追放された聖女は半妖精に拾われて優しさに触れる

香木あかり

第一章 追放される聖女

第1話 死刑判決の聖女

 私は聖女として、国を守るお役目を果たしていただけ。何も悪いことなんてしていないわ。


「被告人リディア・クローバー、最後に言っておきたいことはあるか?」


「私ではありません……本当です」


 本当は言いたいことがたくさんあるはずなのに、言葉が出てこなかった。


(どうしてこんなことになってしまったの?)


 ぼんやりとする頭では、何も考えられなくなっていた。




「それでは判決を言い渡す。第一王子殺害未遂でリディア・クローバーを死刑に処する!」


(私が死刑? 一体、今何が起きているの?)


 急に捉えられて、想像を絶するような尋問をされて……気がついたら法廷に立たされていたのだ。


 聖女として気丈に振る舞わなくては、と思えていたのは最初の内だけだった。


 厳しい尋問に身も心もズタズタにされ、今や一言話すのがやっとだ。尋問の時に何か薬を飲まされたせいで、頭もうまく働かない。


(せめて泣かないようにしよう。これ以上みっともない姿を晒したくないわ)


 そう思っても、これから起こる事への恐怖で身体が震えていた。

 

(この裁判で何もかも決まってしまう……私、死ぬの? 怖い……!)


「第一王子ルーファス殿下に盛った毒物は極めて致死性が高く、殺害の意図は明白である」


 裁判官の声が法定に響き渡り、傍聴席からざわめきが聞こえる。


「本当に聖女様がルーファス様を? 信じられないわ……」

「恐ろしい女だ。今まで俺たちを騙していたんだ」

「この国を乗っ取るつもりだったに違いない」

「こんな女が聖女だったなんて、国が滅びる前に分かって良かったじゃないか」


(違う……違うのに。私はルーファス様に毒なんて盛っていない。なにかの間違いよ)


 心のなかで必死に否定しても無駄だった。


「使用された毒は、聖女リディア・クローバーの作成する秘薬の成分に最も近く、被告人が作成した可能性が高い」


「証拠が揃っているにも関わらず、罪を認めようとしない態度は反省の色が見られない。よって被告人は求刑通り死刑が妥当である」


 判決理由が遠くに聞こえる。反省の色が見られないって、私じゃないのに反省なんて出来ないじゃない……よく分からないけれど、私には死刑が妥当らしい。


 (嫌よ、死にたくないわ……こんな無実の罪で処刑されるなんて!)


「裁判長、お待ちください。私は無実です……やっていません」


 ようやく絞り出し私の発言は、周囲のざわめきにかき消されてしまった。もう誰も私の言葉に耳を傾けていないのは明らかだった。


「聖女の力でいつ逃げ出すかも分からんぞ」

「今まで世話になった王族に泥を塗るなんて……!」

「早く殺してしまえ」

「まだ若い娘じゃないか……可哀想に」

「騙されるな! あいつは大罪人だぞ!」


 昨日まで国民から感謝のまなざしを向けられていたのに、今や憎悪の対象になってしまった。それもそうか、私は王族殺しをしようとした大罪人なのだから。






 判決が下り、私は奴隷のように縛られて引きずられながら法廷を後にした。


「リディア様、待って! ……本当にお兄様を?私は信じませんから! お兄様とリディア様は愛し合っていたのです。こんなことするはずがありません!」


 無理矢理歩かされていると、ルーファス様の妹であるシャーロット様が駆け寄ってきた。

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