第20話
次の日の朝。
複製を終わらせ、畑に水撒きをしていると、運送屋が来た。
運送屋はリヤカーを持ちながら「前と同じところですか?」
「はい。いま鍵を開けますね」
運送屋が収納箱の方にリヤカーを移動させる。
私は鍵をあけ、薬草30個をリヤカーに移した。
「確かに受け取りました。預かっていた450Pになります」
と、運送屋は言って、450Pを渡してきた。
「そうそう、サイトスさんからの伝言で、毒消し薬の方も、もっと増やしたいから、次回から40個でいいですか? って言っていました」
「分かりました。大丈夫ですよと、お伝えください」
「承知しました」
と、運送屋は返事をして去っていく。
私はまた水撒きの続きをした。
昼になる。
ノックが聞こえる。
アラン君かな?
ドアを開けるとアラン君が立っていた。
何やら30cmほどの細長い紙の箱を持っている。
「てぶらで来るのもなんだから、シュークリーム買ってきた」
私は受け取ると「わーい、あがって」
「お邪魔します」
アラン君が居間に着くと、カトレアさんが立ち上がり「いらっしゃい」
「お邪魔します」
「魔物退治、ありがとうね。これで安心して暮らせる」
「いえ、良かったです」
「ささ、座って。すぐに、お昼の準備をするわね」
「カトレアさん、シュークリームもらった」
「まぁ、ありがとうね。あとで食べましょ」
「いえ」
お昼の準備を始める。
今日のメニューは、ワイルドボアの燻製肉と、ツナサラダ。
オニオンスープとコッペパン。
お水をガラスのコップに入れ、持って行く。
カトレアさんが最後のオニオンスープを持って来ると「では、頂きましょ」
「はい、頂きます」
「頂きます」
と、手を合わせる。
「アラン君、昨日はどうだったの?」
「間一髪でした」
「そう」
「そうそう、カトレアさん。アラン君、酷いんだよ」
私がそういうと、何かを察したのか、アラン君はビクッとした。
「あら、何があったの?」
「私のスカートがめくれてないのに、パンツが見えてるっていったの」
「ゴフッ」
アラン君がむせる。
「あら、まぁ……」
「バッ、お前、そんなこと、カトレアさんに言うなよ」
「だったら、言わなきゃ良かったじゃない」
「気が緩んだだけだよ」
「あら、そう?」
「クスッ」
カトレアさんが笑い「二人とも仲良しね」
二人で顔を見合わせ、首をかしげて「仲良し?」
「仲良しよ」
昼食を食べ終え、シュークリームを食べる。
私は紅茶を一口飲み、カップを置くと「美味しいもの食べている時に、ごめん」
アラン君はシュークリームをお皿に置くと「どうしたんだ?」
「2人に聞いてほしいことがあるの。まずはアラン君。私、旅について行きたいけど、やめておく。その代わり、アラン君のサポート出来ることを考えて、必ず助けになるから、それで許してほしい」
「そうか……残念だけど、お前が選んだ道だ。何も言うことはないよ」
「ありがとう。今度はカトレアさん。突然で申し訳ないですけど、アラン君が旅立つ日、私もここを出ます」
「そう……、何となくそんな気がしてた」
「まだ薬草の栽培も途中なのに、身勝手でごめんなさい。でも私一人で、サポートする道を探してみたいの」
「薬草は大丈夫よ。必要な時に誰かに依頼して手伝ってもらうから。気にせずに精一杯、頑張りなさい」
涙が込み上げてくる。
「ありがとう、ありがとう……カトレアさん、アラン君」
カトレアさんが立ち上がり、ハンカチを手にして、涙を拭ってくれた。
「二人は私に色々してくれた。そのうちの半分も返せたか分からないけど、頑張るから」
「あぁ、そんなミントに応えられるよう俺も、頑張るよ」
「ミントちゃん、上手くいかなかったら、遠慮なく戻ってきて良いんだからね」
「ありがとう、二人とも」
私は残りのシュークリームを全て口に入れた。
