第20話
〈支店召喚〉で〈ラッキースター〉を出して、食事を配布しながら3王に礼治郎は意見を求めた。
「できればパイアをここにいる人たちに解体して欲しいのですが、何か良い策がありますか? パイアを解体するには5つの呪文が必要なのですが」
ニンジンに胡麻ドレッシングを掛けながら妖精王ヴァラステウスは答える。
「パイア解体に必要な呪文だが、どうにかなる算段はあるで候。それがしの見立てでは呪文を使える人材はここに揃っておるでござる」
「え? 誰ですか」
「名は失念したでござるが、10人ばかり魔法に秀でた者がおった。特に2名ほど飛びぬけた逸材がおったでござる」
ヴァラステウスはここにいる人々の資質をほぼ把握していることに驚きながら、礼治郎はさらに尋ねる。
「そうですか。でもどうやって魔法を教えましょうか?」
それにはアルコール9%酎ハイを飲みながら魔王ナフィードが答える。
「〈使役化〉している者ならば呪文の譲渡はたやすいのであるぞ。まさかと思えるほど簡易に行えるので試すが良いのである」
「え? 呪文・魔法を他人に譲ることが可能なのですか?」
「それもこれも〈使役化〉のなせることなのである。〈使役化〉はそれほど重く厳粛な行為である」
それを言われて、礼治郎は背筋が伸びる。望まずに〈使役化〉したとはいえ、他人の人生に大きく関与している事実は明白だった。
「その、魔法譲渡のやり方を教えてもらえませんか?」
その言葉にナフィードは顔を横に振る。
「まさかと思うだろうが我が輩は〈使役化〉してからの魔法譲渡の経験がない。よって教えられることはほぼないのである」
「そ、そうですか」
自力で何とかしなくてはいけないのかと戸惑っていると、5杯目の豚骨ラーメンを食べたテンジンがいう。
「50人は必要だが、ガキどもでも何とかギリギリ、パイア1匹は倒せるようになったでぇ?」
「えっ?」
礼治郎は戸惑いながら、テンジンが唐突に狩りの報告をしていることを理解する。
「持っとった魔槍を3本ばかり貸しちゃったら、筋がええのがおってなかなかやるようになったのじゃ。まあワシの指導の賜物ではあるがのう」
そういうとテンジンはガハハと笑った。
にわかには信じられなかったがテンジンが嘘をつく理由がない。事実だとすると礼治郎が懸念していた食料問題が軽減する目算が立つ。
自分なしでもここにいる者たちだけで自立してくれる可能性が高まる。
「子供を含めた人材でパイアを定期的に狩り、食料に加工できるかをより深く考え、実現化できるか思案してみます」
3王にそう宣言すると、礼治郎は計画を練り、精密な段取りをしようと行動に出る。
そして、次に打つべき手を思いつく。
礼治郎はここ〈聖母の丘〉にある囲郭町での一日の仕事を終えると、自分と向き合うことにした。
〈使役化〉した人々の詳細なデータを見て、正しく把握しようと決めたのだ。
人の人生を左右してしまうと責任を直視したくなくて、避けてきたことだがもはや甘えは許されない。
〈使役化〉している者たちの状態を理解し、的確に魔法の譲渡を行わなければならないのだ。
自室に入ると、ベッドの上でウインドウを開き、〈使役化〉をクリックすると〈命令〉〈使役化した者〉が表示された。
〈使役化した者〉を選択――テンジンたちの恐ろしいデータはスキップして、300名の人間に目を向ける。
「あ、この子だな! ヴァラステウスさんがいったのは」
◇ ◇ ◇ ◇
NEME:カナル(ガイセン町出身) SEX:女 AGE:10 CLASS:なし
HP:11/11 MP:33/33
ATK:5 VIT:4 DEF:6
INT:20 DEX:8 LUK:5
【取得魔法】
〈抵抗〉Lv2
【特性スキル】
なし
◇ ◇ ◇ ◇
カナルは10歳にして高い知性と魔力を持っていた。〈天職〉を授かる前だというのにすでに〈抵抗〉の呪文が使えていた。
確かにこの子ならば魔獣解体に必要な〈浄化〉〈洗浄〉〈風〉〈温度調整〉〈補強〉〈解呪〉のいずれかを教えられるように思えた。
「で、もう一人は――?」
単純に魔力が高い子をすぐに見つける
◇ ◇ ◇ ◇
NEME:ミチア(赤日町出身) SEX:女 AGE:14 CLASS:祈祷師
HP:18/18 MP:28/28
ATK:10 VIT:15 DEF:11
INT:15 DEX:7 LUK:5
【取得魔法】
〈解毒〉Lv1
【特性スキル】
なし
◇ ◇ ◇ ◇
こちらは〈天職〉を授かっているのか――礼治郎はミチアという子にも高い可能性を覚える。
