第33話

 雑貨屋に着くと、文房具コーナーへと向かう。

 いろいろ可愛いのがあって、迷っちゃうな。


 ――シンプルで良いか。

 白と水色のストライプ模様のレターセットを手に取りレジへと向かう。


 レジに置くと女性の店員が「いらっしゃいませ」

 と、言って、レターセットの値札を確認した。


「4Pになります」


 財布から4Pを取り出し、カウンターに置く。

 店員はお金を回収して、レジに入れ「ありがとうございました」


 私はレターセットを手に取ると、出口へと向かった。

 

 お店に戻り、二階へと行く。


「あら、お帰りなさい」

 と、奥の椅子に座っていたナザリーさんが言った。


「ただいま。アカネちゃんは?」

「帰ったわよ。もう終わりの時間だもの」


「そうか。ナザリーさん、トト村ってどこ?」

「トト村? ちょっと待って」


 ナザリーさんは小物入れの方へ行き、2番目の引出しを開けた。

 小さな紙を手にすると、テーブルの方へと移動した。


 テーブルに紙を置くと、「この世界は4つの大陸で出来ているのは知っているわよね? 私達が今いる所は、この右下の大陸ね。それでトト村は、この右上の大陸の、この辺り」

 と、ナザリーさんは言って、大陸の下を指差した。


「アラン君、違う大陸に居るのね」

「手紙、書くの?」

「うん」


 ナザリーさんは椅子から立ち上がり「じゃあ、私は下に居るわね」

「ありがとう」

 

 ナザリーさんが部屋から出ていく。

 私は買ってきたレターセットをテーブルに置き、

 小物入れの一番目の引出しから、ボールペンを出すと、

 手前の椅子に座った。


 私はアラン君と別れた後、ナザリーさんに拾われたこと。

 薬草が無事に育っていること。


 クラークさんに出会ったことを書いた。

 最後に、ワイルドボアのサンドイッチのことを書き添えると、

 手紙を折って、封筒に入れた。


 写真は……うーん、どうしよう。

 顔を手で覆い、少し考える。


 ナザリーさんの言うとおり、男の子ってみたいのかな?

 あー……恥ずかしいけど、仕方ない。入れるか。


 私は立ち上がり、小物入れから制服姿の写真を取り出した。

 テーブルに戻り、封筒を手に取ると、

 写真を入れて、シールで封をした。


 立ち上がり、小物入れを開ける。

 ボールペンと手紙を入れ、閉まった。

 あとは適当の箱をもらって、薬草と一緒に入れるだけね。

 ナザリーさんに聞いてみよう


 一階に行き、調理場に入る。


「あら、終わったの?」

 と、調理台の前に立ち、

 メロンパンを半分にスライスしていたナザリーさんが言った。


「うん、ナザリーさん。これぐらいの箱ないかな?」

 と、箱の大きさをジェスチャーで聞いてみる。


「あるわよ。ちょっと待っていて」


 ナザリーさんは半分のメロンパンをトレイに置くと、しゃがみこんだ。

 調理台の下でガサゴソとやっている。


 私がナザリーさんに近づくと、ナザリーさんは段ボールを片手に持って、立ち上がった。


「はい」


 段ボールを受け取る。


「ありがとうございます」


 ナザリーさんは調理台の蛇口で手を洗い「そうだ。ミントちゃんの知り合いからハチミツ貰ったでしょ?」

「はい」


「それを入れたハチミツメロンパンを作ろうかと思って、スライスしていたの。食べてみる?」

「是非!」


 ナザリーさんは水をパッパッと払うと、「じゃあこっちに、いらっしゃい」


「はーい」


 ナザリーさんは、さっき居た場所に戻り、調理台に置いてあったハチミツの瓶を開けた。


 スプーンを瓶の中に入れて、すくい上げる。

 コハク色の液体がドロッと糸状に落ちていき、

 なんとも美味しそうだ。


 やばい、ヨダレが出てきた。

 ナザリーさんはメロンパンの半分を左手に持つと、

 スプーンの近くまで持っていき、

 ハチミツを真ん中に垂らした。


 ジワジワとメロンパンの上にハチミツが広がっていく。

 ナザリーさんはスプーンを瓶に入れると、右手で、もう半分のメロンパンを手に取った。


 ハチミツの付いたメロンパンの上に乗せ、

 なじませるように円を描く。


「出来たわよ」

「待っていました!」


 ナザリーさんからハチミツメロンパンを受け取り、

 早速かじりつく。


「美味しい~」

「じゃあ、限定販売しましょうかね」

「限定?」


「だって天然のハチミツなんて、なかなか手に入るものじゃないでしょ?」

「あぁ」


「そうだ」

 と、ナザリーさんは両手をパチンッと合わせて、

「忘れないうちに、お給料、渡さないとね」


「あ、忘れていました」

「いま、持ってくるね」


 ナザリーさんはそう言うと、調理場を出て行った。


 しばらくすると、茶封筒を片手に戻ってきた。


「はい、いつもありがとうね」

 と、ナザリーさんが茶封筒を差し出し、

「こちらこそ」

 と、返事をして受け取る。


「さて、夕飯の準備をしましょうか」

「はい」

 

 その日の夜。

 寝る準備を済ませ、ベッドに座る。

 ナザリーさんがお風呂に入っている間に、薬草の複製でもしておこう。


 最近、増やせる量も増えているし、15個ぐらいはいけるはず。

 キュイン──ポポポンッ!

 薬草15個が出来上がる。


 ビニール袋に入れて、段ボールに入れる。

 小物入れから手紙が入った封筒を取り出すと、薬草と一緒に段ボールに入れた。


 右手にガムテープを持ち、封をする。

 これでよし! 荷物は明日の休み時間に出しに行くか。

 邪魔にならないよう、段ボールを部屋の隅に移動させる。


 さて、次はお勉強。

 小物入れの上に置いておいた薬草図鑑を手にする。

 

 しばらくすると、ナザリーさんが部屋に入ってきた。

 石鹸の良い香りが漂ってくる。


「あら、まだお勉強?」

「うん、このページ読んだら寝る」

「そう、いつも熱心ね」

「これぐらいしか、私は出来ないから」


 ナザリーさんは自分のベッドに座ると

「これぐらいって言うけど、何事にも熱心なのは、

 立派な才能だわ。自信を持っていいのよ」


 ナザリーさんの優しい一言が胸を熱くする。

 思わず涙が出る所だった。


「ありがとう、ナザリーさん」

「うん。私、先に寝るわね。電気お願い」


「はい、おやすみなさい」

「おやすみ」

 と、ナザリーさんは返事をすると、布団の中に入った。

 

 図鑑の一ページを読み終えると、電気を消す。

 私も布団の中に入った。

 

 今日の整理をする。

 手持ちの薬草【1個】

 手持ちのお金【3476P】

 

 今日は、色々あったな……。

 ハチミツメロンパン、美味しかった。


 クラークさんに感謝ね。

 そういえば、クラークさんの誕生日はいつだろうか?

 多分、教えてくれないだろうな。


 でも日頃の感謝の気持ちとして、何かをあげたい。

 ――今度の休みの日、買って渡せばいいか。

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