第三章 魔王、本格始動

第20話 ワイバーン退治

 ライコネンから少し離れたビルイ山岳地帯を飛び交う、ドラゴンライダーを撃滅した。空輸を主流とする山岳ビルイ国の、自由を奪っていたのである。


 ワイバーンを駆り、空の自由を脅かす魔王の手先だ。この空飛ぶ珍走団を相手に、渡り鳥すら避けて通る。


 この世界で、オレより速度の出る物体はいない。空を支配するドラゴンライダーといえど。


「ヤロウ!」


 ランスを振るい、ライダーは速度を利用してオレに突きかかってきた。


 カウンターで銃撃し、ドラゴンの頭部を破壊する。


 それだけで、ドラゴンライダーは墜落していった。


「新しい武器は、調子よさそうだね?」

「ああ。取り回しも便利だ」


 オレは新武装として、魔法を撃ち出す拳銃を開発した。

 まだ出力が弱く、構造を考え直す必要がある。

 それでも「手のひらから直接魔法を撃ち出すことによる、手の体温上昇」を抑えられた。

 地味なマイナーチェンジだが、こういうのが後に大事になっていく。


「あと二体!」


 雲に隠れつつ、オレはドラゴンライダーを剣で両断した。


「よし、あと一体!」


 だが、この一体がなかなか手ごわい。


 こちらも、スーツを弱体化させたばかり。難しかった温度調節を見直した影響で、出力を随分と下げた。パワーより、持続時間を重視したのだ。


「アレを試そう!」

「よし!」


 全体的に弱めた出力を補う兵器だって、ちゃんと開発した。しかし、そのためにオレは硬直する。


 ドラゴンライダーが、勝機とばかりに飛び込んできた。


「ピンポイント・セットアップ」


 カウンターのキックによって、相手のランスを踏み抜く。


「これで終わりだ」


 弧を描きながら、オレはドラゴンライダーに魔力弾を撃ち込んだ。


 蜂の巣になったドラゴンライダーが、墜落していく。




 小国ライコネンへと戻り、戦果を報告する。


「ありがとうございます、竜胆の騎士ジェンシャン・ナイトどの」

「いえいえ。もったいなきお言葉」


 ライコネン妃殿下から、お礼を受けた。


「ねっ、わたくしの申した通りですわよね、お母さま! モモチ……竜胆の騎士は立派な方ですのよ!」


 すぐ側で、娘のフローレンス姫が興奮気味にはしゃぐ。


「フローレンス様、モモチが困っていますよ」


 ジーンが、姫を羽交い締めにして下がらせる。


「存じ上げています。勇者モモチ、重ね重ねありがとうございます。ワイバーンだけでなく、王都近辺の災害支援もなさってくださっているとか」


 ウェザーズを打倒してから一ヶ月、オレはウェザーズ軍の残党と戦い続けている。


 魔王軍本体との戦いに、備えるためだ。


 今は少しでも、王都近隣の不安要素を取り除いておきたい。


 また、オレはスーツの方向性も考えあぐねている。


 熱がこもる問題は、武器を細分化することで解消された。が、まだ問題は山積みである。戦いながら、まだ見ぬ課題を探していたのだ。

 

 パワードスーツ完成の日は、まだ遠い。


「あなたが我が夫を助けてくださり、わたくしたちを自由の身にしてくだいました。あなたがいなければ、わたくしもフローレンスも、ジーンさえ、あの野蛮な魔族の慰みものになっていたでしょう」


 だとしたら、怖い。助けてよかったと、本気で思う。オレは少なくとも、彼女たちに光を照らしたのだと、自分を肯定した。


「きっと誰も助けが来ないまま、娘ともども凌辱されて、そのうち、あの魔族の肉棒なしでは満足できない身体にされていたんだわぁ。うわあああ」


 目頭を押さえながら、妃殿下が身を震わせる。


「ひ、妃殿下、落ち着いて」と、ジーンもやや呆れ気味でなだめた。


 えらい、想像力豊かなお妃様だな。


「お、お母さまはお強いわ! きっとそんな粗末なモノに絶対負けませんわよ!」


 励ましのつもりなのか、フローレンス姫の言葉にも熱が入る。


 フローレンスよ、そういうのを「即落ち二コマ」というのだ。




「王都の方たちも、喜んでいました。ぜひお礼がしたいと」


 お、いい機会である。オレは、この言葉を待っていた。


「では、ドワーフの工房を見学させてくださると」


 これ以上は、オレとニョンゴ以外の知恵が欲しい。


 ドワーフに会いに行くことは、おそらくこの一ヶ月の間でもできただろう。しかし、戦災復興をほったらかして会いに行くのは気が引けた。

 自分の都合ばかり、押し付けることになるからだ。

 素材を運搬する経路だって、必要になってくる。


 オレがしゃにむになって王都や近隣国家の残党狩りをしていたのは、そのためだ。

 まずは王都周りをキレイにしてから、相談をしたいと。


 結果、先送りになってしまっている。


「はい。手配いたします。後日、王都のドワーフの鍛冶屋へどうぞ。こちらへ」

「ははーっ」


 オレは言われた通り、妃殿下の元へ。

 ヒザをついていると、冒険者カードの提示を要求された。

 この流れは、またもや?


「ポチっとな」


 気の抜けた言葉とともに、妃殿下が術式スタンプをオレの冒険者カードに押してくれた。

 普段はこんな、おちゃめな人なんだな。


「ライコネン王より勲章を差し上げました。これであなたは、王のよき友となりました。堂々と工房を見学なさいな」

「ありがたき幸せー」


 やったぜ。

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