第7話 偽ピョン吉
トボトボと落ち込みながらロンダ子爵家の屋敷に向かって歩いていた。
まさか自分が音痴だったなんて……。
今日だけで様々なことがあったけど、何と言ってもシャル王女達に指摘されて、初めてその事実を私は知ったのである。
気を遣われているのが逆に辛いわ……。
慰めの言葉などいらない。
シャル王女達もそれが分かっているのか、黙って気を遣って後ろからついてきていた。
こんな時にシルちゃんがいてくれたら……。せめてピョン吉でも良かったのに!
シルちゃんをモフるだけで気分が不思議なほど落ち着くのである。でもシルちゃんはテンマ先生がよくモフっているので、代わりにピョン吉のタプタプとした体で癒してもらうこともあるのだ。
でも……、どちらもいないのよね。
テンマ先生が王都を離れる時にシルちゃんだけでなくピョン吉も連れて行ってしまった。元々ピョン吉は
仕方ないからゆっくりとお風呂に入ろう!
そんなことを考えていると、ちょうど屋敷の門に到着する。辺りは少し暗くなり始めていて、こんな時間に来訪者などいないので門番もいない。頭の中でエステも受けようと思いながら門を開こうとする。
えっ!
気配察知で真横から近づく存在に気付く。
すぐに横を振り返ったのだが、相手の動きが早すぎて振り返ると同時に懐まで入られてしまった。
あっ、この感触! ピョン吉!
相手は私の腰の辺りに体当たりしてきた。それを受け止めたことで数メートルもずり下がった。幸い相手はそれ以上何かするわけではなかったみたいだ。
うふふ、このポヨンとした感触はまさしくピョン吉ね!
あれっ、子供! 髪の毛が……。
ピョン吉に体当たりされた感触とそっくりだったけど、腰回りに抱きついているのはちょっと丸みを帯びた体型の子供に見える。
ピョン吉じゃないと気付いて混乱していると、相手は抱きついた状態で顔を上げる。
か、可愛いじゃない!
いつも渋い顔をしているピョン吉と違い、顔を上げたのは可愛らしい顔をした少女であった。ちょっとぽっちゃりしているけど、顔自体は間違いなく可愛いい。
そして何と言ってもほっぺたが赤ちゃんのようにポテッとしていて……。
ヒョッホォーーー! ピョン吉みたいにポヨンとして気持ちいい!
無意識に少女のほっぺたを両手でタプタプと感触を確認してしまった。
「お主がテックスの弟子か?」
声も可愛いぃぃぃ!
話し方は子供っぽくないけど、声は見た目とあった可愛らしい声で、瞳に涙をためて必死な雰囲気で尋ねてきた。
「弟子というか生徒かしら」
ほっぺたの感触を堪能しながら答えると、シャル王女が横から話しかけてきた。
「マルゴット姫様、なぜこのような場所においでなのかしら?」
えっ、姫様!? タプタプで癒されるぅ~!
ポヨン少女が姫様と聞いて驚いたのに、ほっぺたから手を放すことができない。
「その方の父であるヴィンチザート国王がテックスを紹介してくれないではないか。臣下に命じて調べて、テックスの弟子に会いにきたのだ!」
マルゴット姫は私がほっぺたを両手で触っているので、シャル王女には視線だけ向けて話した。
声を出すたびにほっぺから伝わる振動でさらに手を離せなくなる。
「一国の王女であるマルゴット姫様が、たった一人で出歩くなど危険ではありませんか?」
「一人ではない!」
マルゴット姫がシャル王女の問いかけに答えると、まるで陰から姿を現したように従者の二人姿を現した。
女性? 小さいだけ?
1人は大きなハンマーのような武器を持ち、もう一人は身体に不釣り合いの大剣を背中に背負うようにしている。だがどちらも顔は大人の女性らしい顔つきだが、身長はマルゴット姫と大して変わらない。
「姫様に対して失礼ではありませんか?」
ハンマーを持つ従者が不満そうな表情で私に向かって言ってきた。
「アーリンさん、確かに失礼ですわ。その手を離しなさい」
シャル王女に言われて渋々ほっぺたから手を離した。しかし、いまだに抱きつくマルゴット姫様の顔を見ると、またほっぺに手が出そうになり必死に我慢する。
その様子を見ていたマルゴット姫様は嬉しそうに微笑んでから言った。
「私の願いを聞いてくれるなら、好きなだけ触っても構わないぞ!」
まあ、本当に!
「ダメですわ!」
思わずほっぺに手が出そうになったが、シャル王女とドナが私の両腕を押さえてしまった。
「何でよぉ~?」
私は手を押さえたシャル王女達に懇願するように尋ねる。
「あなたはお願いの内容も聞かずに何をしているのかしら。もしとんでもない要求だったらどうするの?」
シャル王女に諌められ、私も自分がどれほど危険なことをしようとしていたか気が付く。どうやら相手は他国の姫様みたいだし、そんな相手のお願いを私が叶えられるかと考えて恐ろしくなる。
くぅ~、偽ピョン吉に騙されるところだったわ!
今も私に抱きつきながらプルプルとほっぺたを揺らして私を誘惑するマルゴット姫を見て、必死に手が出そうになるのを我慢するのであった。
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