どうやら俺の恋愛イベントは最悪な形になったらしい。
「おい、どうした!?」
泣き崩れているみるくに急いで駆け寄る。
みるくは俺に気が付くと、すぐに抱き着いて来た。
「りょーくん、もう私いやだ……」
「おい、どうした。何かあったのか?」
「もうやだ……人怖い……」
こんな状況を人に見られてはマズい。
みるくが落ち着くまで待った後、みるくの家で話を聞くことにした。
電車に乗っている時も駅に向かう時も、みるくは何かに怯えるように震えていた。
「大丈夫だから」と言い手を握ると、多少は体の震えが軽減されたのか「う、うん……」と安心した声を出した。
家に着き、みるくの部屋に行くとみるくは抱き着いて来た。
「りょーくんは私の元からいなくならない?」
家に入って突然の行動、そして急な質問に少し戸惑ってしまう。
「ど、どうしたいきなり」
「ねぇ!聞いてるの!」
みるくにしてはドスの聞いた声、その声に少しビビりながら俺は真剣に答えを返す。
「当たり前だろ、一回落ち着こう、な?」
「無理だよ、落ち着けなんてしないよ」
「なんでだよ」
「だって、私がりょーくんなしじゃ生きられないって自覚しちゃったんだもん」
なんなんですかそのアニメとかで出てくる「私から離れないって言ったじゃん!!」みたいなメンヘラお決まりセリフは。
怖いんですけど。
「もう、何があったか話してみろ」
「うん……」
みるくは俺に抱き着きながら今日あった事を話し始めた。
「今日帰りにね、りょーくんのとこに行こうとしたら金森さんに呼び止められて、着いて行ったら……すぐっ……」
「ゆっくりで良いから」
やはりまだ落ち着けていないのか、みるくは半泣きの状態で説明する。
話に出て来た金森さんとは、
部活動には所属していない、いわゆる帰宅部。
委員会も図書局でデカい丸眼鏡をかけていて、カースト上位の女子集団から陰キャと呼ばれているのを聞いたことがある。
陰キャと呼ばれているのも仕方が無いと言うか、常に落ち着いてるし自分から何か行動を起こそうとしない、そんな人だ。
「その金森さんにね【あなた、中野みるくでしょ?】って言われて、最初ははぐらかしたんだけど立て続けに攻められて、最終的に【身バレしたくないよね、だったら私の言うこと聞いて】って言われちゃって」
「そうか、大変だったな」
「それで、私の事何で知ってるのか聞いたら【あの日、私涼真くんがプリント届けろって言われているの見て、その後Twltter見たら切り抜かれててさぁ、凄くゾクゾクしたよね。人の秘密を知っちゃってさぁ】って私に迫って来て……それで……」
「分かった、もういい」
「違うの、続きがあるの」
みるくが焦ったように言った言葉に俺は衝撃を受けた。
「明日、りょーくんに告白するって言ってた。それで【りょーくんは私の物にするから、二度と近づくな】って私に言って来たの……」
俺に、告白かあ。
確かに告白はどんな形でも俺は嬉しい。
でもこれは、あまりにも酷くないか。
人の弱みを握って、自分が優位に立ち人を操る。
そして、自分の思うがままの物語を築き上げていく。
確かに、自分は幸せになれるかもしれないが他人は幸せになれない事がほとんど。
大切な幼馴染を自分だけが幸せになるため物語に勝手に組み込まれた。
それがどんなに嫌な事か、俺は怒りで頭がどうにかなりそうだった。
「そうか、今日はもう安静にしてろ」
「ねぇ、まだ居て?私、怖い……」
「ああ、分かった。気の済むまで居るから」
「うん、ありがとう……」
俺は父に「みるくの事で少し用事が出来たから今日帰るの遅くなる」と連絡を入れ、みるくのそばに居る事にした。
安心しきれないのか、みるくは俺の腕にずっと抱き着いている。
頭を撫でてあげると、安心できるのか頭をスリスリと擦らせてくる。
それがなんとも可愛いらしい。
少しして、みるくが安心しきったのか寝てしまった。
小さな身体を持ち上げて、ベットに寝かせてあげた。
もう大丈夫だろうと思い、スマホで時間を確認しようとするとLIMUの通知が来ていた。
誰だと思い、開いてみると送り主は金森だった。
【急に個人LIMU追加しちゃってごめんなさいm(__)m、明日の朝、少し早めに来てもらえませんか?大事な話があるので】
俺はスマホを地面に叩きつけた。
散々人の事をイジメておいて、自分は猫を被る。
そんな金森の態度に怒りを覚え、腹が立った。
~~~
いつも通りの起床、だが気分は最悪。
金森の事で凄く腹が立つ。
