どうやら学年一可愛い女子は幼馴染と面識があったらしい。
「まず運営さんから連絡が来たのは昨日の7時頃です。丁度あなた達の配信が終わって30分ぐらい経ってから急にマネージャーから【少し通話出来ますか?】って来たの。みるくちゃんの配信後の視聴者の反応を見ながら通話したわ」
「俺らの配信を見てたのか……?」
「もちろん、同企業のライバーさんが炎上して、その謝罪配信を行っているんですよ?見るに決まっているじゃないですか」
世界は案外狭いもんだ。
配信するつい二日前に話していた人が俺たちの配信を見ていたってなるとなんだが変な気分になってしまうではないか。
「それに私は、みるくちゃんのモデレーター権限を握っています。何か用事が無い限り配信が荒れない様に見守るのは当然の事なんです」
「モデレーター?」
「ああ、すみません。えっと、モデレーターって言うのは凄く簡単に説明しますけど、配信時にコメントを消したりコメントした人を一時的にBANしたりブロックしたり出来る配信上で特別な権限を持つ人を言います」
「なるほど」
「それでうちの企業は、マネージャー、同企業のライバーがペアになってモデレーター権限を握っていてみるくちゃんは私の配信上ではモデレーター権限を握っています。要するに、私とみるくちゃんはペアですね。だから、私が配信している時みるくちゃんはなるべく私の配信を見て、みるくちゃんが配信している時は私がみるくちゃんの配信を見るって感じでやっていました。でも、私は学校があったのでみるくちゃんの配信はあまり監視できなかったんですよね。みるくちゃんが成人してないってのも昨日知りましたし」
そうなると一つ疑問が残る。
どうして俺が配信に乱入した日、心々音はカラオケに行っていたのか。
心々音の理論というか説明で行くと、途中からでも良いから心々音はみるくの配信を監視する必要があったことになる。
「じゃあなんで俺が配信に乱入した日、カラオケに行ったんだ?」
心々音は特に難しい顔もせず、すぐに答えを出した。
「悟られないためっていうのと私があんまり配信を見る事が出来ないので私のマネージャーが時々監視してくれてるんですよ。私が学生って事は企業さんも知ってくれているので特例でうちのマネージャーも権限を握っているんですよ。丁度あの日もマネージャーが監視してくれてた日なんで」
「でも、みるくも今は学校に来ては居ないが、一応学生だぞ?」
「そうですね。だからみるくちゃんのマネージャーも権限を握ってると思います。それと悟られないとは?という質問が飛んできそうなので説明しますが、私は入学式初日にあかねさんと友達になって初日から遊ぼうと言われました。流石に入学して早々遊ぶのもなぁとも思いましたし、あかねさんの事を私はまだ全然知らない状態でした。なのでお断りしていたのですが彼女は結構しつこくて話しているうちに亮くんとも話すようになってしまって、それであの日、流石にそろそろ遊んであげないとクラスで浮いてしまったり何か弊害が出てしまう気がしたので、マネージャーに連絡して許可を貰って遊んだって感じです」
「まあ、理解は出来た。だが俺と今こうやって食事をしているのは?」
「それは配信で涼真くんは大丈夫そうって思ったので声を掛けました。それに、明日学校で話そうと思っていた事も今ここで話した方が、クラスメイトに聞かれるリスクも大幅に下げる事が出来ますしね」
「なるほど」
話が長くて一瞬分かんなくなりそうだったがなんとか理解は出来た。
高校で浮くかもしれない、確かに心々音は学年一可愛い女子と言われるだけあって人気は高い。
だが、それを良い風に思わない女子も少なくとも一定数いると思うしノリが悪いだけで仲間外れにされるなんて事もザラじゃない。
タイミングが悪かっただけで心々音は特に関係ないと思った。
そして、丁度心々音の話が終わったタイミングでみるくも帰って来た。
みるくは「何話してたのー?」と無邪気な笑顔で聞いて来た。
すると俺が答えを返す前に心々音が答えを返した。
「私がVtuberをやっている事に関してです。ねぇ、みるくさん、いやみるくちゃん?」
心々音はみるくの名前を二回呼んだ、一回目は普通の呼び方、だが二回目はちゃん付けで声も少し大人っぽい声からかなり子供っぽいと言うかアニメっぽい声に変った。
俺はその変わりように呆気に取られていたがみるくは違った。