口に広がる幸せと共に、ニッコリと笑う。
「ミントちゃんはやっぱり、笑顔が一番ね」
「そうだな」
二人もニッコリと笑う。
カトレアさんが両手をパンッと合わせ、「そうだ! あとで庭で写真を撮りましょう」
「それは良い考えね!」
「じゃあ俺が、二人を撮るよ」
「じゃあミントちゃんとアラン君を撮る時は、私がやるわね」
「え? 俺もですか?」
「当たり前よ」
「分かりました」
3人はシュークリームを食べ終え、紅茶を飲み干すと、外に出た。
「バックは家でいいよな?」
「うん」
アラン君は古びたカメラを、カトレアさんから受け取ると、離れて行った。
私とカトレアさんは、家の真ん中に立つ。
カトレアさんは左、私は右。
私はカトレアさんの右手を握り、引っ付くように体を傾け、
左手でピースをした。
「撮るよ」
「はーい」
フラッシュが光り、カシャと音がする。
「念のため、もう1枚、撮るよ」
「はーい」
もう1枚が撮られ、アラン君が近づいてくる。
「今度は私の番ね」
と、カトレアさんがアラン君に近づき、カメラを受け取った。
今度は私が左、アラン君が左に立つ。
カトレアさんがカメラを構え「ねぇ、表情が固いわよ」
「そんなこと言われてもー」
カトレアさんは、カメラを一旦おろし「ねぇ、二人の距離も遠いわよ」
「そうかな?」
「困ったわね……ねぇ、ミントちゃん」
「なに?」
「私の時みたいに、手を繋がないの?」
「つ、繋がないわよ!」
と、私が怒った瞬間、カトレアさんがシャッターを切る。
「カトレアさん! いまの撮ったの?」
「うん。はいはい、戻って」
「まったく……」
「ねぇ、二人とも聞いて。二人は離ればなれになるんでしょ? しばらく会えなくなるか もしれないのよ? 寂しいなって思った時、表情の固い写真をみて、どう思う?」
「嫌だ……もう、仕方ないな」
アラン君に徐々に近づき、手を差し出し「はい」
アラン君が黙って手を取る。
その瞬間……カシャ!
写真を撮れる。
「カトレアさん!」
「怒らない、怒らない」
と、カトレアさんは言って、手をパタパタさせた。
「もう……」
「はい、撮るわよ」
ゆるく握っていた手がギュッと握られる。
「アラン君?」
「ごめん、痛かったか?」
「うぅん、大丈夫」
カシャ
「うん、良いのが撮れたかな? 次、行くわよ」
今度は触れるか触れないかぐらいの位置にまで近づく。
「絶対、戻ってきてね」
「あぁ、約束する」
今度は私が握り返した。
カシャ
「うんうん」
カトレアさんがこちらに近づいてくる。
「照れながら怒るミントちゃんも可愛かったわよ」
と、ニコッと笑う。
「もう!」
「カメラ貸してください。俺が町で、現像の依頼をしてきます」
「お願いね」
と、カトレアさんがカメラを渡す。
「アラン君、旅立つ前は顔を出してね」
「あぁ、おそらく現像に一日かかるから、明後日には出るよ」
「分かった」
「それじゃ俺、そろそろ帰るよ。カトレアさん、ご馳走様でした」
「お粗末様でした」
アラン君に手を振り、見送る。
「ミントちゃん」
隣に居るカトレアさんが話しかけてくる。
「なに?」
「ここを出ていくのはいいけど、あてはあるの?」
「うぅん、ない」
「え?」
「ないけど、出来る事を増やしたいから、
とりあえずクレマチスの町に行って、手探りで探してみる」
「そう、気をつけるのよ」
「うん」
「さて家に入りましょ」
「そうだね」
私達は家に入った。
その日の夜。
今日の整理をする。
手持ちの薬草【51個】
手持ちのお金【605P】
言いたい事も言えたし、あとは何をするかだ。
この世界にも慣れてきた。
大丈夫、何とかなるさ。
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