モグ 4【生活のために働く編】

嶋 徹

第1話 神様はモグと1Kに帰れない

 ド―ムみたいな宮殿の片隅で……


「モグ、しりとりしようか?」


「いやよ。負けたらデコピンでしょ?」


「そう。あ~、暇だ!死にそうだ!」


「暇で死んだ1人目になれ!」


「モグ、あの戦いから1年がたったよ!」


「早いわね!」


「そしてこの1年、な~んにもない!」


「いいことじゃない。平和だということよ」


「平和なもんか!地球だけでも戦争をやっていない期間はないんだぞ!」


「どうしたいのよ?」


「地球に帰りたい!閻魔に有給やらないといけないし!」


「その件は段取りしたんでしょ?」


「閻魔だよ?段取り通りにやれると思う?やれるなら初めから自分で休める仕組みを作ってるよ?」


「今のてっちゃんは地球だけでなく全宇宙を観ないといけないのよ!」


「それはわかってるよ。でも僕が望んだ人事ではないんだ。阿弥陀仏が決めたことなんだよ」


「自分の気持ちより阿弥陀仏様のご意向が優先されると思うけど……普通はね?それにこれ以上の人事、MAXはないもの。あなたくらいよ文句を言うなんて!」


「だから人事は全うする。ただ地球に住むだけなんだ。有事には対応する」


「…………わからん」


「モグ、頼むよ、一緒に地球に帰ろう!」


「でた。一緒に。一人で帰ればいいやん!」


「…………なんで。前は食事の準備、洗濯!掃除、買い物etc忙しかったけどモグは生き生きしてた。この1年見てきたけど何にもしていないやん。なんか歳だけとってる感じがする」


「……だってする必要がないんだもん!」


「僕はいやだよ。何もしないで歳だけとるなんて。いつの日にかは死ぬんだもん。転生してまた、千手観音になるんだろうけどね!」


「また、貧しい生活をするのは、いや」


「やってみないとわからないじゃないか?それにこんな所でぬくぬくとご馳走食べて、太って、何不自由ない生活をしていたら、いざ、というとき使い物にならないよ!」


「……うん。それはそう思う」


「うん。阿弥陀仏に話してみるよ。まぁ、許可を取る必要はないんだけど……」


「わかった。身仕度はしておく。昔から荷物は布団だけだけど……」


「頼むよ。いつも勝手言ってごめん」


「いいの。なれてるから……」



──────────────────☆


 阿弥陀仏の隠居家(夢想庵)にて、


「阿弥陀仏、お邪魔して宜しいですか?」


「いいよ」


「(気楽な隠居くらしか!)はい」


「どうされた?千手観音様?」


「いや、西方極楽浄土に来て1年。何も危機的な状況もなく過ごさせてもらいました。ここらで一旦、地球に帰ろうと思いまして……」


「千手観音様?この1年何もしなかったのですか?蔵書は山のようにあり、心身を鍛える場所も事欠かない?ここで出来なかったことが地球ならできるのですか?日常生活をしたいのかな?モグのために?あなたは全宇宙の神の神。浅はか過ぎて話にならない。どうしてもというのならまた、私が神の神、阿弥陀仏をやりましょう。私はいつでも準備が出来ていますからワッアアア。私は隠居した身。お好きになされよ」


「……………………くそじじぃ」


 千手観音は修業した30年間を思い出していた。あの時もブッダに背中を押してもらった。そして、今、阿弥陀仏に背中を押してもらっている。

 相手を打ち負かすために心身を鍛えるのではなく、相手の戦意を無くすために鍛えるのではないか?

 知識は見せびらかすために付けるのではなく正しい選択をするために必要なのではないか?


「慢心」

のぼせ上がっていたのではないか?

ご馳走は食べ尽くしていたから、また同じ量で出ていたのではないか……


「しまった。1年を無駄にしたのは僕のせいだ……」


宮殿に戻り、

「モグ、地球に帰えるのは延期だ」


「え?! はい」


「それと食事の量は今までの半分以下とし貧しい頃の量と同じにする」


「はい」


「それと出来る範囲で裏方の手伝いをしなさい」


「はい」


「私は千手観音の究極奥義、千手48本転生をマスターする。地球に帰るのはそれからだ」


「はい」


 それからふたりの生活は一変した。

 阿弥陀仏は「にやり」とし自分の人選に間違いがなかったことを確信した。

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