無能だった私が、複製能力に目覚めて、お店や冒険のサポートしちゃうぞ!

若葉結実(わかば ゆいみ)

第1話

「このお花、綺麗」


 クレマチスの花を一輪手に取ると突然、後ろからガサッと物音がした。


 慌てて後ろを振り向く。

 そこには頭は犬、体は人間のような姿をしたコボルトが立っていた。

 毛は茶色で槍を持っている。

 

 逃げられる様な距離ではない。

 それに足がガクガク震え、立てるかどうかさえ不安だ。

 

 コボルトが槍を両手に持ち、襲いかかってくる。

 

 頭が真っ白になり――。


「きゃあぁぁぁ」

 

 私は悲鳴を上げるしか出来なかった。


 コボルトの槍が胸に突き刺さる。

 激痛が走り、意識が遠退いていく……私、死ぬの?


 ──目が覚める。

 あれ、痛くない?


 起き上がり、自分の体を見てみる。

 傷どころか、血の跡さえない。


「どういうこと?」


 花を摘んでいるときに、コボルトに襲われたはずなのに。

 立ち上がり、周りを見渡す。


 森だということは分かるけど、ここはどこ?

 さっきまであった花畑はどこにいったの?

 

 グ~。

 お腹が空いちゃった。


 そういえば、まだお昼食べてなかったわね。

 確かハンドバックにコッペパンがあったはず──あった!


 コッペパンを取り出し、右手に持つと、近くにある太めの木に寄り掛かると、食べ始める。


 はてさて、これから、どうしたものか……。

 とりあえず食べ終わったら、歩き回ってみるか。


 パン一つじゃ足りないな。もう一つぐらいは欲しい。

 そう思ったその時、コッペパンが光りだす──。


「な、なに?」


 キュイン──ポンッ!

 光が止むと、食べかけのコッペパンが、左手に、もう一つ出来上がった。


 え、何これ? どういうこと?

 どうやって出てきたの?

 疑問しか出てこない。


 出来あがったパンをマジマジ見てみる。

 色はそのまま。

 形は……パンに残った歯型までソックリ。


 匂いは?

 少し離して匂いを嗅いでみる。

 クンクン……うん、パン。


 食べられるのかな?

 触感は、フワフワしていてパンそのもの。


 よし! 考えていても仕方ないから、食べてみよう。

 思い切って、一口食べてみる。


 モグモグモグ──うん、コッペパン。

 何この能力! 凄い!


 何で使えるようになってるの?

 もしかして、コボルトの攻撃で能力に目覚めたとか?


 とにかくこの能力さえあれば、欲しいものが何でも増やせる。

 ん? 待てよ。何でもなのかな?

 

 ふと地面に落ちている石が目に入る。

 石か、とりあえず試してみるか。

 

 丸い何の変哲もない石を拾い上げ、欲しいと思ってみる。

 キュイン──ポンッ。

 出来た! 面白い!


 じゃあじゃあ……木の枝か。

 拾い上げ、木の枝を試してみる。


 キュイン──ポンッ。

 出来た! 出来た!


 じゃあお金は? お金増やせる?

 小銭をハンドバックから取り出し、お金欲しい……お金欲しい… …と、念じてみる。

 キュイン──シーン……。


「ちっ」


 増やせるものと増やせないものがあるみたいね。

 色々と試してみたい!


 今度はバックの中にあったボールペンを取り出して……。

 欲しい!

 キュイン──シーン……。

 あれ、意識が朦朧もうろうと……バタンキュー


「──お嬢ちゃん、お譲ちゃん」


 優しそうなお婆ちゃんの声がする。

 あれ? 私、寝ていた?


「こんなところで寝ていたら、危ないわよ」

 と、ランタンを持った70歳くらいのお婆ちゃんが、心配そうにこちらを見ていた。


 立ち上がると、「ありがとうございます」

「お嬢ちゃん一人?」

「はい」


「そう……。この辺は魔物が出て危なし、もう夜だから、家へおいで。明日、帰ればいいわ」


「いいんですか! ありがとうございます」

「いいのよ。付いてきて」


 お婆ちゃんが案内してくれる。

 

 木造で一階建ての小さな家が見えてくる。

 お婆ちゃんはポケットから鍵を取り出し「ここが私の家よ」


 ドアを開けると、ギィーッと古そうな音がした。


「どうぞ、お入り」

 と、カトレアさんは言うと、ニコッと笑った。


「お邪魔します」


 部屋の中は、ボロくなった木製のテーブルとイスが4つ、

 タンスが一つに台所があるぐらいで、とても質素だった。


 お婆ちゃんは、ぼろくなった椅子を引き、

「なにも無くて、ごめんなさいね。こちらへ来て座って。いま水を持ってくるわね」


「はい」


 テーブルに近づき、椅子に座る。

 ──お婆ちゃんは水を持ってきて、机に置くと「どうぞ」


「ありがとうございます」

 と言って一口飲む。


 お婆ちゃんは向かいに座ると、「そういえば、自己紹介がまだ だったわね。私の名前はカトレア。カトレア・マイフィよ。あなたは?」


「ミントです」

「ミントちゃん、可愛い名前ね」


「えへへ、それほどでも」

「ミントちゃんは、あんな所で何をしていたの?」


「よく分からないんです。花摘みに出かけて、コボルトに襲われたと思ったら、気絶していて……」


「あら……怪我はない? 帰り道は分かる?」

「怪我は大丈夫です。ただ、ここがどこだか……」

「ちょっと待ってて」


 カトレアさんはゆっくり立ち上がると、引出しの中から地図を取り出した。


 私の前に置くと、「今いるのはこの辺よ」

「え?」


 何この地形、それに聞いた事もない地名ばかり。

 だったら……。


「分かった?」

「いえ……、あの、いまは何年ですか?」


 カトレアさんは不思議そうな顔をして

「アルフェイド歴 1900だけど」


 聞いた事もない。

 どうやら過去や未来ではなさそうね。

 これじゃまるで異世界に来たみたいじゃない。


「困ったわね。だったら分かるまで、ここで住んでていいわよ?」


「お爺さんが亡くなってから、裕福ではないけど、貯金はまだあるから大丈夫よ」


 迷惑よね?

 でも、どうやって帰るかも、何をしたらいいのかも分からないし……。


「ごめんなさい。しばらくお願いします」


 カトレアさんはニコッと笑うと「えぇ」

「ところでカトレアさんは、一人でここに?」


「えぇ」

「こんな森の奥で、何をしているんです?」


「旦那が生きていた頃は、薬草を栽培していたのだけど、亡くなってから、近くに魔物の巣窟が出来てしまったのもあって、今は何もしていないわ」


「ここに居るのは危険だけど、もう老い先短し、旦那との思い出の場所は離れたくなくてね。ヒッソリ暮らしているわ」


「そうでしたか……」

「さて、今日はもう寝ましょうかね」

「はい」

 

 寝る準備を済ませ、布団に入る──。

 この布団もボロボロ……。


 きっと、ギリギリの生活をしているのね。

 魔物の巣窟もあるっていうし、お礼に何かしてあげたい。


 でも、私に何ができるのだろうか?

 戦闘能力もない。お金も多分、この世界じゃ使えない。

 複製能力はあるけど、まだ分からないことが多い。

 はてさて、これからどうするか。

──────────────

後書き

──────────────

いかがでしたか?

過去作品なので、お手柔らかに読んで頂けたら幸いです。

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