どうやら俺は逆ナンされたらしい。

 「今日は三人でデートですかね?」

 「お前はデートの意味を知らんのか」

 

 談笑してから5分ほどして、テーブルにガスコンロが運ばれてきた。

 この時間で決まったのは原宿に行くという事だけ。

 

 「おっ、そろそろですかね」

 

 次に心々音のお目当てのチーズタッカルビが運ばれて来て、ガスコンロの上に置かれた。

 鉄のようなもので出来た鉄板の上には、カットされた二色のチーズが鉄板中央に敷かれ、両サイドには赤く染められたネギ、玉ねぎ、鶏肉が並べられていた。

 店員さんがガスコンロを点けると、次第にチーズが溶かされ端に置かれたネギと絡み始めた。

 野菜や鶏肉に火が通ったことを確認して心々音は鶏肉とチーズを絡めて皿に取り分けた後「いただきます」と礼儀正しく手を合わせ、パクっと一口食べた。

 俺も心々音を見習い、同じような手順を行い鶏肉を一口食べた。


 「うまっ」


 鶏肉をコーティングした辛味のあるタレ、それが異様にチーズとマッチングしていて辛味を良い感じに打ち消している。

 そして辛味を全て打ち消すのではなく、程良い辛味が口の中に残り体を熱くさせる。

 玉ねぎも食べてみたが玉ねぎの甘味とタレの辛味、チーズの甘さがマッチしていてとても美味しい。

 やはりこのタレがカギになっているのだろうか。

 みるくもバクバクと無言で食べ進め、いつの間にか三人前あったタッカルビは10分ほどで無くなっていた。


 「美味しかったですね」

 「ああ、美味かった」

 「ちょっと足りない気もするけど……」

 「原宿に行く予定ですし、美味しいスイーツとか食べれば良いんじゃないですか?」

 「そうだね!スイーツいっぱい食べる!」


 席を立ち上がり、会計をする。

 割り勘は面倒臭いと思い、俺がまとめて払おうと思ったがすでに心々音がまとめて払っていた。

 アプローチされている人間に全額奢られる。

 俺はなぜか劣等感を感じながら店を出た。


 新大久保駅に戻り、狭い改札を抜け2番線のホームに来た。 

 とんでもない数の人の後ろに並び、混みこみの山手線に再度乗り込む。

 時刻は一時、テレビで見た事のある帰宅ラッシュと同じぐらいの人の乗り込み具合。

 何とか心々音たちに置いてかれないようにと思い、俺ははぐれないように必死に追いかけて何とか原宿駅に着いた。

 

 「人酔いする……」


 みるくがぐったりしながら心々音に抱き着く。

 

 「まあまあ、原宿に着いたことですし、虹色のわたあめでも買いに行きます?」

 「なんじゃそりゃ」

 「行く!」

 

