第30話 知らなければ良かった

 翌日には力は回復したが、気分が優れなかった。

 ルーファス様の秘密が知りたい。だけど、知ったら元の関係に戻れない気がした。


(私が知っているのは優しいルーファス様だけ。だけど、知らなくてはならないわ。本当のルーファス様を)


 覚悟を決めて、王宮に意識を飛ばした。





 ルーファス様を探していると、ちょうど部屋の前で使用人と会話しているのが聞こえた。


「父から呼び出しがあるかもしれない。その時は、夕方には戻ると伝えてくれ」


「かしこまりました」


(今から出かけるのね。チャンスだわ!)


 ルーファス様を使用人とともに見送り、扉の隙間からコッソリと彼の部屋へと入った。彼の部屋は何度か入ったことがあり、少し懐かしく感じた。


(いつも、そこのソファーに並んで腰かけていたわね。勉強を教えてもらったり、一緒に本を読んだりしたな)


 思い出に浸ってしまいそうになるのを堪えて、本棚へ向かう。シャーロット様の日記には、背表紙のない本の後ろにレバーがあったと書かれていた。

 その本はすぐに見つかった。引き抜くと、本当にレバーが存在していた。意を決してレバーを引くと、扉が現れた。


(これが……。部屋の扉というより、牢獄の扉みたい)


 重い鉄で出来た扉は、死刑判決を受けた時に入れられていた牢獄を思い起こさせた。こんな厳重な部屋を一体何に使うつもりだったのだろう。

 扉を開けて中に入ると、壁一面を覆う自分の写真と目が合った。シャーロット様の日記通りだったのだが、本当に目にすると恐ろしくてギョッとしてしまう。


(何これ……全部私だわ)


 いつ撮られたかも分からない写真ばかりだった。中にはルーファス様に出会う前の写真まである。

 扉を閉めて見なかったことにしたい。今すぐ意識を戻して、クラウス達と平和な日常に戻りたい。すっかり怖気づいてしまった。でも、私が知りたい真実はこの部屋にあるはずだ。


 深呼吸をして、部屋の奥へと進む。壁が異常なだけで、他は一見普通の部屋のようだった。ベッドや小さなテーブルが置いてあり、何日間か暮らせそうな雰囲気だ。

 何か他にルーファス様を知る手がかりがないかと見渡すと、ベッドからジャラジャラと伸びる金属が目に入った。


(鎖……これは足枷? 私を繋ぐための?)


 頭がくらくらする。ルーファス様は私をここに閉じ込めようとしていたの?

 一旦、出よう。気持ちの整理がつかない。そう思って戻ろうとすると、扉に文字が彫られているのに気がついた。


『リディア ここで永遠に 僕とともに……』


 


 

 気がつくと自室のベッドで眠っていた。どうやら、ショックで意識が途切れたようだ。


(今何時かしら? 昨日今日と、二日連続で力を使ったからヘトヘトだわ)


 窓の外を見ると、日が傾いていた。


「リディア、起きているかい? もし起きていたら、夕飯を一緒に食べよう」


 部屋の外からクラウスの声がした。


「起きてます。 今行きますね」


 反射的に答えて、立ち上がった。この二日間、部屋にこもりきりで、皆とまともに会っていなかった。きっと心配をかけているだろう。


 先ほどまで見ていた部屋のことは一旦頭の隅に追いやって、夕飯を食べるためにリビングへと向かった。

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