第17話 ダン先生の突発青空魔法講座ということでひとつ
透輝の魔法は俺が多重に展開した魔法障壁に阻まれ、地面の砂を少し巻き上げただけで何も起こらないまま消えていった。
「なんで!?」
「魔法の才能はあるが実戦不足だな。大きな魔法をただ展開するだけならこっちはいくらでも対抗する手段を練る時間がある。必殺の魔法を使うならあらかじめ用意するか、不意を突くか、体術で組み伏せてからやらないとな」
指を鳴らす。パチリと乾いた音が誰もいない廃アパートの裏庭に響く。
「
隠して詠唱していた魔法を呼び出す。足元から突き出した二本の槍が透輝の両足の甲を貫く。自在に対象を変える闇の槍はしっかりと透輝の自由を貫いている。地面と完全に縫い付けられた足は簡単に抜け出せない。
「こんな感じで、仕留めたと勘違いした相手の気の抜けた瞬間を狙うとかな」
「なるほど。それで天河おじさんに捕まったのか」
「うるせー。四秀家の長がわざわざ来るとは思わなかったんだよ。口の減らないガキだな」
両足が不自由になっても透輝の戦意は少しも削がれていない。復讐という言葉は嘘じゃない。刺し違えてでも俺を殺すという殺意がありありと浮かんでいた。
「それで、私をどうするつもりだ? 殺してさらに罪を重ねるか?」
「俺は殺しだけはやらねえ。それより六年前って言ったな? 十年前の子どもがお前じゃないのか。あれはいったい誰だったのか、お前は知ってるのか?」
「覚えていないバカに話すつもりはない」
「どっちがバカだ! 俺のトラップにまんまとハマって動けないのはお前だろ!」
「隠れ家をあっさり見つけられて、背後をとられた方がバカに決まってる!」
お互いに言いたい放題言い合って、論点はいつの間にか復讐だとか過去の事件だとかからどんどんと離れていく。
「そもそもお前の魔法の名前、ダサくないか? なんだよ、
「人のこと言えるか!? お前だって変わらないだろ!」
「俺のは師匠が勝手につけたせいで変えられねえんだよ!」
「私だって琥珀が
あぁ、面倒くさい。もうこいつの今日の記憶を消して解放するか? また襲ってくるかもしれないが、こんなあっさり捕まってくれるひよっこじゃ脅威にはならないだろうからな。
まだ不満そうに俺を睨んでいる透輝は、さっきよりは少し落ち着いたように見える。これだけこっぴどくやられたわけだ。ここでまだ策もなく突っ込んでくるほどバカではないらしい。
それに、こいつは瑠璃の幼馴染だ。下手に記憶をいじったら俺を見たときにおかしな反応が出るかもしれない。そんなとき瑠璃が透輝を本気で心配する顔が浮かんできた。
「もういい。お前は帰れ」
「くっ、殺せ! 敵の情けは受けない」
「そういうのいらねえから。俺は殺しはやらねえって言っただろ。それに、今は水原家の使用人だ。四秀家同士で揉め事を起こされても困る。今日は俺がお前に魔法使いの戦い方を指導してやった。いいな?」
透輝の足を貫いていた槍が消える。物理的なダメージはないはずだ。
「今日ここで私を殺さなかったこと、いつか後悔させてやるからな!」
きれいな捨て台詞を残して、透輝は民家の屋根を飛び移って去っていった。
あいつが俺のことを通報すれば、すぐにでも魔法警察は水原家に飛んでくるだろう。そうなると俺はあそこにいられなくなる。だが、パーティの一件を俺のせいだとすれば瑠璃が闇魔法に覚醒したことはバレずに済むか。
「せめて口止めくらいはしておくべきだったか」
透輝が逃げた先を見てみるが、当然奴の姿はない。諦めて俺は他の拠点の片付けを進めるために次の隠れ家に向かった。
すべての隠れ家を撤去して水原家に戻ってくると、ちょうどイヴが玄関先の掃き掃除をしているところだった。
「戻ったぞ」
「戻ったぞ、じゃない。帰りが遅いから貴様が魔法警察に待ち伏せでもされて捕まったのかと思っていたぞ」
イヴがホウキを投げ捨てて駆け寄ってくる。
「大丈夫だったか? ケガはないか?」
俺の手や顔をベタベタと触って、そんなことを聞いてくる。俺が嘘をついているとか逃げ出そうとしているとかなんて
「何を笑っている。貴様のせいで今日の仕事がまだ終わっていないんだ。夕食は食べてきたのか? まだなら冷蔵庫にまかないが入っているから、それを食べたら皿洗いをやってくれ」
「わかった。任せとけ。そのくらいすぐに片付ける」
「ダン、やっと帰ってきたのですね。お休みはいいですが、きちんと行き先や連絡先を伝えてもらわないと。心配で宿題にも手がつきませんでした」
声が聞こえたのか、瑠璃が玄関に飛び出してくる。後ろには琥珀も続いていた。
家族を捨てて闇魔法使いとして生きると決めたときから、もう仲間や家族はできないと思っていた。安住の地なんて二度と見つかることはなく、闇に紛れて逃げ隠れながら生きていくしかないと思っていた。
まさかこんなところで、しかも天敵である聖魔法使いに帰りを待っていたと言われるなんて思ってもみなかった。
「あぁ、ただいま」
俺は小さく答える。この幸せは束の間の幻覚だとわかっている。それでももう少しだけ浸っていたいと思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます