はじめまして配信⑤
プロフィール項目を無くし、再び北ノ内 べいかをモニターの正面に据える。私たちの今後の配信目標を高らかに宣言する為だ。
『えー次は今後の目標、ですね。んー色々あるねー、どれからにしようか——』
細かいことまで含めると本当に際限がないから、ここは明確なものを掲げないとだね。北ノ内 べいかの将来が掛かってるしね。
『——うん。最初は私、北ノ内 べいかのことをもっと沢山の人に知って欲しいかな。それから楽しい配信が出来ることが一番。
その結果としてチャンネル登録者数とか、再生回数とかが増えて新しいお洋服とかアクセサリーを身に付られるようになりたいし、今より一次元上の3D世界にも行きたいな……なんて思ってたり。個人じゃなかなか厳しいけど、掲げるのは自由だから——』
建前も無く、【バーチャルベース】の配信者としての野望は、他の配信者も同じようなものじゃないだろうか。
世間に認知されて、楽しい内容を考えて気ままに配信して、目に見える結果を手にして、また私の好きなことに注ぎ込む。
もちろん口で言うほど簡単ではない。けれど実現したときはきっと飛び上がり、思わずマウスを紛失しかねないくらいきっと喜ぶ。
【バーチャルベース】配信者として継続する為にも、それらは大事だ。でもこれだとまだ、私が配信を始めようと決心したときの願いの全てじゃない。胸に手を当て、トーンを僅かに抑えながら付け加える。
『——あとはね。私はちっぽけな存在かも知れないけど。配信してることで、観てくれる人たちが、今日がちょっとだけ幸せな一日だったなー、良かったなーって、思って貰える場所になれたら、私はなにより嬉しいです』
さっきよりも声が高くなって、震えている自負がある。どんな反応だろうか。これが偽善だと言われてしまうのは仕方ないし、受け入れた上での台詞だからこそ、怖い。
それでも。私の描いた北ノ内 べいかを通じて、現実ではどうしようもないダメ人間扱いの私でも、誰かの好奇心を掻き立て、憂鬱や暗澹がうっかり忘れてしまうようなひとときを届けられるのは、素敵なことだと思う。
本当は自分自身の人生設計をどうにかしないといけないんだけど、子どもの頃から私は、一緒にいる子の和やかな表情が大好きだ。そんな姿が見たくて目一杯、あどけない振る舞いをしていたよね。
この純粋な気持ちをいつまでも、どんな形でも忘れない大人で有り続けたい。
どうすれば良いのかは、まだ迷ったままだ。それでもとにかくやってみないと。
金髪少女に憧れた子どもの私は、そうやっていままで、生きてきたんだもんね。
『……うん、今日が初配信の小娘にはまだ早いよって言われちゃうかもですけど、夢を語るのも自由だよね? 以上が私の目標です』
北ノ内 べいかが、ご清聴ありがとうございますのという感謝の念を込めて会釈する。ただ、私とリンクした動作にも限界があるから、みんなの視点だと若干前傾しただけかもしれない。どうなのかな。
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フラ太郎〈この配信に出逢えて幸せです〉
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「……」
私は言葉を失ってしまう。それは悲愴感から来るものじゃ無くて、今最も欲しかった言葉を、不意に理解してしまったからだ。
狼狽えてる間に、他にもコメントが流れて来る。〈楽しみにしてます〉、〈ちっぽけ……これからビッグになりましょう!〉、〈自由だー〉、〈いんでねぇー?〉、〈陰ながら応援させて頂きます〉、優しい言葉がいっぱい並んでる。
私はミュートにして考えをまとめようか迷う。でも結局、そのキーは押さなかった。このざわめきを隠す必要はないと思ったから。
『……ありがとね、みんな』
それは北ノ内 べいかの台詞なのか、私の台詞なのか判らない。
バーチャル配信者としてはキャラクターを演じることに徹しないといけないかもだけど、あまり気持ちを偽るのは得意じゃない。そのせいでキツネキャラだから語尾を付ける案が白紙になったのは、みんなには秘密にしないとだろうね。
何はともあれ。どちらにせよ、私たちの率直な胸の内が溢れたもの。北ノ内 べいかの薄桃の口角が上がっているのが証明だ。
顔に出やすいと、昔からよく言われる。こんな形で反映されてるとは想定しなかったけど、まあいいかな。
『うん、目標と……今後の展望になっちゃったかも? いいかな、はい以上になります。それでは最後、さきほどまであったプロフィールでシークレットになってたところですね』
私はマウスをクリックして、北ノ内 べいかの微調整をする。カメラとのリンクも相変わらず良好、豊かな表情、準備は万端。
『えー……それでは皆さん、これから私と、遊んでくれますか?』
北ノ内 べいかは細く白い首を傾げて、問い掛けの返答を待ち続ける。私はその間に、予め設定したキーボード配置が示されたメモ用紙を確認して、ちゃんと作用するかどうか息を呑みつつ、指先で押す。
すると北ノ内 べいかは、私とのリンクから逃れ、草原を駆け巡る少女のような開放感漂う微笑みと共に天井を仰ぎ、反動でホワイトブロンドの毛先が
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