「もしかして……夏南ちゃん?」とまるで昔から知っていたかのような反応を示した。
心々音は気づいてくれたことが嬉しかったのか席から立ち上がりみるくの腕を引っ張って隣に座らせた。
しかしみるくは隣に座るのはまだ嫌だったのか直ぐに俺の隣に席に戻って来た。
心々音は心底残念そうにしていたがすぐに表情を作り変えて笑っていた。
するとみるくは体をモジモジさせながら心々音に「ほんとに夏南ちゃんなの……?」と小声で言った。
心々音はみるくの言葉をしっかりと聞き取って「そうだよ、みるくちゃん」とアニメ声で返した。
ビジュアル良くて可愛い声を出せたりと声帯も多様と来て凄いと思ってしまった。
そんな風に思っていると、長く話していた事もありバイキングを取りに行く前に料理が運ばれて来た。
中央にチキンステーキ、サイドにハンバーグと牛ステーキが盛り付けられていて隅の方にはブロッコリーとコーン、そして容器に入れられたオニオンソースが盛り付けられていた。
食欲が一気にそそられ、いつもならバイキングコーナーにあるご飯と一緒に食べるのに、今日は忘れてステーキ単体で一口食べてしまった。
みるくに「ちょっとどいてくれ」と言い席から立ち上がり俺はバイキングコーナーに向かった。
今日のバイキングは野菜と海鮮サラダが中心のようで、他にはさっきみるくが持ってきていたゼリーのようなものやパイナップルという果物などのデザートがあった。
バイキング専用の皿に海鮮サラダを盛り付けて和風ドレッシングをかけた、そしてバイキングコーナーのご飯を盛り付けて席に戻った。
こぼしたら困ると思い一度皿を机の上に置いて、みるくに「すまん、もう一回どいてくれ」と言いどいてもらって奥の席に座った。
さて、海鮮サラダを食べようと思い皿を取ろうとすると持ってきたはずの皿が無かった。
隣にいるみるくの方を見ても、みるくは美味しそうにステーキを食べているだけ。
そして前をみると、これまた美味しそうに海鮮サラダを食べている心々音が居た。
コイツ、奪いやがったな。
俺は笑いながら心々音に聞いた。
「おい、心々音?」
「はい、どうしました?」
「それ、俺のサラダだよな?」
「ああ、すみません。つい美味しそうで、お返ししますね」
心々音は何も気にせずにサラダが盛られた皿をこちらによこして来た。
「なんでお前が口付けたやつを俺が食わなきゃいけないんだよ」
「えぇ~?せっかく美少女が食べたサラダを食べれるチャンスを上げたんですよ?間接キスするチャンスを逃しても良いんですか~?」
こいつ、おちょくってやがる。
しかし、心々音が口を付けたサラダを食べる勇気は俺には無い。
「はぁ~」とため息を吐き、俺は心々音にサラダを返した。
「どうぞ食べてください」
「わぁ~!良いんですか、ありがとうございます!」
「今度からは自分で取りに行けよ?」
「もちろんです!」
心々音は俺に敬礼するとサラダをパクパクと食べ始めた。
幸い白飯は食べられてなかったので、俺はステーキとご飯を食べ始めた。
食べている最中、みるくは俺よりも早くステーキを食べ終えてバイキングコーナーに何回もパイナップルを取りに行っていた。
俺もステーキを食べ終えてサラダを食べたり、心々音もサラダを食べたりゼリーを食べたりして美味しい夕飯は終了した。
「ふ~、食った食った」
「そうですね、美味しかったです」
「私はパイナップルいっぱい食べられて大変満足でした!」
口にパイナップルの小さな果肉を付けたみるくが満足そうに言った。
俺はポケットからティッシュを取り出してみるくの口を拭いてあげた。
こういう所はまだまだ子供なんだなと思っていると後ろから「てぇてぇ……」と小さな声で聞こえた。
心々音の方を見るとなぜかとろけた顔をしていた。
「どんな顔してんだ、お前は」
「いやぁ、こんなに尊いものを間近で見せつけられとオタク心が反応してしまいますよ」
オタク心がどういうものか分からないが取りあえずこの行動は良かったのだろう。
そう思いみるくの方を見ると顔を真っ赤にしていた。
「わわわ、私、もう子供じゃないの!」
みるくは拗ねてしまったのか席から立ち上がると歩いて入り口の方まで行ってしまった。
俺は心々音に「会計するぞ」と声を掛けて伝票を持って席を後にした。
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