第22話

 カナルとミチアらに技術指導を行った夜、礼治郎は自室で目を閉じ、足を組んだ。

 仏教の修行の座り方――結跏趺坐を行い、呼吸を整える。


 よし、やろう……。ステータスオープン!


 礼治郎は無視してきた己の中の力に目を向けることを覚悟した。

 認めることが恐ろしかった自分の能力を余すところなく理解し、受け入れようと決めたのだ。

 生き抜くことに懸命な子供たちに恥ずかしくない自分であるべきだと考えた。

 〈知魂ヌース〉が整理した能力・ステータスに向き合う。




NEME:星野礼治郎(日本出身)  SEX:男  AGE:31 CLASS:隠者


LⅤ :112  HP:360/360   MP:524/401


ATK:10(+255)  VIT:11(+255)  DEF:11(+255)

INT:15(+255)  DEX:14(+255)  LUK:6(+255)


【取得魔法】

〈水〉Lv3〈火〉Lv2〈風〉Lv3〈防御〉Lv4〈身体調整〉Lv2〈身体強化〉Lv1〈倍化〉Lv2〈射出〉Lv2〈加速〉Lv2〈飛行〉Lv1〈解毒〉Lv2〈洗浄〉Lv2〈解呪〉Lv2〈抵抗〉Lv3〈浄化〉Lv2〈音調整〉Lv1〈温度調整〉Lv3〈記憶保存〉Lv1〈継続〉Lv2〈標準〉Lv2〈回復〉Lv4〈感知〉Lv4〈解析〉Lv3〈探査〉Lv3〈魔術増強〉Lv1〈変換〉Lv2〈索敵〉Lv3〈使役化〉Lv3〈年齢操作〉Lv2〈魔法譲渡〉Lv2〈魔力吸収〉Lv2〈支店召喚〉Lv7(▽)


【特性スキル】

〈接客〉〈調理〉〈清掃〉〈解体〉〈保管空間インベントリ〉〈知魂ヌース〉〈自動翻訳マルチトランスレーション〉〈限界突破オーバーザトップ〉〈進化エボリューション



【使役化した者】321名(▽)



 礼治郎はいきなり机に頭を打ち付ける。


「な、なんだよ、+255って!! ありえねえだろう、この補正!!!」


 衝撃の数値に自我が揺れていると、【特性スキル】が目に入る。

 そこには謎の〈限界突破オーバーザトップ〉〈進化エボリューション〉があった。

 これこそが自分が大きく変化した答えであるような気がした。


 まあ……心当たりはありますよ。ムンガンドを倒してしまった時と、3王らを使役化してしまった時とか……。


 礼治郎は薄々自身の変化に気づいていた。パイア解体の時、〈身体強化〉や〈倍化〉を使い忘れても何も問題がなかったことがあった。

 片手で数トンはある肉塊を持ち上げるなど、通常の人間にできることではない。

 礼治郎はしばし頭を抱えたが、見なかったことにしようと決める。でないと先に進まないからだ。


 次に目がいったのは魔法の多さである。

 魔法の達人でも習得できる魔法は10つ前後だという話だというのに、明らかに20を超えている。

 おまけに〈支店召喚〉のように魔力を注いで、成長させていないにも関わらず、レベルが上がっている魔法が沢山あった。その理由をしばし考えたが、まるでわからない。

 さらに〈魔力吸収〉などという初見の魔法も習得している。どんな場面で使うべきなのかも見当がつかない。

 ヴァラステウスらに尋ねても「異世界移転者じゃないから知らない」と言われるであろう。

 従者の数も驚愕だ。表示されている(▽)に意識を集中すると、ポップアップウィンドウで名前がどっと表示される。テンジンら使役した者たちの名前が一斉に見えた。

 少し迷ったがテンジンらのステータスを確認するのは後にしようと考える。あの怪物たちの内情に踏み込むのには別の覚悟が必要に思えた。

 そしてレベルである。あくまで自分の経験則から出された数字だが、112レベルは明らかに高すぎる。

 またふと見ると〈支店召喚〉にも(▽)がついているのに気づく。

 何だろうと思い、(▽)を意識すると、 「▽支店追加」「▽支店固定」「▽レベルアップ」と記されたポップアップウィンドウが開く。

 「▽レベルアップ」以外は意味が分からないので〈知魂ヌース〉に解説を願い出た。


 「支店追加」とは選択して複数の支店を召喚できる。現在2種類、それぞれ1つ召喚可能

 「支店固定」とは特定の場所に設置し、そこにMPを消費せずに置き続ける。ただし撤去にはMPが必要となる。


 と出た。

 「支店固定」は文字通り一つの場所に固定化できるのだと理解したが、「支店追加」には動揺を覚える。

 「▽支店追加」に意識を傾けると、〈ラッキースター〉と〈大平イン〉と出た。


 思わぬことに礼治郎はひっくり返る。


「うっ、嘘だろう? 〈大平イン〉なんてありえない!」


 「大平イン」とは祖父が故郷でやっていた旅館チェーンである。旅館といってもほとんどビジネスホテルといった感じのもので、最高6店舗にまで増えたが、もう8年前に全て倒産し消えていた。

 礼治郎が接客したのも支店長になったのも〈大平イン〉が初めてである。思い出の店であるのは間違いなかったが、予想外過ぎた。

 礼治郎は〈支店召喚〉自身が、自分の内包する何かが起因して展開・発生しているのではないかと想像する。でなければ〈大平イン〉が選択肢に上がることなど考えられない。


「それにしても……〈大平イン〉なんかを呼び出す機会なんかあるかな?」


 田舎臭い、サービスも平凡な〈大平イン〉を呼び出す場面が想像できない。

 一応小さいが温泉が併設されていることと、客間に畳の部屋があるので日本らしさを懐かしく思い出すため以外で、わざわざ呼び出したい気持ちにはならないだろうと想像する。

 〈大平イン〉にまつわるエピソードはいいモノばかりではない。

 礼治郎は予想だにしない自分の魔法の発展に当惑を隠せずにいた。


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