心震えるミントの香り

阿紋

前奏曲1

 そろそろ梅雨も明けたかと思わせるような日差しが照り付ける蒸し暑い日曜日。僕はパジャマにしている短パンとTシャツのまま、万年床となってしまった布団の上にウダウダと寝転がってFMラジオから流れてくるボサノバを聞いていた。

 窓は全開。レースのカーテンが風に揺れている。ウトウトとまどろみかけたとき、玄関のブサーが鳴った。居留守を使ってもよかったけれど、宅配便かなあ。最近通販で買い物をした覚えはない。フラフラと立ち上がってドアを開けると少しうつむいて立っている女性がいた。

「おねえさん」

 姉といっても実際には義理の姉だった人で、今の僕とは何のかかわりもない。僕は少し待ってもらって、万年床を部屋の隅に押し付けた。そしてこたつ兼用のテーブルを隣の部屋から運んでくる。

「突然ごめんなさい」そう言った元姉の態度から、この訪問が彼女にとっても突然の出来事であることがうかがえた。しかも嫌々仕方なくという感じだ。

 元姉は出されたあまり冷えていない麦茶には手をつけず、ずっと黙っている。言うべきことを言いだせずにいるようだ。

「あいつは元気ですか」

 息苦しい雰囲気の中、僕は思わず別れた元嫁のことをきいてしまう。別に気にかけていたわけでは全然なかったのだけれど。

「多分元気。あたしも最近会ってないから」

 姉妹の仲が悪いわけではなかった。少なくても僕があいつと暮らしていた頃は。そういえばあいつが家を出ていってからは、お姉さんとよく会っていた。元嫁の代理人として。

「ごめんなさいね」

 そう、この言葉を何度聞いたことだろう。元姉は姉といっても年齢は僕の一つ下。元姉と元嫁は姉妹といっても外見はあまり似ていない。性格も全然違っていたし。

「場所を変えませんか、近くにいい店があるので」

 この雰囲気にこの蒸し暑さではね。

「この部屋は風がよく通りますね」

 僕はお姉さんの笑顔を見たことがあっただろうか。あいつと違って感情の起伏の少ない人だし。控えめに微笑んでいるところしか見たことがないような気がした。

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