語り部と将軍様

いちのさつき

第1話 語り部の私は

 昔々というわけではありませんが、100年ほど前でしょうか。鮮やかな緑色の葉が常にある暑く湿っているカーンダヴァというこの国にルーワンと呼ばれる王子様がおりました。


 まるで死んでいるという表現は使わないで欲しいと。ですがあの頃は王子でしたし。ああ。あなたは外の国からやって来たのですね。だから傾げていると。ルーワン様は現在、王となっており、民のために尽くしておりますね。


 そんな彼の傍らに将軍がおります。紺色の髪を背中まで伸ばし、肌が焼けている武人。それがシェラ様でございます。だいぶ仲が良いですよね。それをネタに本を出している麗しい女性の方がいるというお話もありますし。ですが本来ならそこまで親密にはならないのです。歴史上では初めてではないでしょうか。


 何故そうなったのか。ある事件があったからです。最初に言っていた通り、100年程前に起きたことです。ルーワン様は遊び盛りのお歳頃とは言え、様々な学問を勉強し始めておりました。ただし王になるには少し幼い、そんな歳でした。


 察しの良い方はお分かりでは。先代の王が亡くなれば、次に王となるのはまだ幼いルーワン様。大人になるまで政権を担うという名目で支えておけば、事実上の支配者になれると。都合よく操れると。


 王に仕えていた人達の中にこういった悪い企みがありましたね。一部は将来のことを考えて……でしょうが。大体はろくでもない輩ばかりです。贅沢な生活をするための悪知恵ばかりで、国が崩壊するのがオチでしょう。


 そんな中で先代の王は当時のルーワン様を祝うための宴会を行うことを決めました。成長したことへの祝い。何ともほほえましいものです。ですがそれを利用する者もおりました。さきほど言っていたろくでもない輩のことです。


 当時の宴会では珍しく、酒を使っておりました。仕えていた者が持ち込んだものです。それを許可したのが間違いでした。あれには毒が入っておりました。酒を飲んでいたのは先代の王のみ。その他の参加者は水を口に入れていたのです。最初から彼らは先代の王を毒殺する気でいました。事実、先代の王は毒でお亡くなりになりました。


 それをルーワン様は察しておりました。あの方はそうそう怒ることなんて……まあ将軍様相手には色々とキレたりはしますけど、当時はなかったのですよ? あの方は宴会で怒りを示しました。


 愚かな王子でないと分かった輩はルーワン様を殺そうと、どこかに隠れていた暗殺者に命をこう下しました。


「王子を殺せ」


 ええ。驚きでしょう。ですが奴らが欲しいのは王の形をした操り人形。賢かったら操作なんて不可能。だからこその命令なのです。


 ルーワン様に守る術はありませんでした。多少の魔術の心得があっても、経験の差を埋めるのは無理です。これが絶体絶命という奴ですね。その時にです。ええ。あのシェラ様が駆けつけて、ルーワン様を守ってくれたのです。


 おー流石の盛り上がり。ええ。分かります。いいですよね。あっという間に暗殺者を倒し、企てていた悪い輩を拘束しましたし。


 とは言え、王子の周囲が改善したわけではありません。先代の王がいなくなり、次の王になってしまいました。どうすべきか。まだ幼い彼を支えるのは誰にしよう。そう話し合っている最中、将軍様が宣言をしました。


「国を守るのが俺の役目。王となった彼を守るのも俺の役目である。故に成人となるまで、ルーワン様を支える。それをここで誓う」


 荒々しく、勇ましく。これがシェラ将軍なのだと思った方が多かったらしいです。あの後、シェラ様は将軍として、親として、立派にルーワン様を支えました。成人となった時に、本来の仕事に戻りました。有言実行とはこのことですね。


 ところでですね。さきほどから騒がしいのですが。はい。え。シェラ様がいる。何故です!? はい。本当は色々と語りたい所ですが、今回はここまでです。解散解散! 逃げないといけませんね。ですがこの私はそういうのがお得意でし……ひい!?

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