ミチアには何でも魔法を授けても良さそうだな……と思ったがここで先ほどナフィードに言われたことを思い出す。
〈使役化〉を用いた魔法譲渡は経験した者が少ないので、参考になるようなことは言えないと。つまりは先例がないのだ。
礼治郎は誰に頼ることもできないと思い、独断で決めるしかないと覚悟する。
えいや! と実行しようとするがここでまた判断が鈍る。
――でも個人的な希望も聞いておくか……。
肉の解体を見るのも嫌だという可能性もあると思い、カナルとミチアに面談しようと考えた。
適性がどこまであるのか、直接言葉で確かめるのは悪い判断ではないだろう、と。
「つまり……結局結論、先送りか――」
礼治郎はやっぱり自分は優柔不断なのだろうと鑑定した。
今日中に魔法の譲渡に着手しようと思っていた礼治郎だったが、一晩冷静に考えることにした。
パイアの解体だけでなく、全般的に広く客観的に状況を見つめようという考えに至る。つまりはまた先送りしたのだ。
「さて、ノルマを終えるか」
礼治郎は〈支店召喚〉で〈ラッキースター〉を出すと寝る前に全ての〈魔力〉を金に換える。
そしてその金でできるだけ〈ラッキースター〉の商品を買い込んでいく。
月間売上高のために一日50万円以上買い込むことが日課となっている。
今一番買い込むのに集中しているのは下着である。〈聖母の丘〉で暮らす者に今一番早急に必要なのは下着だ。
しかも子供のモノが大量に不足している。
〈ラッキースター〉で前金での商品予約ができるが300人分を補充するのにはなかなかに難しい。店頭にあるものを直接仕入れられても、一日に20人分が限度だ。
どだいコンビニで衣服の購入は無理だとはわかっているが、親と暮らせない子供たちにせめて快適な環境を過ごさせてあげたいと思う。
考えながら次々と商品を購入し、〈
マルチメディア端末「イデア」とはコンサートなどのチケット購入、公共料金の支払いなどがメインで行えるオンライン機器である。
電子マネーのチャージや振り込みもできるが、他にも何か機能があったように思い、「イデア」に触れてみることにする。
「チケット購入」「お買い物」「支払い」「各種サービス」の項目が現れる。
「お買い物」を選択すると「宝くじ・スポーツくじ」「ネットマネー」などの他に「店頭宅配ボックス受け取りでの買い物」があった。
「店頭宅配ボックス受け取りでの買い物」を選択すると、更に「食品」「酒」「衣類」「生活雑貨」「電化製品」「書籍」の項目が出る。
「うおおぉぉぉぉぉ~!!」
礼治郎は「イデア」の前で両手に握りこぶしを作ると絶叫した。更にガッツポーズを取って、小躍りを開始する。
随分前に「イデア」に「店頭宅配ボックス受け取りでの買い物」の機能が追加されると聞いていたことをようやく思い出す。
店頭宅配ボックスとは、ロッカーのような形状の設備で、個別に暗証番号を入力することで荷物を受け取れることができるのだ。
スマホ全盛期に通常のネットショッピングを、マルチメディア端末でする意味がないと礼治郎は思っていたが、今は違う。
スマホがロクに使えない以上、「イデア」で直接買い物ができることはありがたかった。
ふと我に返ると、〈ラッキースター〉をレベルアップした際に増えたのが「イデア」であり「店頭宅配ボックス」である。
つまりは高レベルになっていないと「店頭宅配ボックス受け取りでの買い物」を使えなかったのである。
「やった! これはありがたい! 魔力を注ぎ込んでいてよかった!」
そういうと礼治郎は嬉々として買い物を始める。
まずはもちろん、子供用下着を640着、Tシャツ、スウェット上下を640着、様々なサイズの運動靴を330足、エアーベッド330個を購入した。
それだけに留まらず、礼治郎は次々と買い物を続ける。パソコン、家庭用蓄電池太陽光発電、プロジェクター、髭剃り器、据え置きゲーム機……。
ムンガンドの財宝までつぎ込んで一晩で400万円ほど色々なモノを買い込んだ。
店頭宅配ボックスの受け取りを時間指定にすることでフル活用し、買えるだけものを買い、受け取りまくる。
翌日から数日、礼治郎は店頭宅配ボックスの前で遅滞が発生しないように待機し、商品を的確に手に入れていった。
〈聖母の丘〉の住人の生活はこれにより大きく変わっていくのであった。
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