どうやら配信は始まったらしい。
配信開始の合図のみるくの声。
その第一声を聞いた時、俺は何かに射抜かれた感じがした。
いつものハイテンションなみるくではなく、どことなく気品を感じる惹かれる声。
「りょーさん、りょーさん?聞いてますか?」
ポンポンと肩を叩かれ我に返る。
「えっと、なんだっけ?」
「紹介ですよ、紹介。もしかして、緊張しています……?」
明らかにいつものみるくとは違う。
こう雰囲気も違うし、喋り方も違う、一番違うのは声だ。
凄いこう、大人な感じが増したというかいつもの子供っぽい声とは裏腹に凄く大人な声をしている。
俺が度肝を抜かれている間、少しの沈黙があった。
その沈黙にみるくは気づくと「すみません、少し私たち緊張していましてちょっと待っててくださいね」とその場を繋いだ。
人見知りで俺以外にはあんまり素を見せたり話したりしないのに、実際にではないが今、何千人という人に対してみるくは役を作って演じている。
凄い成長だと感心しているとみるくが「ちょっとりょーくん、しっかりして!」と小声で耳打ちしてきた。
流石にしっかりしないとと思い咳払いをした後「皆さんこんばんは、Ryo.と申します」と言った。
緊張しているせいか少し声が掠れてしまったが言葉を続ける。
「今回お騒がせている件につきまして、深く謝罪を申したいのと共に誤解も解きたいと思っています。まずは、誤解を招くような行動を起こしてしまい大変申し訳ございませんでした。そして皆様に与えている誤解ですが……」
俺はみるくの何なのか、あの日はどうしてみるくの配信に乱入してしまったのかなど説明した。
コメントに目を通そうとするが流れが早くて良く見えない。
何とか数個読み取る事が出来たが「ほんとか?」や「うそくせぇ」など書いてあったが「これはこれでてぇてぇものが見れそうだ」や「みるくちゃんコラボとかあんまりしないから、もし今後配信にRyo.が出るなら俺は普通にあり」など味方側のコメントも見えた。
コメントを見た後に俺は「それで、コメントでもあったと思うんですけどこれからみるくと一緒に配信しようかなと思っているんですけど、皆さんが言いたいことは分かります。絶対彼氏だから――とかみるくの事が好きだから――とか言いたい気持ちも重々承知の上でのお願いです」と俺が言うとみるくも続けて
「私からも、お願いします。最近不幸が重なって私は心に深い傷を負いました。ですが形は最悪でしたがりょーさんが家に来て私の配信に乱入して話すきっかけが出来て私は救われた気がしたんです。皆さんがりょーさんの事を彼氏だと言いたくなる気持ちも分かります。ですが、彼は彼氏でも何でもないただの幼馴染なんです。彼氏ではない、でもいつでもそばにいてくれる、そんな彼を私は頼りたいと思いました」と言った。
俺はみるくの方を見ると丁度みるくも俺の方を見ていた。
二人で息を吸い、声を合わせる。
「「視聴者のみなさん、一緒に配信させてください!」」
声が重なり合い共鳴する。
コメント欄は過去一番のスピードで流れ始めた。
少し間が空いた後「それでは今回の配信は以上となります、今後につきましては公式サイトの方で発表されると思いますのでよろしくお願いします」とみるくが言うとササっとパソコンを操作し配信は終了した。
緊張の糸がほぐれたのか俺はその場に座り込んでしまった。
「りょーくん、お疲れ様!すっごい緊張したね」
「あぁ、もうこんな事したくないし絶対にしない」
「えへへ、そうだね。緊張が無くなったせいかお腹空いてきちゃった」
現時刻は6時20分。
朝はカップ麺を食べたが昼は緊張のせいでまともに食べてれていない。
この二日間、俺が全面的に迷惑をかけてしまったのでファミレスでも誘ってみようかな。
「ねぇねぇ、りょーくん」
「なんだ?」
「何でもしてくれるって言ってたよね?」
「言ってはいたが、あれは何でもするって意味じゃ……」
みるくは「私ね、ステーキ食べたいんだ」と上目遣いでねだって来た。
俺は「ファミレスならな」とだけ言い立ち上がった。
「ファミレスでステーキご馳走してくれるの!?」
「あぁ、まぁ最近使って無かったからお金はある」
「やったー!着替えてくるねー」と言うとみるくは走って下に行ってしまった。
俺は追いかけるように部屋を出て階段を下りた。
しかし、配信の時のみるくには本当に驚かされた。
今でもあの時のみるくが忘れられない。
あの声と喋り方があの日見たキャラとマッチしていた。
下に降りて来た俺はみるくを探すがその姿はどこにも無い。
少ししたら来るだろうと思い、スマホを取り出して今回の配信の反応を調べる事にした。
Twltterの検索欄に中野みるくと打ち込み検索すると、「あのRyo.と幼馴染だったとは驚いた」や「Ryo.って一時期めっちゃ話題になった人でしょ?緊張か分からんけど少し声掠れてたけど、あれは男の俺でもカッコいいって思うわ」などみるくの事ではなくどちらかというと俺の事が主な話題となっていた。
それでも「普通にみるくちゃんの配信に男でるなら見るのやめようかな」などファンを辞める宣言をしている人もちらほら居た。
それでも、大きな炎上事にならなくて正直ほっとしている。
もう少し調べようと思っていたら、「おまたせー!」と奥の部屋からみるくが走って来た。
白一色のワンピース、それがみるくの顔、そして少し茶髪気味な髪とマッチしていてとても可愛かった。
「ごめん、財布取りたいから家寄って良い?」
「良いよ、それでさ」
「どした?」
「似合ってる、かな……?」
腕を胸の位置に置き、願うようにして俺に感想を聞いてくる。
一目見たときから答えは決まっていた。
「すっごい可愛い」
みるくは「えへへ、ありがとう」と言うとそっぽを向いてしまった。
少しだけ見える耳が赤くなっている事に俺は気が付いた。
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