第11話

 次の日の朝。

 

 テーブルには野菜にパンと厚切りの肉が並ぶ。

 手を合わせ「頂きます」

 カトレアさんも手を合わせ「頂きます」


 さて、今日は何をしようか?

 

「ねぇ、ミントちゃん」

「なに?」

 と、返事をして、皿にパンを置く。


「今日、昨日のお肉を渡すから、お肉屋さんに行って、売ってきてくれない? 多分、二人じゃ腐らせちゃうわ」


「いいわよ」

「お願いね」


 食事を食べ終え、お肉屋までの道を聞くと、町へと向かう。

 確か、ここを曲がると商店街って言っていたわね。


 お肉屋さんは、屋台が立て並ぶ、商店街の一角にあった。

 美味しそう……。

 ショーケースの中に、沢山の種類のお肉が、ズラリと並んでいる。


「いらっしゃい。何にします?」

 と、男の店主が声をかけてくる。


「あ、買うんじゃなくて」

 と、私は言って、台車に乗っているお肉を指差し、

「あのお肉を買い取り、お願いしたいのですが」


「へぇー、どれどれ」


 店主がカウンターから出てくる。


「ワイルドボアの肉か。ちょっと重さを量らせてくれ」

「はい」


 店主は台車を移動させ、店内に持って行った。


 帰って来ると、「35kgあったから、210Pで買い取るよ」

「分かりました。それでお願いします」

「はいよ」


 店主はレジを開け、100P硬貨2枚と10P硬貨1枚を取り出すと、「毎度あり」


 私はお金を受け取ると、店を後にした。

 あのお肉、35kgもあったんだ。

 重たいわけだ。

 

 少し疲れた。休みたい。

 ふと、ドリンクを売っている露店が目に入る。

 何か飲みながらにするか。

 

 ドリンク屋は、移動式で、台車みたいにタイヤが付いており、押せるになっている。

 容れ物は透明のカップで、果物のジュースや、お茶などがあった。


「いらっしゃいませ」

 と、女性の店員が声をかけてくる。


「アイスミルクティーください」

「はい、少々お待ちください」


 透明のカップに氷が注がれる。

 続いて、紅茶がティーポットから注がれた。


 ガムシロップとミルクの容れ物が添えられ「お待たせしました。1Pになります」と渡される。


 私は財布から1P取り出し、店員に渡した。


「ありがとうございました」

 

 ミルクティーを片手に台車を押しながら、公園へと向かう。

 ベンチの横に台車をつけると、ベンチに座った。

 ここの公園、前はゆっくり見なかったけど、広いのね。

 

 広い芝生に、並木道……。

 レンガの花壇が中央にあり、

 花壇にはクレマチスが植えられている。

 町の名前になるぐらいだもんね。


 周りを見渡すと、滑り台やブランコ、ジャングルジムがあって、

 子どもが親と遊んでいる。


 アイスミルクティーを一口含み、その様子をジッと見つめる。


「あれ、ミント?」


 アラン君の声が真後ろからする。


「グフッ!」

「買い物か?」


「いきなり、後ろから声をかけないでよ。

 危うく鼻からミルクティーが出る所だったじゃない!」


 バックからハンカチを取り出し、口を拭う。


「ご、ごめん」

「まったく……買い物じゃなくて、

 アラン君が退治してくれたワイルドボアを売りに来たの」


「あぁ、二人じゃ食べきれないもんな」

「うん」

「隣いいか?」

「どうぞ」


 アラン君がベンチの後ろから前に来ると、少し距離を置いて座った。


「何かあったのか?」

「どういうこと?」

「ん? いつも笑顔のお前が、寂しそうな顔していたから、何かあったのかと思って」


「そう……そんな顔していた」

「あぁ」

「そうか……」


 帰りたくなってきた。なんて思ったら、そりゃ寂しい顔もするわよね。


 この気持ち、誰かに分かって欲しいな。

 能力のことも知っているし、アラン君なら分かってくれるかな?


「アラン君には、打ち明けるけど、たぶん私、この世界の人間じゃない」


「は?」

 と、アラン君はキョトンとしている。


 そりゃ、そうよね。


「私ね。コボルトに襲われて、死んでいるの。でも気が付いたら、生き返っていて、この世界に居たのよ」


「えっと……ほんとに?」

「うん、ほんとに」


「そうか……、なんて言ったらいいか分からないけど、凄い体験だな」


「そうね」

「そりゃ、いきなりのことで、寂しくなるか……」


「うん。それに異世界に帰る方法なんて、なかなか見つかるものじゃないでしょ? もしかしたら、存在しないかもしれないじゃない。そう思ったら、寂しくなってきちゃって」


「なるほどな……」


 アラン君はベンチの背もたれに背中を預け、腕を組んで空を見上げる。

 何か考えているのかしら?


「この世界は広い。きっとまだ、誰も見つけたことのない物が沢山あるはず」

 と、アラン君は言って、スッと立ちあがる。


 私の方を見ると「だから、俺が見つけてきてやるよ。お前が帰れる手段」


「え?」


 思いもしていなかった優しい言葉に、胸がドキッとする。


「いいの?」

「あぁ、構わない」


「嬉しい……ありがとう!」


「あ、あぁ……」


 アラン君は恥ずかしそうに髪をポリポリかいている。


「じゃあ、指きりしようか?」

「あのな、ミントは弟がいるから、恥ずかしくないかもしれないけど、そういうの結構、恥ずかしいんだからな」


「えー……、恥ずかしがらなくてもいいのに。まぁいいわ。信じてるからね」

「あぁ」


 そうは言っても、頼ってばかりじゃダメね

 何かサポート出来ることはないかな?


「異世界か……だからか、俺が有名の冒険者になるって言っても、驚かなかったのは」

「どういうこと?」


「この世界に冒険者は沢山いるんだ。有名になる者は、本当に一握り。だから有名になりたいなんて言ったら大抵、笑われる」


「へぇー……、でもそれを知っていたところで、私は笑わなかったと思うよ?」

「――そうかもな」



「ところでアラン君、今日は散歩? まさか、病院抜け出してないわよね?」

「大丈夫だよ。あんなの、もうこりごり」

 と、アラン君は苦笑した。


「それが宜しくてよ」

 私は立ち上がり、大きく背伸びをすると「さて、そろそろ帰ろうかな」

「じゃあ俺も」


 私はアラン君に手を振り、公園を後にした。

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