もしも~だったら

レモン

第1話もしも、隣人が殺人鬼だったら

「はぁ~、今日も仕事疲れたな~。」


 俺はいつものように仕事を終えて家に帰る。

 家に着くころに時間は午後12時をいつも過ぎている。

 仕事場では上司にぐちぐち言われ毎日がつらい。

 なら、そんな会社辞めて違う場所に引っ越せという人もいるだろう。

 だがそういうわけにもいかない、なぜなら俺の住んでるマンションの。


 -ガチャ-


「あ、お隣さん。今お帰りですか?毎日ご苦労様です。」


 俺が会社を辞めない理由の一つは彼女がいるからだ。

 彼女は俺の部屋の隣に住んでいるいわば隣人だ。

 俺が住んでいるのはマンションの端の部屋で隣人は彼女しかいない。

 彼女はこんな俺にも優しく声をかけてくれる。

 俺が会社から帰ってくる時いつも彼女はこの時間になって部屋を出ていく。

 何の仕事をしているかはわからないが俺は彼女を見ると仕事の疲れが一気に吹き飛ぶ。


「はい、今帰ってきました。今から仕事ですか?」


『・・・ええ、夜勤で、今からなんですよ。お互いに頑張って生きていきましょうね。」


 そう言って彼女は自分の部屋の鍵を閉め俺に背を向けて俺が取った道を通り姿を消した。


「今日も綺麗だったな。あんなに綺麗なら彼氏さんもいるだろうし、それなら羨ましいな。」


 部屋に入り着替え、晩御飯の支度をする。

 何気なくテレビをつけると同じようなニュースが流れていた。

 その内容は俺が住んでる近くで殺人が起きているというニュースだ。

 もう1週間以上同じようなニュースが流れ死亡者はとっくに二桁を超えている。


「また見つかったのか。隠すのが下手だな~。」


 テレビを見ていると、画面の上の方にニュース速報のテロップが流れた。


「なんだ、地震速報か?それとも」


 やっぱり俺の想像したとおりだ、また殺人が起きたニュースだ。

 しかも、またしても俺の住んでるところと近くのところだった。


「・・・ごちそうさまでした。」


 食器をかたずけ俺は風呂に入る。

 風呂で一息ついていると


 ードンッ!-


 いきなり壁を叩かれたような音がした。


「なんだよ、彼女は今いないはずだし最近うるさいな。明日にでも彼女にも相談してみるか。」


 俺が彼女は今いないことを知っているのは扉が開いた音がしなかったからだ。

 扉が開く音、閉じる音は隣人ならよく聞こえていた。

 でも、彼女と行き違いになってからはその音は聞こえなかったから彼女はまだいないと判断した。


「もう、上がって早く寝よ、明日もあるから。」


 俺は風呂から上がるとすぐさまベッドに向かう。

 そして、ベッドに横になるとすぐに眠りについた。




「今日もまたこの時間だよ。全く仕事がもっと早く終われば早く家に帰れるというのに。でも、それのおかげで今日も、」


 ーガチャ-


「あ、今日も会うなんてほんとに偶然ですね。」


『そうですね、きょも夜勤なんて大変ですね。』


 やっぱり彼女だけが俺の癒しだ。

 彼女がいるだけで俺はこの仕事を続けていられる。

 彼女こそが俺の生きが、


「おまえ、まだ仕事に言ってなかったのかよ。早くいって来いよ!!」


 彼女が扉を開けている部屋の中から手にビール缶を持った男が姿を現した。

 男が現れると彼女の顔色が青白くなり体が少し震えていた。


「ご、ごめんなさい。い、今からしっかり行くから。」


『当たり前だろ、とっとと行って来いよ!!』


 男は怒鳴ると手に持っていたビール缶を彼女に投げつけてきた。

 中身も入っていて中身を飛び散らしながら飛んできた。

 ビールは扉に当たり彼女には当たることはなかったが中身が彼女にも俺のスーツに飛び散った。

 彼女はすぐにドアを閉めた。


「ごめんなさい、恥ずかしいところを見せました。」


 彼女は扉を閉めるとすぐさま俺に頭を下げてきた。

 自分の体にビールが飛び散っているのを知っているのにもだ。


「そんな、あなたが頭を下げることなんてありませんよ。」


 俺はポッケからハンカチを出し彼女についているビールを拭いた。

 すると彼女は慌てて頭を上げる。


「そんな、大丈夫ですよ。あなたのハンカチを汚してしまいます!

