第43話

 次の日。


「ナザリーさん。収納箱を買いたいんだけど、良いかな?」


 ナザリーさんは調理場で手を洗いながら「どこに置くの?」


「外、買いとった素材を入れたいの」

「あぁ、いいわよ」


 ナザリーさんはそう返事をすると、タオルで手を拭いた。


「ありがとうございます。今日も出掛けて来ますね」

「分かったわ」


 さて、ナザリーさんの許可も得たし、出掛けるか。

 

 サイトスさんの研究所に行って、材料を渡すと、収納箱を買いに行った。

 前に買った収納箱を買うと、届けてくれるようにお願いをする。


 さて、公園へと向かうか。


 公園に着くと、長いベンチに座って、バックからメロンパンを取り出す。

 昼時ということもあって、カップルや子連れが、ベンチに座ってご飯を食べていた。


 心地よい風が流れ、微かに聞こえる話し声が、穏やかな日常を感じさせる。


 本当に私、ゴーレムと戦ったのかしら?

 今日、晴れて良かったな。

 

 誰かが離れて座るのを感じる。

 誰かしら?

 ふと視線を向けてみる。

 

 クラークさんか。話しかけてくれれば、良いのに。


 私はパンを飲み込むと、

「どうしたんですか?」と、声をかけた。


「たまたまお前を見つけたので、話しかけようと思ったが、食事をしていたのでな」


「食事中でも大丈夫ですよ」

「そうか。具合の方は大丈夫か?」


 クラークさんはズボンのポケットに手を突っ込み、私の方は見ずにそう言った。


「はい。ピンピンしています」

「そうか。これから俺は、武器屋に行こうと思っている。付いてくるか?」


 別にこれから予定があるわけでもないし、勉強にはなりそうね。


「はい」

「では、食べ終わったら行くぞ」

「はい、お願いします」


 食事を食べ終え、武器屋に到着する。


「クラークさんが使っている剣は何ですか?」

「レイピアだ」

「へぇー……」


 私が前、武器屋で落としそうになったやつね。


「意外に重たいんですよね」

「あぁ」

「ミント」

「はい?」


「お前も戦えるようになりたいか?」

「え?」


 プラントAに襲われた時のように、いつ襲われるか分からないし、考えたら私、元の世界でコボルトに殺されているのよね……。


「はい、自分の身を守れるぐらいにはなりたいです」

「そうか。なら武器を選んでやる」

「良いんですか?」

「構わない」

「ありがとうございます」


 腕を後ろで組みながら、ゆっくりと、商品棚を見ていく。

 クラークさんが新品の剣の売り場で足を止めた。

 

 両刃の剣を持っては置きを繰り返している。

 大きさは私の身長の半分ぐらいある。

 え、あれを私に?


「クラークさん、それは?」

「ショートソードだ」

「それ、私に扱えますか?」


「扱えますか? ではない。扱えるようになるんだ。これは刺すこともできるし、軽いから扱いやすい。持ってみろ」

「はい」


 渡されたショートソードを持ってみる。

 本当だ。レイピアより軽い。


「おまえの持っているナイフは、誰でも使えていいが、刀身が短く、その分、相手の懐に入らなければならない。お前の動きは、遅くはないが速くもない。体力もないから危険だ」


 うっ……。

 ぐうの音も出ない。


「いいか。自分が使える武器を選ぶのと、自分に合った武器を選ぶ事とでは意味が違う。今のお前の実力を考えると、臨機応変に対応できる武器を選んで、扱えるようになるのが、無難だ」


「分かりました」

 

 クラークさんは私の返事を聞くと、商品棚にショートソードを戻した。


「長さが欲しいところだが、お前の身長を考えると、これぐらいだろう」

 

 クラークさんはそう言うと、私の足の長さ程度のショートソードを手に取り、ツバと先端が金で装飾された黒い鞘から、引き抜いた。


 握りのところは黒で、あとはシルバー。

 十字架のような形で、とてもシンプルの剣だ。

 

