第三章 呪い
第17話 確かめたいこと
帝国に来て、半年が経とうとしていた。私はすっかりエルナンデス家での生活に馴染んできた。
最初の頃は、早く仕事を探そうと思っていたのだが、クラウスに止められてしまった。
「リディアは今まで十分すぎるほど働いてきたのだろう? 少しは休むことも覚えてほしい。しばらくは、この屋敷でのんびりして……ね?」
クリスティーナさんもヘルマンさんも同意見のようだった。
正直、聖女の力の使えない自分が出来る仕事なんてほとんどなかったので、お言葉に甘えることにした。
その代わり、何かと忙しそうな三人のために、私は家の雑用を引き受けるようになっていた。
(せめて三人が気持ち良く暮らせるようにお手伝いしたい……)
そう思って始めたことだが、家の細々とした仕事をするのは楽しかった。
この屋敷は広いのに、使用人が一人もいない。元々三人が仕事の傍ら、家事を含めた雑用をこなしていた。以前、どうして誰も雇わないのかとクリスティーナさんに聞いたことがある。
「半妖精は珍しいから……働きたがる人がいないのよ。それに三人で何とかやれているから」
意外な回答だった。街の人々とエルナンデス家の三人が、楽しげに話している姿をよく見かけていたからだ。一線を引かれているようには見えなかった。
困惑している私に、クリスティーナさんは困ったように笑いながら教えてくれた。
「もちろん街の人達は良くしてくれているわ。でもやっぱり、違いを感じるのではないかしら」
「そういうものでしょうか……。では私が使用人なんか必要ないくらい、いっぱい働きます!」
「もう、リディアちゃんたら……うふふ」
私は出会い方が特殊だったから、半妖精という属性が気にならなかっただけなのだろうか。別の出会い方をしていたら、私も一線を引いてしまっただろうか。
(いいえ、違うわ。こんなに素敵な方達だもの。きっと、どんな出会い方でも親しくなったはずよ)
だから私はこの家でこんなにものびのび出来ているのだ。
「クリスティーナさん、今日のスープは私が作りますよ。せっかく教えていただいたので、一人で作ってみたいです」
「まあ嬉しいわ! じゃあお願いしようかしら」
クリスティーナさんからは度々料理を教えてもらっており、先日、帝国の伝統料理である香草スープの作り方を教わったのだ。
(皆さんお疲れの様子だし、元気になってもらうために頑張って作ろう!)
……と張り切っていたけれど、少し煮すぎてしまって具材がほとんどなくなってしまった。
それでも三人とも美味しそうに食べてくれた。特にクラウスは、お世辞のような言葉をたくさん言ってくれた。
「すごく美味しいよ! 初めて作ったとは思えない。また作ってほしいな」
「……ありがとうございます。今度はもっと上手く作りますね!」
私はこんなに甘やかされていて良いのだろうか。
しばらくゆっくりさせてもらったし、そろそろ働くとか、聖女の力のことを調べてみるとか、何か行動した方が良いような気がする。
まず、自分のことをしっかりと明らかにしたいと思い、聖女の力について調べることにした。
(妖精さんたちが何か知っていそうだった。会いに行く約束もしたし、行ってみようかな)
そう思って妖精たちに会った森に行こうとしたのだが、ヘルマンさんに止められた。
「リディアが無事に森を抜けられたのは、本当に運が良かったんだよ。妖精は気に入らない人間ならば、森に閉じ込めてしまう。気に入られても、悪意なく惑わせてくるんだ……」
「そんな……でも、妖精さんたちに力のことを確かめたいですし、また会いに行くと約束したのです。何か良い方法はありませんか?」
「そうだな……では、クラウスを連れて行きなさい。我々は妖精に惑わされることはないから。ただし、絶対に離れてはいけないよ。それとクラウス、薬は多めに持っていきなさい。念のためにね」
「クラウス、お願いできますか?」
「もちろんだよ。一緒に行こう!」
クラウスが快諾してくれたので、翌日森へ行ってみることにした。
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