 俺の疑問は無視され、心々音とみるくは楽しそうに竹下通りという看板の方に歩いて行ってしまった。

 人が凄い、俺は見失わないように目で追いながら心々音たちについて行った。


 ~~~


 まずい、見失った。

 改札を抜け、追いかけるまでは良かった。

 だが、人の波に飲まれ目で追っていたが、如何せん人が多すぎて分からなくなってしまった。 

 おまけに信号機で足止めをくらうという最悪なコンボ。

 心々音にさっきから電話をしているが人が多すぎて着信音に気づいていないのだろう、全然出ない。

 

 「もう、どうすれば良いんだよ……」


 ただでさえ人が多いのに土地も初めて。

 こんな場所で迷子になってしまったら終わりだ。

 

 とりあえず電話は諦め、さっき心々音が虹色のわたあめを買いに行くと言っていた事を思い出した。

 俺は【原宿 わたあめ】と検索をかけると「TOMMYトミー CANDYキャンディー FACTORYファクトリー」というお店がヒットした。

 道案内アプリで俺はその店の住所を打ち込み、ナビに従う。

  

 程なくして店の前に来た。

 階段を上り店内に入り、二人を探す。

 

 「いた」


 七色に光るカラフルなライトを使い、店内を照らしているポップな内装。

 可愛いをイメージして作られたのか多種多様な物が飾られていて、アメやクッキーと言ったお菓子や赤や青と言った色の付いたテディベアが壁一面を支配していたり、わたあめが小分けにされた物やアメがチョコレートでコーティングされ、クマの顔が描かれた物などがライトアップされて商品棚に置かれていて、ザ・都会と言う感じがした。

 他にもオレンジ味のチューイングキャンディーや色とりどりのチョコレートがg単位で販売されていた。

 

 カラフルの中に混じる黒色。

 二人はレジで会計をしているようだったので、俺は外で待っていようと思い店を出た。

 

 階段を降り外で待っていると、いかにも陽キャと言わんばかりの制服を着た二人組の女子がこちらに近づいてくる。

 この人たちもわたあめ目的かと思い、俺は歩道脇で待って居ると二人組は店内に行くための階段では無く俺の方に近寄って来た。


 「ねぇ~、もしかして君一人?」

 「ふぁい!?」  


 急に話しかけられ、ビックリしてしまい変な声が出てしまった。

 二人組をよく見てみると、これはまた心々音とみるくに引けを取らないほどの美人だった。

 一人はギャルゲーやアニメで見る感じのギャルという雰囲気、顔は普通に整っていて「モデルやってます!」と言われても違和感を覚えないほど。

 もう一人はフワフワした雰囲気が感じられ、いわゆる天然系と呼ばれるタイプ。

 顔は大人っぽい感じが出ていて、少しでも気を抜けば一瞬で虜にされてしまいそうな顔だった。


 「ふふっ、初々しいねぇ~」

 「ねえ、もし一人なら私たちと遊ばない?」

 「あ、遊ぶって何を……」

 「そ・れ・は。男と女が体を絡める事だよ?」

 

 あー、はいはいはい。

 これがいわゆる逆ナンってやつですか?

 ふっ、俺もここまでイケメンになってしまったか。

 と自画自賛した所でどう返答しようか困る。

 これって断ればボコボコにされるやつか?

 それとも「は?チッ、つれねぇなぁ……」って去り際に言われてメンタル削られるやつかな。

 怖い、怖いんですけど。

  

 俺は返答に困り、頭を掻きむしる。

 相手の陽キャは「ねぇ~、どうなの~?」と返答待ち。

 二人とも早く、早く帰って来てくれぇ!

  

 そう願っていると願いが叶ったのか階段を大急ぎで駆け下りて来る足音が聞こえた。


 「りょーくんお待たせ――ってこの人たち誰?」

 「ありゃ、連れが居たのか」

 「違う男探すかー、せっかく好みの子見つけたんだけどなぁ」


 二人組は「いや~、邪魔して悪かったね。バイバイ、タイプの少年」と言い手を振りながら去って行った。

 俺は安堵の息を吐く。

 ボコボコにされるわけでもなく、メンタルを削られるわけでもなく、最後まで好印象のままでいてくれた。

 何も無くてよかった、とりあえず一安心。

 

 しかし、問題はまだある。

 後ろの二人をどうすれば良いか。

 俺は体をびくびくさせながら後ろを振り返った。

 すると目の前が密度の高い綿のような物に包まれて、視界が奪われた。

 

 「なんだこれ、前が見えねぇ!」

 「ふん、少しは反省してください」

 「おい、この声心々音か?ちょっと、やめてくれ」

 「やめません、反省してください」

 「くっ……おい、みるく。そこに居るんだろ?」

 「うるさい、りょーくんのバカ」

 「ちょっと、二人とも?」


 二人が怒っている理由が分からなかったが、視界が見えないのは危険だ。

 「分かった、謝るから視界だけ戻してくれ」と俺は懇願し、視界は元に戻った。

 どうやらわたあめを顔に押し付けられていたらしく、俺の顔面はベトベトになってしまった。

 ベトベトなのを我慢していると、不貞腐れた態度の心々音に「はい、あなたの分です」と言われ顔面に押し付けられたわたあめを貰った。

 みるくは美味しそうに虹色のわたあめを食べている。

 それを見て、俺も一口食べる。

 うん、美味しい。

 でもお祭りとかで売っている普通のわたあめにしか感じない。

 それ以上でもそれ以下でもない、ただのわたあめ。


 「もう、はぐれないでくださいね?」

 

 心々音は恥ずかしがりながらもわたあめを持っている腕とは逆の腕で俺の腕に絡ませて、俺が逃げられないように抱き着いて来た。

 急な出来事に俺はドキッとしてしまい、わたあめを落としてしまいそうになった。

 みるくはその間もわたあめを食べていて、いつの間にか食べ終わっていた。

 みるくは心々音が俺にだきついていることには目も触れず、俺のわたあめをジーっと眺めていた。

 

 「……いるか?」

 「良いの?」

 「ああ、食べたいなら」

 「食べる!」


 顔面が押し付けられた部分を取り除き、わたあめを渡すとみるくはまた美味しそうに食べ始めた。

 そんなみるくを確認した後、心々音の方を見ると不機嫌そうにわたあめを食べていて、目を合わそうとするとそっぽを向いてしまった。

 俺はため息をついた後、頭を抱える腕は無いが脳内で頭を抱えた。

 東京旅行、この調子で大丈夫なのだろうか。

 この先心配だ。

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