第19話 明確な殺意

 クラウスとともに家に帰り、早速ヘルマンさんに話をした。


「……まずはリディアの状態を診よう。話はそれからだ」


 ヘルマンさんは今まで見たことのないような厳しい顔をしていた。

 改めて傷を診てもらったところ、クラウスの予想通りナイフに毒が塗られていたようだ。しかも猛毒だった。


「クラウスの治癒の力が効いている間に診られて良かった。そうでなかったら……」


 おそらく死んでいたのだろう。ヘルマンさんの口ぶりがそれを物語っていた。


「私、命を狙われているのですね」


「君に罪を着せた人物は、君が生きていると困るからね。おそらく……元々王子の暗殺だけではなく、君の処刑も目的の一つだったのだろう」


 ヘルマンさんの意見はもっともだった。王子の暗殺だけが目的ならば、国外追放された私のことなど放っておけば良い。それよりも王子の暗殺に注力するはずだ。


「その人物は、今回の件で私が死んだと思ってくれるでしょうか?」


「おそらくね。リディアの傷は深かったし、毒も致死性のものだ。死んだと報告されているだろう。だが油断は出来ない。また生きていると知られれば、今度はもっと確実な方法で殺しに来るだろう」


(そうなったらエルナンデス家の三人にも迷惑がかかる。どうしたら……)


 考え込んでいると、クラウスとクリスティーナさんがお茶を持ってきてくれた。


「リディア、処置は終わったかい? これを飲んで少し落ち着こう」


「リディアちゃんが無事で良かったわ。そんな暗い顔していないで、少し休みましょう」





 皆でお茶を飲んでいると、ようやく一息つけた気がした。

 まずは自分の身を守ることを考えよう。それこそが、エルナンデス家に最も迷惑をかけない方法にもなるだろう。


「ヘルマンさん、私の容姿を変えてもらうことは出来ますか? リディア・クローバーだとバレないようにしたいのです。髪も切って染めようと思いますが、半妖精の力で別人に変えられませんか?」


「そうだね。リディアの容姿は、ゴーシュラン王国民の特徴が色濃く出ている。この帝国内では少々目立ってしまうからね。銀色の髪、彫りの深い顔立ち、青色の瞳……おや? リディア、瞳の色だけは王国民らしくない色をしているのだね」


「え?」


 私の瞳の色は薄い青色だったはず……。ヘルマンさんの言葉に鏡の方を向いて確かめてみると、黒色の瞳がこちらを見ていた。


「色が……瞳の色が変わっています。気づかなかったわ。いつの間に……」


「リディアは僕と初めて会った時から、黒色の瞳だったよ。印象的だったからよく覚えている」


 私が鏡にくぎ付けになっていると、横からクラウスが教えてくれた。


(どういうことだろう……帝国を出る時に変わってしまったのかしら。そもそも瞳の色って変わるものなの?)


 私の様子を見ていたヘルマンさんは、難しい顔をして口を開いた。


「リディア、元々は黒色の瞳ではなかったのかい?」


「はい、薄めの青色でした。両親ともに同じような色でしたから……」


 私の答えにヘルマンさんはますます難しい顔になった。

 

「そうか……元々の色ではないのなら、それは呪いを受けたのだろう」

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