学園改革と布教活動
第1話 学園改革方針
「それでは春先までに学園を再開できるように準備を進めてください!」
「わ、わかりました。ですが本当に再開できるのでしょうか……?」
新学園長は会議の最後に私がお願いすると、不安そうに返事した。新学園長は目の下には大きな隈を作り顔色も悪い。
気持ちは分かるけどねぇ。
一度は再開した学園だけど、大賢者テックスの知識を導入せずに学園を再開して、国王陛下からこれでは話にならないと叱られてしまったのである。
そのきっかけとなった前学園長の企みを力で吹き飛ばした私は、陛下から学園の改革に協力するように頼まれ、
「学園の再開はそれほど問題ないと思いますわ。教師には新しい知識を学ぶために大賢者テックス様の作った研修施設で再教育してもらっていますし、実技は先に研修を受けている元王宮魔術師や特別騎士団から教師役を派遣してもらう約束もできています。問題は新しい部門の設立をしないといけないことですね」
学園ではテンマ式研修をするのではなく、間違った知識を修正するのが基本方針である。今までの学園とそれほど極端に変えるわけではない。
学園で大賢者テックスの知識を学ぶことは国にとっても有益ことである。正しい知識を学ぶだけでも国力は間違いなく上がることだろう。
「アーリン様、新しい部門の設立まで私にできるのでしょうか……?」
身分は新学園長が上なのに、様付けはやめてほしいわね……。
新学園長は縋るような表情で私に尋ねてきたのだ。
でも学園長の不安も理解できるわね……。
学園を再開するだけで大変なのに、新しく夜間部門と幼年部門の設立まで陛下から命じられたのである。
最初は貴族の大半が大賢者テックスの知識の有用性を理解できておらず、懐疑的な貴族が多かったり、魔法契約が必要だから反対する貴族が多かったりした。
しかし、年始の行事の一つとしてテックス式研修を受けた特別騎士団やシャル王女の従者であるドナとダニがその成果を披露したことで、その風向きが一気に変わったのである。
特別騎士団は女性だけの騎士団で、普通の騎士団より実力は劣ると貴族や王宮の人々は考えていた。だけど特別騎士団の騎士に普通の男性騎士は簡単に倒されてしまい、従者であるドナやダニに勝てる男性騎士もほとんどいなかったのである。
テンマ式研修を受けると圧倒的にステータスが上がるからねぇ。
こうなると学園で大賢者テックスの知識を教えることに不安を覚える貴族が出始めたのである。
学園では大賢者テックスの基礎知識だけで、テンマ式研修をするわけではない。それでも先に大賢者テックスの知識を学園で学んだ生徒に、自分達の立場を脅かされるのではないかと考えたのだろう。
だから夜間部門を立ち上げ、学園の生徒が学ぶような大賢者テックスの知識を不安を感じている貴族や騎士、役人も学べるようにするのである。
そして幼年部門は間違った知識で子供を教育するのを防ぐためである。
学園に入学する時点でレベルを上げするのをやめさせて、正しい子供の育成をするために設立するのである。
「何をおっしゃっているのかしら? できるできないではなく、国の未来のためにもやらなければならないのですわ!」
シャル王女が叱責するような勢いでそう話すと、学園長や改革のために人員を補強した副学園長の四名は泣きそうな表情を見せる。
「それほど心配しなくても大丈夫だと思いますわ。夜間部門は現役の貴族や役人ですから必死に学ぼうとするはずです。幼年部門は来年からですから時間的にも余裕があるはずです」
私は学園長達を安心させるように状況を整理して説明した。
「大賢者テックス様から研修施設を任されたドロテア様も協力してくれていますのよ。あなた達は自分達の役割を全うするだけですわ!」
う~ん、それを言うと逆効果化かも……。
学園長達は
一度だけ
学園長は立ち上がると私に歩み寄り、涙目で縋るように頼み込んできた。
「アーリン様、どうか、どうかお力をお貸しください!」
「わ、わかりましたわ!」
学園長のあまりにも必死な表情に呆れながらも答える。横にいるシャル王女やドナとダニは必死に笑うのを堪えているのが見えていた。
後で覚えておきなさいよ~!
この後の
学園長に続き副学園長達も縋るような表情で次々と私に頭を下げ部屋から出ていく。
シャル王女より私のほうが偉いみたいで居心地が非常に悪いわ。
「アーリン様、ヨロシクね! クッ、ハハハハ」
学園長達が部屋から全員出ていくとドナがからかうように私にそう言って笑った。シャル王女やダニも我慢が限界のようで爆笑している。
「あなた達、この後の訓練は覚悟してよね!」
ジト目で彼女達を睨みながら話したけど、彼女達は笑うのをやめなかった。
私は大きな溜息を付いて、笑っている彼女達を見ていると肩越しから話しかけられた。
「アーリンちゃん、そんなことより私のお願いもヨロシクね!」
あぁ~、まだやることがあったわ!
手のひたサイズの羽のついた半透明の女性が私の肩に姿を現し話しかけてきたのである。
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