家庭劇『舌切り雀と意地悪婆さん』 その三

 するとどうでしょう。お爺さんは、十代の若々しい姿に変身したのです!!


 それを見ていた強欲なお婆さんは、苦い苦いと言いながら、薬をごくごくと二本分ほど飲み干し、残った薬を頭からかけて使い切ってしまいました。


 その時です。空の上から雀の大将が飛んできました。


「おお、なんと罪深いことを。お前のせいで、仲間はみんな舌を切られてしまった。治してやる薬ももうない」


 そんな嫌味も、お婆さんはまったく頓着しません。全部、自分の好きなようにやれたからです。


 すました顔をしたお婆さんを見て、青年の姿に戻った元お爺さんは、頭を地面にこすりつけて雀の大将にあやまります。


「申し訳ございませんでした。わたくしがお婆さんを止めていたら、こんなことにはならなかったでしょうに」


 お爺さんの言葉に、雀の大将はうんと頷きます。


「ではそなた。妻のしでかした責任を取ると、そう言うのか?」


 お爺さんは、ますます頭を地面にこすりつけて、はい、なんでも罰を受けます、と言いました。


「よかろう。そのほうの善意に免じて、婆様の命は取らないでやろう。代わりにそなたは、赤ん坊として人生をやり直すことになる、婆様の面倒を見るという役目を与えてやる」


 するとどうでしょう。お婆さんの姿はみるみる若返り。そして、若返りすぎて生まれたての赤ん坊へと姿を変えてしまったのでした。


 お爺さんは、いえ、青年はなんのためらいもなく、赤ん坊をやさしく抱き上げ、よしよしとあやしています。


「お婆さんの命を助けてくださり、本当にありがとうございます」

「うむ。だがそなたはとても善人だ。そのやさしさを受けては、わたくしも慈悲の心を見せなければならん。この中から一人だけ、そなたのあたらしい嫁となる者を選ぶがいい」


 目の前には、うら若き女性たちがたくさん集まってきました。


 けれど、青年はそれではお婆さんに顔向けできませんとかたくなにこばみます。


「そなたに乳は出せぬであろう? それに、婆様の過去の記憶は取り上げてしまった。そなたの善の心で育て上げれば、それなりに善人に育つであろう。みなのうちに、この青年の嫁になりたい者はおるか? 恥ずかしがらずに手を挙げるがいい」


 そこで、地味な着物の若い女性が名乗り出ました。彼女は、青年がお爺さんの頃にかわいがっていた、あの時の雀だったのです。


「こうして夫婦めおとになれるのもなにかのご縁と思い、どうかわたくしを妻として受け入れてはもらえませぬか? その赤子を一緒に育てましょう」


 女性の言葉に、青年の心は震えました。なぜって、最初に見た瞬間から、一目で彼女に恋をしていたからです。


「ですが、それですとますますお婆さんの不興を買いそうでおそろしゅうございます」


 それに、いつのまに人間になったのだろう? たしか舌を切り取られていたのではないか?


 用心深い青年は、ですがあれほどかわいがった雀がこうして人間の姿であらわれたことをよろこび、そして妻としてむかえました。


 こうして二人は、心やさしい娘を大切に育て上げて、しあわせにくらしましたとさ。


 めでたしめでたし


〈以上を持ちまして、家庭劇『舌切り雀と意地悪婆さん』は閉演となります。ご観劇いただき、誠にありがとうございました。また、お帰りの際はお忘れ物のなきよう、足元にお気をつけてお帰りください〉


 終演ブザー


 閉幕


 ☆☆☆


 つづく

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