第51話

 次の日の朝。


 身支度を整え、個室から出て、談話室に向かっていると、アラン君が歩いているのが見えた。


 近づくと「おはよう」

 と、挨拶をする。


「おはよう。昨日はよく眠れたか?」

「うん」

「そうか、それは良かった」


「ねぇ。今日、やりたいことがあるから、しばらく部屋にいるね」

「そうか、分かった」


 これで、わざわざ談話室に行く必要が無くなった。

 また個室に戻ろう。



 個室に戻ると、椅子に座る。

 戦いに必要なもの、それは武器。


 武器が複製出来たら、きっと役立つはず。


 私が持っているのはショートソードとナイフ。

 ショートソードは何だか怖い。


 だとすると、ナイフね。


 バックをテーブルの上に置く。


 続いて、マジックウォーターにナイフを取り出して、テーブルの上に置いた。


 ドキドキ……。


 なんだか緊張する。


 ゆっくりナイフを右手に持ち、ナイフが欲しいと思ってみる。


 キュイン──ポンッ!


 左手に同じナイフが出来上がる。

 やった! 成功!


 出来る気はしていたけど、出来ると嬉しいわね。

 

 これで武器が弾かれても、安心ね。


 ――ん? 待てよ。武器が弾かれるって事は、手元には武器はない。


 手に持ってなきゃ、複製できないじゃん!


 うーん……ん? そもそも、複製したいものって、手に持っていなきゃ駄目なの?


 試してみるか!

 

 両手にナイフを持たず、ただナイフを欲しいとイメージしてみる。

 

 キュイン──シーン……。


 やっぱり対象物に触れてないと駄目かー。

 これができれば凄いと思ったんだけどな。


 ――いや待てよ。触れてさえいれば、出来るって事じゃない?


 今度は握らずに右手の指先だけ触れている状態でナイフが欲しいと思ってみる。


 キュイン──ポンッ!

 

 左手にナイフが出来上がる。

 やっぱり出来た!


 疑問に思うって大事ね。

 

 左手にあるナイフをみて、ふと思う。

 考えたら、何で左手に出来上がるんだろ?


 これを持つ手を逆にしたら、どうだろうか?


 試しに、左手に握ったナイフをそのままに、ナイフが欲しいと思ってみる。


 キュイン──ポンッ!


 右手にナイフが出来上がる。

 面白い! 法則があるのね。


 興奮したからか、ちょっとクラクラする。

 いや、いつものやつか。


 マジックウォーターを口にして魔力を回復する。

 うん、スッキリ!


 複製する場所を指定できれば、もっと面白い。

 よし! 右手にナイフを握り、右手に欲しいと思ってみる。


 キュイン──ポンッ!


 右手にナイフを握っていたため、床に落ちてしまったが、右手の方に、ナイフが出来上がった。


 くぅ~、テンションMAX。

 じゃあじゃあ、離れた場所には出来る?


 右手に握ったナイフはそのままに、テーブルの上に、ナイフが欲しいと思ってみる。


 キュイン──シーン……。


 やっぱり駄目ね。

 心なしか疲れた気がする。

 この失敗は、反動も大きいのかしら?

 

 とりあえず今日はこの辺にしよう。


 船に乗ってから二日と数時間が経ち、お昼ちょい過ぎにシーサイドに到着する。


 シーサイドの港は、港街というだけあって、様々な露店が建ち並んでいた。


 積み荷を下している人や運ぶ人、買い物客と、人が行き交い、賑わっている。


 住居の方は、津波の心配からか、港から少し離れた場所に建てられていた。

 

「これから、どうするの?」

「街を出て、北にある林に向かう」

「そこに何があるの?」


「歩きながら話そう」

「うん」

 

 肩を並べて街の方へと歩きだす。


「そこには怪しいボロい一軒家がある」

「怪しい?」


「あぁ。なぜかそのボロい一軒家の周りには、魔物が沢山、徘徊しているんだ」


「巣窟になっているんじゃないの?」


「聞いた時、俺もそう思った。だが噂だと、転移の指輪を持った召喚士が、そこを拠点として、何かをしているそうだ」


「何かっていうのが、気になるわね」


「あぁ。何にしても、魔物を召喚して、近づかないようにしている危険な奴だ。絶対に手に入れよう」


「うん!」


 私達は再び歩き出して、目的地に向かった。

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