夢舞台

雲染 ゆう

はじまり

 夢舞台 はじまり


「お早う御座います」

「お早う御座います」

 挨拶をして第二十五楽屋に入ると、既に女優や子役達で混みあっていた。これから舞台へ出る者、帰り支度をしている者、それぞれに、台本を確認したり、結った髪を解いたり、忙しそうである。私の、大好きな景色だ。

 私は胸いっぱいに空気を吸い込むと、どうにか、空いている鏡台を見つけて、椅子に腰掛けた。そして、鞄の中から今日の台本を取り出して、最初のページを開くと、自分の役を確認した。主役は、小学生の女の子である。

 今晩は、三つの舞台に出なければならない。

 一つ目の舞台は、女教師の役。二つ目は、お婆さんの役。三つ目は、幽霊の役である。

 私は鏡と台本の写真とを見比べながら、自分の顔をこね始めた。唇を分厚くして、目を少し細くして、眉間に浅く皺を作る。そうして、写真の通りの顔にすると、化粧をして、紺色のワンピースに着替えた。

 素早く支度を終えると、鏡台を離れた。早く、次の人に譲らなければならないのだ。

 歩きながら、鞄の中に手を入れて、小さな懐中時計と夢渡りのドアノブを取り出すと、時計で時間を確認した。出番まで、後十分。

 鞄を、楽屋の外の廊下にあるロッカーに預けると、懐に時計を隠して、台本を開き、座標を確認した。

 そして、夢渡りのドアノブに付いている、複雑なダイヤルを何度も回して、座標の通りに合わせる。すると、かちゃりと、鍵の開いた良い音がして、目の前に扉が現れた。

 さあ、夢舞台が始まる。

 気合を入れて息を吸い込むと、私は細工の施された金のドアノブを回して、舞台となる、少女の夢の中へと足を踏み入れた。


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