第36話

 町に戻るとクラークさんと分れる。

 公園で少し休んでいくか。

 

 公園に着くと、白くて長いベンチに座った。

 バックのポケットから魔力の結晶を取り出す。


 これ、魔力の結晶って言っていたけど、そもそも魔力って何なのかしら?

 魔法を使うために必要な力だということは分かるけど、それ以上は何も分からない。


 青空に向かって透かして見てみる。

 乱反射する光が、幻想的で私を魅了する。


 私好みの濃い青だわ。

 何時間も見ていられそう……。

 これだけじゃ使えないってことは、何かをすれば使えるようになるのかな?


 透かして見るのをやめて、バックのポケットにしまう。

 うつむき、顎に手を当てて考えてみる。


 私の能力も魔法なのかな?

 だから能力にも限界がある?


「ミントさん?」


 後ろから聞いたことある、可愛らしい女の子の声がする。

 後ろを振り向くと、私服姿のアカネちゃんが立っていた。


「もうバイト終わったの?」

「はい。ミントさんはここで何をしていたんですか?」


「考え事。ねぇ、アカネちゃんは魔法を使えるの?」

「いえ、使えないですよ。ミントさんは使えるんですか?」

「えっ。うぅん、使えないよ」


 自分の世界じゃそんな会話にならないから、一瞬、焦っちゃった。


「ですよね。使ってみたいとは思うけど、家系とかあるみたいですから、無理ですね」


「うん」

「では私、帰りますね」

「うん、お疲れ様」


「お疲れ様です」

 と、アカネちゃんは返事をして、ニコニコと笑顔で手を振ると、帰って行った。


 年下かどうかは分からないけど、なんか先輩と後輩って感じで、嬉しくなるわね。

 

 さて、私の能力が魔法なのかは分からないけど、アラン君も言っていた通り、魔法は誰もが使えるものじゃない。


 ということは、この魔力の結晶が何かに使えるようになったら、

 きっと役に立つはず。


 グーッと背伸びをすると、立ち上がる。

 クラークさんが知らないとなると、あと頼れそうなのはサイトスさんぐらいね。


 とりあえず、サイトスさんの所に行こう。


 薬剤研究室に着くと、インターホンを押す。

 しばらく待つとサイトスさんが顔を出した。


「こんにちは」

「あれ、ミントさん。薬の方はまだですよ?」


「あ、大丈夫です。今日は薬じゃなくて、これを見てもらいたくて」と、私はバックから魔力の結晶を取り出した。


 サイトスさんは受け取ると、「ほぅ……これは珍しい」

 と、色々な角度から眺めた。


「薬に出来たりします?」

「これ自体が珍しいものなので、試したことはないですが、いろいろ試してみます」

「よろしくお願いします」


「今度、いらっしゃった時に、何かしら御報告しますね」

「ありがとうございます。では失礼ます」

「失礼します」と、サイトスさんは返事をして、ドアを閉めた。


 さて帰るか。

 

 その日の夜。

 寝る準備を済ませ、勉強を済ませると、布団に入る。

 今日の整理をする。

 手持ちの薬草【1個】

 手持ちのお金【3426P】

 

 今日は課題が減るどころか増えてしまった。

 一個ずつでも良いから考えていかないと。

 

 次の休みの昼過ぎ。

 薬剤研究所を訪れてみる。


「ミントさん。まず頼まれていた薬ですが、回復薬20個 毒消し薬10個は出来ました。全部、買われますか?」

「はい」


「分かりました。麻痺消し草ですが、研究するのにいくつか使ってしまったのですが、とりあえず10個は出来ました。こちらも買われますか?」


「いくらになります?」

「40Pになります」

「分かりました。買います」


「いつもお世話になっていますし、素材も提供いただいているので、今回の麻痺消し薬の分は、半額にしておきますね」


「わぁー、ありがとうございます!」

「どう致しまして」

 と、サイトスさんは返事をしてニコッと笑った。


「量が多いので、あとで運送屋を雇いますね。すみません、その分の料金もいいですか?」


「はい、お願いします」

「では1270Pになります」


 考えたら、すごい額ね。

 財布からお金を取り出し、サイトスさんに渡す。


 サイトスさんは受け取り、確認すると

「確かにお受取り致しました。最後に魔力の結晶の件ですが」


「どうでした?」

「素晴らしいものです。回復薬に投入したところ、効果が二倍近くになりました」

「え! 二倍!?」


 凄い! 凄い! きっとこれは役に立つ!


「はい。あと余った結晶で、飲み物を作ってみました。これは魔法が使える人間にしか効果が分からないので、使えるか、どうかは分かりませんが」と、サイトスは苦笑いをする。


 確かにそりゃ、分からないわね。

 あとで私が試してみるか。


「回復薬改もマジックウォーターも、人体に悪影響がないことを確認しているので、ご安心してお使いください」

「ありがとうございます。いくらになりますか?」


「まだ試作品なので、決めていませんね。マジックウォーターの方はまだ効果が分かりませんし」


「そうか」

「両方とも差し上げます。先程の薬と一緒に入れておきますね」

「ありがとうございます」


「こちらこそ。あの素材の方なのですが、今回のもので、薬草以外の素材が無くなってしまいました。調達できるようなら頂きたいのですが」


「分かりました。考えてみます」

「よろしくお願い致します」

 と、サイトスさんは言って、頭を下げた。


「はい」

 と、返事をして私も頭を下げる。


「では失礼します」

「失礼します」


 サイトスさんは研究所の中に入ると、ドアを閉めた。

 さて、引き受けてしまったけど、どうするか?

 公園で少し考えてみるか。


 公園に着くと、白くて長いベンチに座る。

 平日だから、人はちらほらいる程度だ。


 これなら落ち着ける。

 さて、どうするか?

 顎に手をあて、考えみる。


 前みたいにパン屋の常連さんに宣伝しても駄目だ。

 ジャンルが違うから広まらない。

 そう考えるとやっぱり、冒険者みたいな人に宣伝するのが良いわね。


 クラークさんに宣伝してもらう?

 いや、それは……。


「なんだ。今日は休みなのか?」

「わぁ!」


 後ろから聞いたことがある、低くて渋い声が聞こえてくる。

 振り返ると、クラークさんが立っていた。


「はい」

「そうか。今日は木曜だったな」

「そうです」

「考え事か?」


「えぇ、薬の素材が切れてしまったみたいで、調達できないか頼まれたので、どうやったら依頼を広められるかな? って考えていたんです」


「俺は口下手だ。無理だぞ」


 分かっていますよ……なんて言えない。

 クラークさんが移動して、私の横に人一人分ぐらい空けて座る。

 腕を組み、足も組む。


「麻痺消し草で薬は出来たのか?」

「はい」


「それは珍しいものだ。きっと客は来る。その時に出来るだけ会話をして、情報を得るようにしろ」


「情報ですか……」

「それと、最初のうちは依頼の料金は高めに設定しておけ。分かるようになった時に、見直せばいい」


「はい」

「考える事も大切だが、お前はまだ若い、失敗も経験だ。色々やってみろ」


 クラークさんはそう言うと、腕と足を組むのをやめ、立ち上がった。


「では、俺は行く」

「アドバイス、ありがとうございました」


 そうだよね。まずは考えつくこと、いろいろやってみよう。

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