第44話

 薬を取りに行く日。

 薬剤研究室を訪れる。


 サイトスさんは、出来あがった薬を置き、

「約束の回復薬改と、マジックウォーターが各10個出来ました。素材の魔力の結晶はまだ余っているので、大丈夫です。値段は特別価格で回復薬改が38P マジックウォーターが9Pになります」


「ちょっと待って、マジックウォーターが9Pって、どういうことです?」


 魔法使いにとっては、喉から手が出るほど、欲しいものなのに。


「高いですか?」

「いえ、逆よ。何でそんなに安いの?」


 サイトスさんは片手で口を覆うと、「企業秘密ですよ」

「はい」


「実はマジックウォーターは、ほとんど水なのです」

 と、サイトスさんは囁いた。


「え、本当ですか?」

「えぇ、本当です」


「素材も回復薬改の余りで、済んでしまいますから」

「な、なるほど」


「おそらくですけど、魔力の結晶の配分を変えれば、もっと強力になるかと思いますが、程度が分からないので、今のままなのです。もしもっと強力にしたいなら言ってくださいね」


「分かりました」

「全部、買われますか?」

「はい」

「ありがとうございます」


「ただの回復薬も在庫が20個ほどありますが、買われますか?」

「はい」


「では、あとで運送屋を使って、お届しますね」

「よろしくお願いします。あっ」

 

 お店に帰ったら、回復薬を複製できるか、試してみたいわね。

 

「どうかされましたか?」

「マジックウォーターと、回復薬を一瓶だけ、いま欲しいです」

「分かりました。回復薬を持ってきますね。合計で1550Pです」

 

 サイトスさんはそういうと、立ち上がり、回復薬を取りに行った。

 私は財布からお金を取り出し、テーブルに置いた。


 サイトスさんは戻って来ると、回復薬をテーブルに置いた。


「はい、どうぞ」

「ありがとうございます」


 サイトスさんは、お金を手に取り、数えると「確かにお受取りしました」

 私は回復薬と、マジックウォーター一瓶を、手に取ると「では、お願いします」


「かしこまりました」

 

 薬剤研究所を後にして、お店に戻る。


「ただいま」

 と、調理場に入ると、ナザリーさんはクロワッサンを袋詰めしていた。


「お帰りなさい」

「アカネちゃんは?」

「もう私一人で出来るから、帰らせたわ」


「そう。私、二階にいるね」

「分かったわ」


 二階の部屋に行くと、テーブルに薬を置く。

 あっ……。


 いま思い付いちゃったけど、回復薬改が複製できたってことは、素材である魔力の結晶も複製できるってことよね?

 

 うーん……でもそれで、いいのかしら?

 椅子に座り考えてみる。


 素材を増やさなくても、完成品を増やしてしまえば、それで済んでしまう。

 それはとても便利。


 だけどそれは、この世界の人達が、自分たちで成し遂げる機会が少なくなるって事。


 私はいずれこの世界から居なくなる存在。

 だったら、少しでも自分たちで成し遂げる機会を作ってあげたい。

 そうしなければまた、この世界に薬が無くなってしまう。


 皆と出会って、何となく見えてきた。

 私がこの世界に転移された訳。

 きっと私は、この世界に薬を普及させるサポートをするために転移されたのね。

 それを踏まえて、今後の活動をしていかなきゃ。

 

 まぁ、そうは言っても普及さえされていない状況じゃ、何も生まれないから、手助けぐらいはしないと。


 さて、回復薬を複製出来ないか試すぞ!

 今日のパンの複製はしてしまったから、まずは1個だけ試してみるか。

 

 回復薬を手に取り、欲しいと思う。

 最初の頃より少し明るい光が、私の手を包んだ。


 キュイン──ポンっ!

 

 思ったとおり出来たわね。

 少しクラクラするから、マジックウォーターを飲んでっと……。

 く~、このスッキリ感が、たまらん!

 

 さて、続いて一気に5個、やってみるか。

 キュイン──ポポポンッ!

 回復薬が5個、出来あがった。


 よしよし、順調。

 今日はこのぐらいにしておくか。

 

 その日の夜。

 寝る準備を済ませ、布団に入り、今日の整理をする。

 回復薬改【10個】

 マジックウォーター【9個】

 回復薬【26個】

 手持ちのお金【1474P】

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