第29話

 次の休みになる。


「じゃあ、約束通り、棚を買ってくるわね。ミントちゃんはどうするの?」

「私も出掛けます」


「じゃあ、鍵お願いね」

「はーい、いってらっしゃい」

「行ってきます」


 私はナザリーさんを見送ると、出掛ける準備をした。

 

 準備が終わり、外に出ると、店の鍵をかけた。

 薬剤研究室へと向かう。

 インターホンを押すと、サイトスさんが顔を出す。


「ミントさん、いらっしゃい」

「薬を買いに来ました」

「いま持ってくるので、お待ちください」

「はーい」


 しばらくして、サイトスが布袋を持ってくる。


「この中に入れておきました。厚い瓶ではありますが、ぶつけないように、気を付けてください」

「ありがとうございます」


 お財布からお金を出して、サイトスさんに渡す。


「はい、確かに」

 と、サイトスさんは言って、袋を差し出した。


 袋を受け取り、お店に向かって歩き出す。

 うまくいくと良いな。


 お店に着くと鍵が開いていた。


「ただいまー」


 ナザリーさんがカウンターの近くに立っている。


「お帰りなさい。早かったわね」

「うん、薬を買っただけだから」


「そう。棚の方、夕方には届けるって」

「ありがとうございます。いくらでしたか?」

「80Pよ」


 私は財布からお金を取り出すと、ナザリーさんに渡した。


「薬の値段はどうするの?」

「回復薬は40P 毒消し薬は60Pにしようかと」

「薬って高いのね。割らない様にしなきゃ」


「そうですね」

「薬、ちょっと見せて」


 袋から、瓶を取り出し、カウンターに並べる。


「液体が緑なのが回復? 紫が毒消し?」

「はい、そうです」


「一応、覚えておかないとね」

「ありがとうございます」

「いいのよ」


 夕方になり、木製の棚が届く。

 高さは私の身長の151cmより、頭一つ高いぐらいで、

 横と奥行きは、抱きついた時に少し余るぐらいの大きさだ。

 高さがあるので、板を増やせば色々な種類が置けそうだ。


「これで良かった?」

「うん、大丈夫そうです」

「良かった」


 早速、カウンターに置いていた薬を1個ずつ手に持ち、棚に並べる。


「スカスカね」

「仕方ないですよ」


「さて、これからの事だけど、レジの方は、ほとんどミントちゃんに任すわ。その方が都合いいでしょ?」


「はい」

「出掛けたい時は声かけてね。それに合わせてスケジュール組むから」


「分かりました」

「これからが楽しみね」

「うん!」


 その日の夜。

 布団に入り今日の整理をする。

 手持ちのお金【1695P】

 回復薬【5個】

 毒消し薬【3個】

 

 薬草の数は複製でどうにか出来そうだけど、

 薬の種類をもっと増やしたいな。

 どうすれば良いんだろ?


 一週間が経つ。

 私はいつものように食パン一斤 30個を複製すると、開店の準備をした。


 店の出入り口を開け、お客さんを待つ。

 パンはいつも通り、順調に売れているけど、薬はサッパリね。

 宣伝はしたけど、届いていない?


 ドアがリーン……リーン……と鳴り、お客さんが来店される。

 クラークさん、珍しい。


「なんだ、お前の店だったのか」

「いえ、私はただ雇われているだけです」


「そうか」

 と、クラークさんは返事をすると、薬を置いてある棚の方へと向かう。


 棚の前で立ち止まり、アゴヒゲを撫でるように触っている。

 考え事かしら?


「これだけか?」

「はい、それだけです」

「これ全部を買う。袋に詰めてくれ」

「あ、はい!」


 私は急いで袋を用意して、薬が置いてある棚へと向かう。


「そんなに慌てなくていい」

「はい」


 薬を全部、袋に入れるとレジに戻る。

 クラークさんがレジに近づく。


「全部で380Pになります」


 クラークさんが古びた皮の黒財布をポケットから取り出し、お金を掴むと、ジャラっとカウンターに置いた。


「20Pのお返しです」


 クラークさんはお釣りを受け取ると、財布に戻した。


「種類が少ない」

「え?」

「薬の種類が少ない」


「そうなんですよね。それで困っていて」

「プラントAのように、魔物が薬になるやつや、野草が薬になることもある。図鑑はないのか?」


「あります」

「誰かを雇って、取ってきて貰えばいい」

「そうか! あ、でも、いくら出したら良いのか分からないし……」


「俺が教えてやる。まず俺を雇え」

「え、いいんですか?」


「構わない。俺は町の入口付近にある宿屋を拠点としている。何かあれば訪ねてくるといい」


 クラークさんはそう言うと、私に背を向け歩いていく。


「ありがとうございます」


 クラークさんが立ち止まる。


「礼なんていい」

「え?」

「俺が助けられた時、少年に頼まれた。ミントを助けてくれってな」


 また歩きだし、店から出て行った。


「クスッ」


 律儀な人なのね。


 その日の夜。

 布団に入り今日の整理をする。

 手持ちのお金【2075P】

 

 今日は、だいぶ話が進んだ気がする。

 クラークさんのおかげね。

 今度の休み、訪ねてみようかしら?

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