第3話 あの世とこの世のはざまで

 海沿いの緩和ケアセンター『和楽わらく』の敷地を踏むのはこれが初めてのことだった。そりゃそうさ、健全な男子たるもの、終末医療の関係者だなんて、縁がないに越したことない。


 だけど、お嬢様と呼ばれたこの美女こそが、まさにその現場に居住しているわけで。


 お嬢様はたいそう顔色がお悪くいらっしゃるため、少々ずるいとは思ったが、駐車場を横切ることにさせてもらった。手当てしてもらうなら、できるだけ早い方がいいに決まっているからだ。


 妙齢の女性が、慣れた口調でこっちだと合図してくれる。おれたちはその後を追った。


 この時思ったが、なにも四人で行かなくてもよかったんじゃないかという事実を口に出す暇もないくらい、突然目の両端に緑色の壁ができてしまった。なんだこりゃ!?


「え? なんだ? これ?」


 リーダー的存在の薫がそう言って、緑色の壁に触ろうとした時だ。突然、妙齢の女性が大声を張り上げた。


「触れてはなりませんっ!! それは、あの世とこの世をつなぐための結界。触れたら元の世界には戻れなくなりますよ」


 え? なに? 婆さん駄女神だったわけ? みたいになるよな、普通。だがな、おれたちは演劇部ではなくて劇場部なんだよ。この婆さんが駄女神だなんて信じない。


 なぜなら、わざわざ一年生の時に新設してもらった劇場部。演劇部と違って、てめぇらで金出して活動してるの。そんなん普通やらないっしょっ!?


 話はそれたが、妙齢の……、もういいや婆さんで。婆さんは険しい顔をしておれたちを見つめる。


 まさか、おれたちは婆さんの恋人候補として選ばれし勇者だとか、そういうんじゃないだろうなっ!?


 つづく

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