第4話 半端なくて心配
十歳前後の可愛らしい少女や少年が真剣な表情で踊っている。
いつの間にか礼拝堂は歌や踊りの
「踊る時も笑顔を絶やさないで! せっかく可愛らしい顔をしているのにもったいないわ!」
「「「はい!」」」
土地神様の指示でみんな笑顔を見せて踊る。
土地神様の提案で、お披露目や他のイベントでも人々に土地神に親しんでもらうために、歌や踊りを披露することになった。最初は名案だと思ったけど……。
「うふふふ、そうよ、その笑顔よ!」
土地神様の笑顔は恐ろしいわね……。
土地神様の熱の入れようが半端なくて心配になる。
「あそこのお嬢ちゃんは
え~と、本来の目的を忘れていない?
女の子にはバルドーさんの嫁候補として厳しい視線を向けて、男の子は……見ながら涎を拭うのだけはやめてほしい。
子供か孫のように子供達を見ていると信じたい……。
「うふふ、恋愛禁止を徹底させなくてはね……」
わ、私は何も聞いていない!
土地神様の呟きに耳を塞ぎたくなり、子供達の未来が心配になる。
シャル「私はあの子がお気に入りよ!」
ドナ「殿下、あちらの子も悪くないと思います!」
シャル「そうねぇ~、でもあの子はちょっと成長しすぎてるかしら?」
ドナ「う~ん、そうですか……」
ダニ「私はあの子がいいです!」
シャル・ドナ「「あれは女の子よ!」」
ダニ「えっ、問題ないですよね?」
シャル・ドナ「「…………」」
王族や貴族の趣味嗜好はこれが普通なのだろうか?
シャル王女達も目的がずれている気がする。私達がレッスンを見る必要はないのに、今日はシャル王女に無理やり連れてこられたのである。
いや、これ以上この件には触れないようにしよう!
礼拝堂での最初の会議からすでに二ヶ月ほど過ぎた。土地神様のお披露目もあと少しで開催される予定である。
すでに土地神グッズも大量に納品され、その影響もあるのか王都は驚くほど活気に満ちている。
「学園の再開は順調に進んでいるのかしら?」
「それは大丈夫よ。土地神様のお披露目のお祭りが終わったら学園も再開されることになっているわ。もう私達が手伝わなくても問題はなさそうよ」
シャル王女は気に入った男の子から視線を外すことなくそう答えた。
確かに私は暫く学園長から助けを求める呼び出しをされることはなかった。それだけ順調に学園再開の準備が進んでいたのだろう。
でも……、私が学園に通っても学ぶことはないよね。
自分が監修した教科書で勉強するのはさすがに馬鹿馬鹿しい。それは分かっているけど、学園生活を楽しみにしていたのも事実である。
「そういえばアーリンさんに特別講師をお願いしたいと、学園長から依頼があったのでは?」
と、特別講師! そんなこと聞いてないわよ!
ドナがシャル王女に思い出したように尋ねた。それを聞いてシャル王女はようやく子供から視線をはずして私を見て話す。
「そ、そうだったわ。でも十日に一度だけにするように言っておいたから、問題ないでしょ?」
問題あるでしょ!
「嫌よ! 私は普通の学生になりたいのよ!」
「「「普通の……」」」
なんで三人共そこで声を揃えるのよぉ!
「アーリン、そんな夢は捨てなさい! もうあなたは普通の教師になることすら不可能なのよ!」
「そんなぁ~!」
シャル王女の指摘に私は落ち込むのであった。
◇ ◇ ◇ ◇
シャル王女を引きずるように礼拝堂から連れ出して教会に向かう。
今日は元々教会横の土地神グッズ販売所が完成したので見に行くつもりだった。しかし、シャル王女が
王都の研修区画から教会に向かって移動を始めると、やはり町中は活気に満ちていて住民が本当に忙しそうにしているのが分かる。ただみんな大変そうだけど顔は幸せそうだ。
テンマ先生や土地神様は非常識な存在だけど人々を幸せにしているのは間違いないわね。
そんなことを感じながら歩いていると、私に気付いた露店のおばさんが声をかけてくる。
「アーリン様、お久しぶりです。シャルちゃん達も元気そうねぇ~」
それって間違っているから!
王都の住人は口には出さないけど、『テンマ先生=大賢者テックス=悪魔王』だと知っているみたい。でも大半はテンマ先生の姿を見たことがないか、地味なテンマ先生のことを覚えていないようだ。
でもピピちゃんとシルちゃんがテンマ先生の関係者であることは知っていて、テンマ先生達が旅立つ前にピピちゃん達と何度か町中を散策したことで、私は『悪魔王の弟子』と認知されたのである。
それにシャル王女は身分を隠して私と一緒に行動しているので、いつの間にか私の従者だと住民は勘違いしているのである。
「毎日のようにアーリンさんに叩きのめされて鍛えてもらっているから、もちろん元気ですわ」
その発言が益々誤解を生んでいるのよ!
シャル王女は悪気もなく、本気でそう思って答えているけど、声をかけてきたおばさんや話を近くで聞いていた人達は気の毒そうにシャル王女を見ている。
私がイジメているみたいに思われてるぅ~!
誤解を解きたいけど王女の安全のために身分を隠しているから、私がそれを話すこともできない。
この人達はシャルが王女だと知ったらどう思うのかしら?
頭の中で想像してみると、シャル王女に平伏する住民と、王女を叩きのめす私を『悪魔王の弟子』として恐れておののく姿が浮かんでしまう。
私は溜息をついて軽く手を振り、教会に向かって歩き出すのである。
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