第4話 選ばれたおれたち

「あなたたちを劇場部と知って、お願いがありこうしてお招きしました。突然のこと、数々のご無礼をお許しください」


 婆さんは直角に頭を下げると、おれたちの顔をひとりずつじっくりと眺めた。


「では、この女性はダミーということでしょうか?」


 さっすがリーダー!! こんな時でも無駄に冷静だ。あ、なんかにらまれた。まずい。


「いいえ、お嬢様は余命いくばくもありませんが、実在いたしております。わたくしももはや老体の身、どうか、この話をつづけながら、先へと歩いてはくれませぬか?」

「承知いたしました」


 いたしちゃったよ、薫くんっ!! この呼び方久しぶりだな。


 そうしておれたちは、婆さんの後をついて歩いた。婆さんが先を歩くと緑色の結界は、モーセの海割りのように左右に広がって行く。おれは物珍しそうに辺りを見回しながら、そういや婆さん、この世とあの世がどうたらとか言ってなかったっけと思い出す。


 そこで、婆さんがニヤリと笑った。笑えないだろ? こんなところにお招きされちまったら、普通笑えないっしょ?


「実は、お嬢様の病は幼い頃から身体中に巣食っておりました。それはもう、おかわいそうなくらいにひどい高熱を出したかと思えば、体の節々が痛むと言ったような具合です」


 婆さんはやさしい顔つきになって、舜がお姫様抱っこを継続しているお嬢様を見やる。


「そうしてついに、若い身空で余命宣告を受け、緩和ケアセンター『和楽』へとたどり着いたのであります」


 あれ? なんか婆さん、若返ってないか? おれの見間違いか? わかったぞ!! おれたちから若いエキスを吸い取ってやがるんだなっ!? ってぇーことはあんた、悪魔かなんかだなっ!?


「お若いお方、わたくしはそのような存在ものではございません」

「じゃあぶっちゃけなんなんっすか?」


 おれはたまりにたまった疑問を口にした。すると、一同から婆さんの話に口を挟むな、と叱られてしまった。なんなんだよ、もう。


「そして、お嬢様は『和楽』で初めての恋をしました。お相手もやはり、余命宣告を受けた男性です。彼は、ご自身の御身がおつらいであろうにも関わらず、お嬢様だけでなく、誰にでもやさしく接してくださいました。ところが先日、ついに彼はお亡くなりになられておしまいになりました。享年二十三歳です」


 うっそ。まだ若いじゃん。なんだよ、この泣ける展開は。


「彼がお亡くなりになられてから、お嬢様はすっかり生きる気力をなくしておしまいになられてしまいました。それは、彼とておなじこと。彼も、そんなお嬢様のお姿を天上から眺めやり、心配のあまり三途の川を渡ることすらできずに漂っていらっしゃるのです」


 そしてついに、お嬢様は海に身を投げようとしてしまったのです。


 そうつづける婆さんは、なんだか知らんがいつの間にか絶世の美少女に変わっていた。


 いったいどうなってしまうのかー!?


 つづく

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