悲喜劇『わんぱく王子と人魚姫』 その二
姫が海上にあがると、さっそくわんぱくな王子様に見つかってしまいます。
「あ!! 人魚だ!! 婆さんの人魚がいるぞっ」
王子様は大声で叫びながら、老婆へ姿を変えた人魚姫へと近づいて来ます。
やんちゃでわんぱくな王子様に捕まえられてしまう前に、早くウロコを渡して逃げなければ。
そう思う人魚姫でしたが、はじめて見る丘や、日焼けした王子様がとても精悍でたくましく思えて恋に落ち、動くことができませんでした。
「おい、人魚、父王の命があぶないのだ。たのむからお前の肉を父上に食べさせてやってくれないか? ちょっとまずそうだけど」
間近で見た王子様は、遠目で見ていたよりもおさなく、ずっと子供に感じました。
こんな子供のために、大切な体を切り刻まれてしまったら大変! とばかりに、人魚姫は自分の体からウロコを一枚はがして岩に乗せ、さっそく逃げようとしていたところでした。
「こら、人魚、逃げるなーっ」
大切なウロコを渡したというのに、王子様はあろうことか人魚姫に石を投げ、気絶させてしまいます。
そして、王子様は人魚姫を引きずり、丘にあげようとしていました。
そこで奇跡的に目を覚ました人魚姫は、王子様の行いに腹を立て、首飾りから真珠を引きちぎって、あるだけの球を王子様に投げつけて、海の中に帰ってしまいました。
人魚姫は、王子様の無礼な振る舞いに腹を立ててしまったのです。
でももし? と、人魚姫は思いました。もし、自分の顔がいつもの若々しい姫のままだったらどうだったのだろう?
そこまで考えて、人魚姫は首を左右に振りました。
もし、若い人魚姫を見つけてお互いに恋をしたとしても、きっと年をとったらおなじようにののしられるに決まっている。人間とはそういうものだという教育を受けていました。
人魚姫は一息に深く海の底まで泳ぎ、無事に帰り着くことができました。
老婆は、姫がすぐに戻ってきたことに腹を立てましたが、自分から望んでした約束です。渋々人魚姫に若さを、そして声を返してあげました。
「お父様、人間の王子様って、どうしてあんなに無礼なのかしら?」
声を取り戻すなり、人魚姫は泣いて父にすがりつきました。もう二度と丘になんかあがりたくありません。
人魚の王様は、真珠をあるだけ投げつけられたわんぱく王子様のことを鏡で見ています。
「ごらん。王子様は姫に石を投げて、無礼を働いたことをはっきりと気がついて、今では心を入れ替え、ウロコを王様に届けようと、まじめに走っているよ。自分が誰かもわからないというのに」
「ですが王様。人間というものはそう簡単に変わることができるのでありましょうか? それを確かめるのでありましたら、姫の体とわたくしの体を交換してください」
思いもよらない老婆の提案に、人魚姫は泣いてしまいました。
つづく
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