みるくに事前に「今日は一人で登校してくれ。金森から連絡が来た」とLIMUを送っといた。
「ねえ、いなくならないよね……?」と来ていたので「ああ、絶対いなくならないから」と返し、昨日床に叩きつけたことでバキバキになったスマホをポケットに入れた。
気分が最悪過ぎて、朝食が喉を通らない。
仕方ないと思い、残したおかずとご飯にラップをした後、弁当を作り少し早い電車に乗った。
学校に着き、教室に入ると金森が一人ポツンと座っていた。
「あ、涼真くん。来てくれたんだね……」
「ああ、それでなんだ。大事な話って」
わざとらしい態度、猫を被っているのがバレバレだ。
だが、みるくから何も言われてなかったら俺は見抜けなかったかもしれない。
金森に「ちょっと、こっちの教室で……」と言われたので、空き教室に移動した。
教室につくと金森は「あのね……」と体をモジモジさせた後
「私、ずっと前から涼真くんの事好きでした!付き合ってください!」
と言った。
はあ、本当に嫌だ。
気持ちが悪い。
こんなに最悪な告白があっただろうか、人を妬んだ末、弱みを握り、優位に立つと人が大切にしている物を奪おうとする。
本当に気持ちが悪い、気分は最悪だ。
「いいよ」
「ほんと!?やった!」
「って言うわけねぇだろ」
「えっ」
陰キャを装い、弱みを使い、そして人の大切な物を奪うゴミに現実を見せてやる。
「お前の話は全部聞いてんだよ」
「え?何を言ってるの……?」
「お前が俺の大切な人を脅して、俺のそばから消させて、自分の物にしよう。そういう考えだったかもしれねぇけどな。全部バレバレ、猫被ってんのも気色悪い」
金森は急に大きな声で笑い出した。
「ハハハ!そうか、全部バレバレだったんだね。でもさ、彼女は約束を守らなかった。だから全部晒してあげるよ、これで君と君の幼馴染は人生終了だね~、いや実に滑稽だね」
「脅しのつもりか」
「脅し?そんなんじゃないよ、もう実行するって決めたから」
「はあい、終了」
俺は自分のスマホを取り出した。
「これさ、録音してるんだわ」
「は?」
「俺がこれをクラスメイトや学校側に晒すことだって出来るし、これを証拠に【脅されました~】って運営に泣きつくことも出来る。運営はきっとライバーを守るために君の事を訴えると思うけどな~?」
昨日運営には確認済みだ。
このような事態になったらどう対処してくれるか、そう聞くと証拠が取れ次第すぐに訴えるとの連絡を貰った。
「それこそ、脅しじゃないですか!?」
「あ?お前から脅して来たんだろ。何も関係ねぇよ」
金森は絶望したのか尻もちをついた。
「お前さ、言わせてもらうけど。お前は見る側の人間だ、何を言っても何をしても悪気はないかもしれない。でもみるくは、そんな奴らに毎日ネットでコメントを書かれてるんだ。言葉だけでも人は傷つくんだ、加えて相手がどんなやつか分からない、そんなやつにグチャグチャ言われる身にもなってみろよ、考えた事があんのか!?言われたやつの心、気持ちを。みるくの事、なんにもわかんない状態で物事べちゃくちゃ喋ってんじゃねよ、ふざけんな。それに、アンチの言葉でも傷つくけど、どんなことが一番傷つくか知ってんのか?面と向かって暴言とか悪口とか言われるのが一番傷つくんだよ。それを覚えておけ、ゴミが」
俺は泣きそうになっている金森をよそに空き教室から出た。
教室に戻ると、すでに何人かの人が居てその中に心々音とみるくも居た。
「あ、涼真くん。今日は早いですね。隣から何か大きな声がしましたが……」
「ああ、ちょっとな」
「りょーくん……」
「どうした?」
「その……大丈夫だった……?」
「ああ、大丈夫だ」
「魅了されていない?心揺らいだりしてない?」
「ああ、大丈夫だから。安心しろって」
「良かった……」
みるくは人目も気にせず抱き着いて来た。
みるくの予想外な行動にクラスメイトはこちらに視線を送る。
普段なら「抱き着くな!」って言って剥がすが、今日は違う。
優しく頭を撫でてあげた。
因みに心々音はなぜこんな状況になっているのか理解出来てない様子だった。
そして、犯人の金森はクラスに急に戻って来てカバンを取ると急いで階段を降りて行った。
それ以降、金森が学校に来なくなったが俺は気にしない。
大切な人を傷つけた人間とはもう、関わりたくない。
そう思うから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます