた視線が、その存在に向けられていく。
金糸の髪と女優以上の美貌を持つ彼女以上に、賞賛と羨望を集める存在。
聖演武祭前大会優勝者、北辰葵だった。
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