 ほんとにごめんなさい!あなたの服まで汚してしまって、クリーニングしてから返しますからそれ脱いでください!」


『いえ、大丈夫です。私明日は休みなので、それにちょうど明日クリーニングに出そうと思っていましたし。』


「ならせめてお金払いますから、これ、受け取ってください!」


 彼女は慌ててカバンの中から財布を取り出して1万円札を俺に差し出してきた。

 クリーニング代としてはあまりの方が多かった。


「余ったお金はそのまま受け取ってください。ほんとに申し訳ありません!」


 彼女は再び頭を深く下げた。


「分かりました、ありがたくいただきます。」


 俺はこれ以上拒むと彼女に申し訳ないと思い1万円札を受け取った。


「それで、さっきの人はもしかして・・・」


 彼女は顔をうつむかせながら話した。


『・・・はい、私の彼氏です。前はもっとしっかりしていたんですけど、会社をクビになってからお酒に入り浸る様になってしまって、どんどんお金も減って行って今では私が働いて何とか生活しているんです。』


 俺は彼女の頭を見ていると彼女の足元に何かが垂れた。

 俺はそれがすぐに涙だと気が付いた。

 声色が変わり、体も震えていたからだ。

 俺は彼女の肩に手を置いて慰めようと手を伸ばすと


「ごめんなさい、こんな話をして。今日はほんとに申し訳ありませんでした。私、もう仕事に行かないとなのでこれで失礼します。本当に申し訳ございませんでした。」


 彼女は一度頭を上げてから頭を下げ謝罪の為再び頭を頭を下げた。

 そして、頭を上げるとすぐに背中を向けて小走りでその場を後にした。

 俺は、彼女の姿が見えなくなってから自分の部屋に向かうため彼女の部屋のドアを通り過ぎると後ろから


 -ギイィー


 と金属音を立てながら扉が開いた音がした。



「やっと、仕事が終わった。でも家に帰ればまた彼に・・・またお酒を買わないと。」


 彼女はお昼ごろになって仕事が終わり帰りのコンビニでビールを買っていく。

 重い足取りで彼女は自分の住んでいるマンションへと向かっていく。

 部屋に近づくにつれその足取りは重く、歩幅も狭くなっていった。


「すこしでも、自分の時間を」


 だがそれも短く、とうとう部屋の前まで付いてしまった。

 カバンから鍵を取り出し鍵穴に差し込む。


「あれ、私カギ閉め忘れたのかな。」


 彼女はゆっくりと扉を開け部屋に入っていく。


「ただいま戻りました。お酒を買ってきたので冷蔵庫に入れておきますけど今飲みますか?」


 彼女はリビングに向かいながら部屋にいる彼氏に話しかける。

 声が震えるのを抑えながら。


「き~ら~き~ら~ひ~~か~る~~、お~そ~ら~の~ほ~し~よ~~」


 彼女が向かおうとしている部屋の奥から彼氏ではない歌声が聞こえてきた。

 彼女は歌声を聞くと足音をできるだけ消して彼氏がいつもいる場所に向かう。

 部屋に付くと彼女は持っていた荷物をすべて落とした。

 彼女が見たのは倒れている彼氏の脚が見えた。


「だ、大丈夫ですか!!」


 彼女は彼氏に近づくと息をのみ両手で口を押え絶句した。

 彼氏はブルーシートが引かれている床にうつぶせで倒れ胸のあたりからは血が流れていた。


「おかえりなさい。こんな時間まで仕事なんていつも大変ですね。」


 俺は彼女が仕事から帰ってきたのを知り挨拶を交わした。


「な、なんであなたが、こ、ここにいるの?」


 俺を見た彼女はその場で座り込み体を震わせていた。


「そこで座ったら、血が付いてしまいますよ。」


『し、質問に答えてください!』


 彼女に近づこうとしたら彼女は大声を出してきた。

 俺は彼女との間に彼氏をはさんで立ち尽くした。


「分かりました。話しますよ。どこから話せばいいのかな?


 今テレビでよくニュースになっている殺人鬼いるじゃないですか。それ、わたしなんです。近くで死んだ人たちあなたのことをイヤらしい目で見ている人たちでしてね。あなたに何か起きる前に私が殺しました。なかなか数もいまして仕事が終わった後にいつも殺してたので午前12時を余裕で過ぎちゃうんですよねwまあ、そのおかげでいつもあなたの仕事に行く姿を直接見られましたが。」


 俺は淡々と彼女に俺が殺人をしてきたことを包み隠さずに話した。

 話していくと彼女の顔はどんどん青ざめていった。


「な、なんで私の彼氏まで。」


 彼女は横に倒れている彼氏の手を握りしめる。


「一応言いますけど、彼、もう死んでますからね?酔っていたせいでいつもより苦労はしましたけど、今思えばあっけない物でした。あ~、なんで彼を殺したかについたかでしたっけ?簡単なことですよ。

 

 それだけで、死ぬには十分すぎる理由です。

 あ!でも安心してください。部屋は汚してませんから。この後も綺麗な部屋で済めますからね。」


『ッ!!』


 俺が話しているときに彼女は突然走り出した。

 カバンから携帯を取り出して。


「困った人だな~。」


『速く、速く警察に電話を!!』


 -ガシッー


 彼女は扉を開け外に出ようとしていた。

 俺はどこかに電話しようとしていた彼女の手引っ張っり体を壁に押さえつけた。


「シー、ダメですよ。電話なんかしたら。あなたもタダじゃ済みませんよ?もちろん私も。もう大丈夫ですから。誰もあなたにひどいことなんてさせませんから。これからは私が守ります。」


 彼女は息を荒くしており目からは涙があふれ、体を震わしていた。

 やっぱり私に助けてもらってうれしかったようだ。


 ーガチャンー


 彼女が開けた扉が閉まる。










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