大叔父様の目には、その先にあるであろう遺産しか写っていないようでした。

 暗い階段を下りて行くと、やがて開けた部屋に到着しました。


──ゴゴゴゴー!


 階段の上部から何かが動く音がしました。

 どうやら隠し扉が閉まってしまったようです。わずかに差し込んでいた部屋の明かりも完全に掻き消えてしまいました。

「この先か……」

 それでも、大叔父様の目には、その先にあるであろう遺産しか写っていないようでした。


「おい!」

 大叔父様は横柄おうへいに声を上げるとあごをシャクリ、トレジャーハンターたちに指示を送りました。

「ああ……」

 呆気に取られつつも、トレジャーハンターたちはうながされるまま、歩き始めました。

 そして──。


──カチッ!


 一人が、何やら床に仕掛けられたスイッチを踏んでしまいました。


「がああああぁぁぁっ!」

 その瞬間、恐ろしい事態が起こりました。

 恐らく、壁に罠が仕掛けられていたのでしょう。矢が放たれ、トレジャーハンターたちの体を抜いていったのであります。


「ぎゃああぁぁぁあ!」

「わあぁぁあ!」

 それでも、即死するわけではありません。阿鼻叫喚あびきょうかんとなったトレジャーハンターたちが、矢の雨を避けるために部屋の中を駆け回りました。


──カチッ!

──カチッ!


 そのたびに新たな罠が起動し、トレジャーハンターたちを襲ったのでありました。

 落とし穴で地の底に落とされ──突き出した針に串刺しにされ──転がって来た大岩に押し潰されていったのでありました。


「情けない……」

 そんな凄惨せいさんな光景を前にしても、大叔父様に怯えた様子はありません。むしろ、名ばかりで脱落していく体たらくなトレジャーハンターたちをなげいたものであります。

「遺産は、俺が手にするんだ。あいつの考えていることなら、だいたい分かるさ」

 大叔父様は自信たっぷりに前に歩き出しました。

 さすが──というべきか、罠のスイッチを華麗に避けて歩いていました。


 部屋の中腹辺りに来たところでありましょうか。


──ヒュウゥゥッ!


 一陣の風が吹きました。

 お陰で、大叔父様が持っていた燭台の火が消えてしまいました。

 これにはさすがの大叔父様も動揺したようです。

「おい! 誰か、明かりを灯せ!」


──しぃーんと部屋の中は静まり返っており、誰からの反応もありません。

「おい! 返事をしろ!」

 大叔父様は再び呼び掛けました。

──応える者はありませんでした。

 どうやら、あんなにも居たトレジャーハンターたちは全滅し、残るは大叔父様一人になってしまったようでありました。

「ひぃぃいっ!」

 暗闇の中、大叔父様も恐怖心が込み上げてきたようであります。

 しかも、此処は部屋の真ん中──周りには罠がいっぱいなのです。前に進んでいる場合ではありません。ここは一度戻って、態勢を立て直すべきでありましょう。

 きびすを返して大叔父様は、ゆっくりと来た道を戻って行きました。


 一歩一歩慎重に、足を前へと出していきます。


──カチッ!

 それでも、暗闇の中では判別が付きません。床のスイッチを押してしまい、罠が発動する音がしました。

──ガシャーン!

「ひぃいいいいいぃっ!」

 それでも、大叔父様は強運の持ち主なのかもそれません。

 上手く罠を掻い潜って、階段のところまで戻って来ることができたのであります。

「ふん、驚かせおって」

 強がりを言って、大叔父様は鼻を鳴らしました。


 これで、後は階段をのぼって戻るだけであります。


──カチッ!

「なんだと……!?」

 完全に油断しておりました。

 行きにはなかったはずの、階段に罠のスイッチがあったのであります。


──ヒュンッ!

 今度こそ、大叔父様の強運は尽きたのでありました。

 暗闇で、何が起こったのか大叔父様には分かっていないようでありました。

 ロープで吊るされた刃物が振り子の要領で動き、大叔父様の体に激しくぶつかったのでありました。


「ぐあああぁぁあぁああ!」

 大叔父様の悲鳴が、暗闇の中で反響したのでありました。

──カチッ!

——ドオォォォォン!

──バッタンッ!

──ガッシャンッ!


 そして、様々な仕掛けが発動し、大叔父様を襲ったのであります。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る