第32話

 洋服屋に着くと、まずはズボンを選ぶ。

 さすがに動き回るのに、スカートは、まずいもんね。


 薄い水色のズボンを選ぶと、今度は上着を選んだ。

 これから暑くなるだろうけど、半袖は、まずいわね。


 白にしたいところだけど……汚れるのは確実だし、仕方ない黒にしよう

 黒のシャツを選び、レジに行く。


「いらっしゃいませ」


 レジにすべて置くと、女性の店員は、タグを確認し始めた。


「全部で、90P」


 私がバックからお財布を取り出している間、店員は洋服を袋に入れてくれた。

 90Pをカウンターに置く。


「ちょうど頂きます」

 と、店員は言ってお金をレジに入れた。


「ありがとうございました」

 さて、帰るか。


 お店に帰ると、洗面所で手を洗い、二階に行って、服をタンスにしまった。

 今すぐ手紙を読みたいけど、『ただいま』ぐらいは言わないとね。


 バックから手紙を取り出し、テーブルに置く。

 一階に戻り、ドアをあけ、調理場を覗いてみた。


 ナザリーさんが焼きあがったクロワッサンを調理台に置き、隣でアカネちゃんが食パン一斤をビニール袋に詰めている。


 おー、やってるやってる。

 ナザリーさんが私に気付く。


「あら、ミントちゃん。お帰りなさい」

「ただいま」


 ドアを閉め、中に入ると、二人に近づいた。


「へぇー……」


 アカネちゃん、とても可愛いじゃない。

 可愛い子は何を着ても似合うってことね。


 アカネちゃんが私の視線に気づく。


「どうかしましたか?」

 と、アカネちゃんが不思議そうに首をかしげる。


「いえね。制服姿が可愛いなって」


「え……。そんなマジマジ見ないで下さいよ。恥ずかしいじゃないですか」と、アカネちゃんは言って、うつむいた。


 うんうん、良い良い。

 ハッ ナザリーさんになっている!


 でも何となく、ナザリーさんの気持ちが分かった気がする。


「ナザリーさん。私、上にいますね」

「分かったわ」


「アカネちゃん、頑張ってね」

「ありがとうございます」

 

 心弾ませ二階に向かう。

 部屋に入ると、手前の椅子に座り、手紙を開けた。


『ミントへ』


 へぇー、綺麗な字を書くのね。


『元気にしているか? 俺は元気だ。いまトト村という小さな村に滞在し、休んでいる。ミントからもらったカトレアさんの薬草を使って、怪我人を治したのだが、好評だった。この地域でも薬草は貴重なものらしい』


 良かった、役に立っているのね。

 トト村ってどこかしら? 

 あとで聞いてみよう。


『滞在期間だが、どうやら橋が壊れて、2週間は掛かるという ことで、直るまでは、この村の宿屋にいるつもりだ。この村の宿屋は一つだから、何かあれば、連絡して欲しい』


 じゃあ手紙でも返そうかな。

 あと、薬草も複製して送ってあげようっと!


『トト村で写真を撮ってもらった。良かったら見てくれ アランより』


 同封された写真を見てみる。

 装備が鉄の盾と鉄の胸当てに変わっていて、剣は長くなっていた。


 真ん中に笑顔で写っているアラン君。

 隣にはポニーテールの綺麗なお姉さんが、アラン君の肩に手をあて写っていた。


 元気そうで何よりだけど、これを見て私にどうしろと?


「あらあら、やきもちかしら?」

 と、ナザリーさんが後ろからヒョッコリ顔を出す。


「わぁ、いつから居たんですか!」

「いまさっきだけど?」


「音ぐらい立ててくださいよ!」

「あら、普通に入ってきたわよね?」

 と、ナザリーさんは、後ろに居たアカネちゃんに言った。


「はい」


 私が集中していただけ?


「ミントちゃん。別に女の人と写っていたとしても、気にすることないと思うわ。だって見る限り、アラン君が気にしている様子ないもの」


「私もそう思います。気があれば、もっと恥ずかしそうにしていると思います」


 アカネチャンが乗ってくる。


「そうですかね?」

「そうよ」


「ミントさん、ガンバです!」

 と、アカネちゃんは言って、両手でガッツポーズをした。

 可愛らしい姿に思わずクスッと笑ってしまう。


「二人とも、ありがとう」


 二人とも笑顔で頷いた。


「そうだ。今日、お給料日だから後で渡すね」

「はい、ありがとうございます。ナザリーさん、私ちょっと出掛けてきますね」


「すぐに戻るの?」

「うん、雑貨屋に行くだけなので」

「分かったわ」


 一階に行き、店の外に出る。

 空は夕焼けに染まっていた。


 写真に撮りたくなるような綺麗な空ね。

 アラン君も同じ夕焼け空を見ているのかな?


 後ろで手を組み、空を見上げて、ゆっくりと歩きだす。

 これから先、どうなっていくかは分からないけど、お互い成長できると良いね。

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