ドールオブリグレット

@tow1792

1  男は無知で、そして幸せだった。

2  男は野に放たれ取り返しようのない後悔を抱いた。

3  男は嫉妬と怒りを抱き、消えない終わりを創り出した。

4  男はそれを見て、あってはいけないものだとした。

5  男は善く生き、365年生きた後、神とともに歩み、神にとられていなくなっ   

   た。

6  神にとられて男は初めて世界を見た。

7  男は、世界は後悔で満ちていると悟った。

8  男は目を覆った。暗闇である。


9  彼は神の隣を去り箱庭を創った。

10 厳重に壁を築いてて何者も入れず、何者も出られないようにした。

11 彼は箱庭におびただしい数の棺を並べて、そして灯りを消した。

12 真っ暗でちっぽけな箱庭を見て彼はそれをよしとした。



 ───これでよい。これでよかったのだ。善きものも悪しきものも存在しない純一な世界。これこそがヒトの、主の悲願であったのだ。

 だがしかし…… 静かだ。静かすぎる。これでは彼岸と変わらないではないか。

 何かが欠けている。何が欠けている。この世界は、この世界だけは完全に創り上げたはずなのに何故こうも違和感を覚えるのだ。足りない。何を忘れてしまった。気付きを得たくとも訊ねる相手などもういない。そんなものはとっくの昔に不要としてしまっていた。


 傍らには唾棄すべきものと切り捨てていったガラクタの山。男はその中に答えを探して手を差し伸べた。

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