12話 私のビールはどこへいく?
「暑い! もう限界だぁ。今日の仕事終わり!」
「クーラーつけろよ」
猫又め。今は電力不足なのだ。貢献せねばならないのだ。電気代がどうとかではなく。
ともかくキッチンに。猫又もついてくる。どうせ説教するに違いない。無視。
「ビール。まだ午後だけどいいよね」
冷蔵庫から1本の黒生を取り出す。
とりあえず、テレビを見ながら飲も……
『ずるり』
部屋の中から嫌な感じの音がする。
「こんな時間から酒……お客がいるみたいだな」
「猫又、ちょっと見てきて」
「何故お前の言うことを聞かねばならんのだ」
ぐ……。
「そこをなんとか」
「そろそろ慣れたらどうだ」
慣れるわけないだろう。
「しょうがねえな」
猫又はスルリと部屋に入っていった。優しい。
「ねえ、なんかいる?」
『いる。その上酒を要求してる。持ってこないとお前を呑み込んでやるだと』
まさか酒呑童子? やめてくれ。
『なに。ふむ。シュワシュワする酒か。おい、ビールが飲みたいそうだ』
うわぁ。5、6本でいいかな。多分駄目だと思うけど。
冷蔵庫からビールを持てるだけ持って。
勇気をだして扉を開け……
「ギャー!」
蛇、蛇、でっかい蛇がとぐろを巻いて……あら? 頭にネズミっぽい耳がある。ちょっと可愛い。
「おい、例の酒を持ってきたか? 酒呑童子に聞いたぞ」
缶ビールのプルトップを開ける。私のビールなのに。
「はい。これ」
「おい。手が無いからそれでは飲めん。お前ごと呑み込んでやろうか」
「いやいや、ただいま飲めるような
慌てて外に出る。猫又もついて来た。
「アレなに?」
「ウワバミだ。相当な量を用意した方がいいぞ」
「あるだけのビールで足りるかなあ」
それにあの頭のサイズの入れ物は……
「あ、そうだ」
これこれ。この馬鹿でかいジョッキ。
興味本意でポチったやつ。こんなにでかいとは思わなかった。わたしの頭がすっぽり入る。
しかし、これを使った時のことは思い出したく無い。
「お、重い」
「お前……」
猫又よ。言いたいことがあるなら言え。
「バケツでも良かったんじゃないか? そもそも片手で持てないほどのをなぜ買う」
「うう」
わたしはその巨大ジョッキをウワバミの前まで運ぶとビールをありったけ注いでやる。
「あの、これなら」
「うむ」
ウワバミの頭がジョッキに入った。それはいいのだが。
あっという間に飲み干された。
「うむ。確かにこれは面白い」
ご満足いただけたようだ。多分。
「だが足りん。もっと持ってこい」
ですよねー。
結局、冷蔵庫にあったビールが全て消えた。
「足りん」
「し、少々お待ちを」
いかん。満足するまで呑ませるか、私が呑み込まれるかの2択という。
……奴に頼るしかない。嫌なのだが、電話を。
『やあ、
相手は
「出た出た! 見せてやるからドラム缶いっぱいのビールを持ってすぐ来い」
『ドラム缶?』
「頼んだぞ」
『ちょっと待って下さいね』
電話が切れた。あてがあるのか。ドラム缶のビール。
約15分経過。
ウワバミが早くしろとイライラし始めている。しかし1、2時間は我慢してほしい。
「猫又、ウワバミにもう少し我慢してもらうよう……」
『ピンポーン。賀茂でーす。入れて下さーい』
速すぎないか? しかしそんな事を考えている場合ではない。玄関を開ける。賀茂泰成がいた。手ぶらで。
「速いのはいいがなぜビールを持ってこない!」
「まあまあ。とにかく中に入れてください」
私は慌てて賀茂泰成を引っ張り込み、ウワバミの待つ部屋に押し込んだ。
「土足ですよ。しかし依代さん、その格好は」
「どうでもいいから早くビールを」
「あ、ウワバミさんですね。どうも」
「なぜ酒ではなく陰陽師を連れてきたのだ! 退治するつもりか!」
あ、やっぱりね。怒ったよ。
「いえいえ、退治なんてしませんよ。妖怪と敵対するより親睦を深めたほうが良いと。ビールですね……ってなんですか、この馬鹿でかいジョッキは」
「そんなのどうでもいいから早くビールを」
「しょうがないなあ。ウワバミさん、ちょっと失礼」
賀茂の奴はジョッキに御札を貼り何やら呪文を唱え始めた。嫌な予感が。
「では『
おお! ジョッキにビールがあふれ出してきた!
「お、どれどれ」
ウワバミは嬉しそうにビールを呑み始めた。
が、頭を出さない。長い。息継ぎしない。
「おい、何でビールが出続けるのだ」
「ビール工場のタンクとこのジョッキを接続しました。最近の地図アプリは便利ですねえ。工場すぐ見つかりました」
賀茂の奴は楽しそうにスマホをこちらに向けた。
「しかしこれって泥棒なのでは?」
「丸ごと購入するので問題ないですよ。後払いで。あ、後で請求書送ります」
なんだと?!
っと、ようやくウワバミがジョッキから頭を抜いた。
「なかなか面白い酒だ。ちょっとほろ酔い加減だが今日はこのくらいにしておこう」
今日は? これでほろ酔い?
「ではまたな」
ウワバミはそういって『ぽん』と消えた。
……助かった。あ、いつの間にか御札が消えてビールも出てこなくなってる。
賀茂の奴の手の上で御札が燃えている。
「良かったですね、この程度で。タンク2本目に行くところでしたよ」
工場のタンクひとつ分のビールの値段はいったい……
「もういい帰れ」
賀茂の奴を無理やり玄関から追い出す。
「ウワバミを見せてもらったので今回はチャラにしてあげます。また呼んでくださいね。呼ばれなくても来ますけど。それでは『疾』!」
来るな……って、消えた?! 実はあいつも妖怪だったというオチか?
「所でこのビール代、必要経費として落ちるかな」
「俺に聞かれてもなー」
ですよね。
部屋に残された馬鹿でかいジョッキがひとつ。
「もう何か要求してくる妖怪は勘弁して欲しい」
「泣くな。まあ頑張って働け」
猫又……慰めになってないぞ。
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