「なんか、すみません」

「どうにもならんことを謝ってどうする」


 クラークさんはそう言うと、剣を鞘におさめた。


「そうですね」


「あとホルダーを選ぶぞ。付いてこい」

「はい」


 剣の売り場の先に、革で出来たホルダーが、ズラリと並んでいる。


「黒と茶色、どちらがいい?」

「グリップが黒なので、茶色が良いです」

「分かった。腰から下げる方が便利だ。これにする」

 

 クラークさんはホルダーを取ると、私に差し出し「付けてみろ」


「あ、はい」


 私はホルダーを受け取ると、付けてみた――。

 これであっているのかしら?


「合っています?」

「大丈夫だ。次はこいつをここに差してみろ」


 指差されたところに、剣を差し込んでみる。


「こうです?」

「あぁ」

「どうです?」

 

 クラークさんは、何か言いたそうな複雑な顔をしている。

 気のせいか、含み笑いをしているようにも見えた。

 

「俺はそういうのは、良く分からん」

 

 なんだが濁された感じはするが、クラークさんらしい回答だ。

 私は買うため、ホルダーを外した。


「貸せ」


 クラークさんは剣と、ホルダーを私から取ると、レジへと向かった。


「え? クラークさん、自分で買います」

「気にするな。助けられた礼だ」

「でもそれは……」


 私も同じと言っても、おそらく気持で示して欲しいと言われるだろうな。

 だったら……。


「ありがとうございます。私、頑張ります」

「あぁ」

 

 会計を済ませ、クラークさんが戻ってくる。


「慣れるため、今からでも装備し置くと良い」

「はい」

 

 腰から下げているとはいえ、ズッシリくる。


「あと毎日とは言わないが、素振りをしておけ。お前の店の敷地なら、問題無いだろ?」

「はい」


「では、俺は帰る」


 ん? クラークさんの用事は?

 いや、野暮のこと聞くもんじゃないか。

 

 クラークさんがお店を出ていく。

 さて、私も帰ろうかしら。


 そのままの恰好でお店に帰る。

 お店に入ると、ナザリーさんと、アカネちゃんが売り場の拭き掃除をしていた。


「あら、お帰りなさい」

「わぁー、ミントさん。かっこいい」


 私の剣に気付いたアカネちゃんが、目を輝かせながら、言った。


「そう? ありがと。後ろで笑っている人もいるけど」

 

 ナザリーさんが、手で口を覆いながら、涙を浮かばせている。


「だって、可愛いんだもん。うんうん、良い良い。それで制服着てみない?」

 

 ナザリーさんは随分、マニアックなところを攻めてくる。


「いやです!」

「何でー、受けると思うんだけどな」

「衛生上、よろしくないので駄目ですよ」


「それ言われちゃうと、諦めるしかないわね。そうだ、封筒が二通、来ていたわよ。二階の机の上にあるから」

「ありがとう」


 部屋に入ると、確かに二通の封筒が届いていた。

 分厚い方から手に取ってみる。

 薬のトトちゃんからね。


 中身は薬のお金と、お礼が書かれた手紙で、これからも取引したいとも書かれていた。


 やったね。


 もう一つは……アラン君からの返事ね。


『ミント君へ 俺は元気だ。薬、ありがとう。大切に使うよ。サンドイッチだが早速、作ってもらって食べてみた。俺好みの味で感動だ。店の人も試食して、好評だったらしい。レシピを他の町にいる妹にも広めたいと言っていた。』


『興味があるなら、手紙を送ってみたらどうだ? 薬の素材についてだが、目的のものは見つからなかった。冒険者や旅人にも声をかけておいた。そのうち、何かあるかもしれない。これから俺は旅を再開する。しばらく返事は出来ないと思うから、また俺から連絡する。アランより』


 それじゃ、気長に待ちますかね。

 レシピについては、時間が出来たら返事をするか。

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