塔の錬金術師
りゐと〼
始まりの日
始まりの日
「ふぁぁ。」
間の抜けた欠伸が室内に響いた。
陽の光が室内にまどろみを届けるそんな昼下がりに塔の主は呑気に今日の予定を考える。
「よし決めた!冒険に出よう。」
塔で産まれ育った彼はその日一大決心をする。
腰掛けていた椅子から勢い良く立ち上がると早速とばかりに行動を開始した。
先程と同じ様な昼下がり、所謂、前世の記憶というモノを何の前触れも無く思い出した。
現代日本のごく普通のサラリーマンだったレインは、ある日ファンタジーの様な見た目の塔の中で覚醒した。
見た目は8歳前後のまだ幼さの残る容姿の少年は辺りを見回して呟く。
「どこだここ?...」
最後の記憶は修羅場だった案件がようやく終わり、同僚と打ち上げということで飲みに行ったとこまでだった。
周りを見渡せば見た事も無いような器具と見た事もない文字が書かれた書類が乱雑に置かれ散らかってる部屋であった。
「異世界転...生?」
良くある定番の小説主人公よろしく、自身の置かれた状況を把握しようと思考をフル回転させる。
「なんじゃレイン?...惚けた顔をして?...腹でもすきよったか?」
爺さん言葉を使うには若い過ぎる見た目の男がレインに問い掛ける。
「あ...いや...」
しどろもどろになりながら返事をする。
(そうだ俺は...)
混乱していた思考が一気に澄んでいく。
「そ...そう!腹が減ったんだ!もういい時間でしょ?」
誤魔化す様に応えると、やれやれといった様子で爺さん言葉の男は書き物を止め立ち上がった。
用意された食事を平らげながらレインは思い出していた。
(異世界。此処は深い森の中にある塔。魔法に魔物、完全なファンタジーだよな...)
今までのレインの記憶と前世の記憶の二つに混乱しながら自身に落とし込んでいく。
(目の前の男は...俺の爺さんでベル爺...)
ちらりとベル爺を見る。
ベル爺と言われた人物の見た目は若くとても爺さんという年齢には到底見えない。
ベル爺はこの塔に住み日夜、錬金術の研究に明け暮れていた。
「なんじゃ?」
視線に気付いたベル爺が尋ねる。
「いやぁ...とても200を過ぎた爺さんに見えないなって...」
「なにを今更、当たり前なことを...ワシらはエルフじゃぞ?」
エルフ、この異世界に存在する種族。
ヒトより優れた容姿と寿命を持ち、森と共に生きる。
大昔に起きた戦乱によって数を減らし部族の連携は途絶えた。
「そうだけど...俺はベル爺以外、同族を見た事ないし...」
レインとしての記憶を掘り返しても、物心ついた時から2人で生活していた。
たまにする外出も近隣の森へ出かけ、研究に必要な薬草を採取するだけ。
見た事のある生き物など、森を駆ける魔物くらいであった。
「昔は同胞もおったんだがのぅ...」
遠い記憶を懐かしむ様にベル爺が呟く。
今は塔しか建っていないこの場所はかつてエルフの里として多くのエルフが暮らしていた。
栄枯盛衰。
大戦乱によって遺されたのは塔とエルフの2人だけだった。
自室のベットに寝転んだレインはこれからからの事を思案していた。
(この世界での俺はエルフ...)
まだまだ現世のレインは知識は浅く、身体も育っていなかった。
(まずはこの世界についての情報と...やっぱ魔法だよな!?)
突然の異世界転生で初めこそ混乱していたレインは強烈にこの世界の魔法、ファンタジーに心惹かれていた。
(何故異世界転生したのかは良く分からないけれど...)
不意に手を上げ、握っては開くを繰り返す。
(生きよう...)
前世の俺は平凡な人生だった。
やりたい事も無く、才能も無かった。
レインにも才能があるか分からない。
けれど、折角の異世界転生。
少しだけ頑張ってみようと思うのだった。
塔の錬金術師 りゐと〼 @litomasu
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