「お前らもう付き合えよ!」と周りから言われてもあくまで俺らは親友でいたい

刀丸一之進

第1話 友貴

 湿気の多い6月は、蒸し暑い。雨が降った翌日がカンカン照りの日なんかは、多くの人がやる気をそがれるだろう。ちょうどそんな天候に見舞われた街中を、一組の男女が歩いていた。どちらも背が高く細身な二人組だった。

 「あっちぃ~…夏も近ぇな美月(みつき)」

 「う~ん…そうだねぇ友貴(ともき)」

 どちらもラフな私服姿や、砕けた口調から、仲がいいことは一目でわかる。

 「てか、目的地のスイーツ屋ってあとどんぐらいだ?」

 「あと少し~。あぁ~早く冷たくておいしいスイーツが食べたい~」

 どうやらスイーツ店を目指しているらしい。それなりに歩いてきたのか、二人とも少々顔に疲れが見られる。

 「てか今更だけど俺なんでアンタに付き合わされてるんだっけ?俺確か今日は一日家でゲームでもしようかと思ってたはずなんだけど…?」

 「うちが電話した時に暇そうだったから家まで行って突き合わせたでしょ?お前が暇そうやったから」

 どうやら男(友貴)のほうは、女の子(美月)のほうに呼び出されてきたようだ。

 「暇そうって二回も言うんじゃねぇよ!大体朝電話来た時おれまだ寝てたんですけど!?」

 「休日とはいえ10時前後まで寝てたってことは特にやることなかったでしょ?どうせやることないなら、親友と出かけたほうがいいでしょ?」

 「自分で親友と出かけるってなかなか言わねぇだろ…大体スイーツ食いに行くだけなら女子の友達とでも行けや」

 「しょうがないでしょ?他の子たちは部活とかで忙しかったんだから…。それに女の子と出かけられて友貴もちょっとうれしいでしょ?」

 掛け合いの中で美月機がこう言うと、友貴は少し考えてから言った。

 「女子と出かけるなら、もう少しおしとやかな子と歩きたいもんだがねぇ…」

 「うちのどこがおしとやかさが足りないのかなぁ?」

 友貴のいったことに美月は少しすねた口調で答えた。

 「え?まずアンタおしとやかさの欠片でも持ち合わせていたっけ?そもそもアンタ俗に{女の子らしい}って言われるような性格してねぇじゃん」

 「お前それはひどいぞ?現にスイーツ好きなとことか、一般的に言われる{女の子らしい}に入るんじゃない?」

 美月がこう返すと、友貴はまた皮肉った口調で返した。

 「アンタの場合、食い意地が張ってるだけだろ」

 言い終わって吹き出そうとする友貴の側頭部にそこそこ早い手刀が入った。

 「痛ってぇ!?なんだよ?」

 「デリカシーが足りない男への制裁」

 側頭部をさする友貴に、美月は冷ややかな視線を浴びせながら冷たく答えた。

 「そういうところがしとやかさが無いっちゅうことなんだよなぁ…」

 「次は首筋にでもいっとく?」

 美月がまた手刀の形を作ると、友貴は少し後ろに下がった。そして、両手で自らの首を守り始めた。

 「そういうとこだぞ?しとやかさが足らんっていうの」

 「お前こそ、その減らず口をどうにかしないことには彼女なんて一生できんわ」

 「アンタそのことを出すのはずりぃぞ!?確かに彼女いない歴はイコールだけども…」

 美月の反撃(?)に、友貴は大ダメージを受けた。そこに、美月がさらに追い打ちをかけた。

 「そもそもその犯罪者みたいな目つきじゃ大概の女の子は怖くて話しかけれないだろうけどね!」

 「誰が犯罪者じゃしばき倒すぞ!アンタこそそんな色気ゼロの見た目と中身じゃ一生彼氏なんかできねぇからな!?」

 ダメージを受けまくった友貴もついにまた反撃に出た。それに対して、美月もまた怒り出したようだ。

 「あ~!?お前言ったな!?人が一番気にしている気にしているコンプレックスを言ったな!?確かに胸の成長は一向に始まんなかったけど…これから大きくなるから!!」

 「おめでて~こったな、とっくに育ち終わってんだろ。食ったモンの栄養全部身長にギャン振りされたんじゃねぇの?高校までで成長してなかったらもう無理だろ!」

 言い終わった後、友貴は美月から5歩分ほど、距離を取った。すると、美月は全速力で距離を縮めようとしてきた。そしてその美月に追いつかれないように、友貴も走り出した。

 「待て友貴~~~!!」

 「待てと言われて待つ馬鹿がおるか~~~!!」

 お互い罵詈雑言を吐きながら街中を疾走すること5分、二人とも汗だくになりながら目的のスイーツ店についた。

 「ハァハァ…。バカ疲れた…」

 「お前がキッカケ作ったからでしょ?もう汗だくだよ…」

 「アンタも乗っかってきたでしょうが…。風の抵抗受けずらい体型してるせいかアンタ走んの早えぇんだよ」

 背負っていたリュックからタオルを取り出して美月に渡しながら友貴はまた皮肉を言った。渡されたタオルを受け取りながら、美月は「さすがに今突っ込む元気ないよ」といった。

 「とにかく無事についたのはいいけど…。店入る前に汗拭いてからじゃねぇとな」

 「だね~。冷房きいてたら風邪ひいちゃいそう」

 タオルの端と端で汗をぬぐいながら入ってから何を頼むかなどを話した。ぬぐい終わって、二人して入店した。甘い匂いがして、美月の目はキラキラとした輝きを増した。

 「わぁぁぁぁぁ!めっちゃおいしそうなにおいする!友貴!早く席着こ!」

 「へいへい…。まぁ確かにいいにおいがするなぁ…。こりゃぁ来てよかったかもな」

 ようやく友貴も乗り気になってきたようだった。

 「でしょ!?さぁ!早くいこ!」

 「おいおい、楽しみなのはわかるけど引っ張んなよ…」

 美月は、友貴の腕を引っ張りながら席に着いた。席に着くや否や、メニュー表を二人で確認した。愛想の良い店員さんが優しく、「ご注文はお決まりですか?」と聞いてくると、二人は各々の食べたいものを注文した。

 「私は、{シャーベットパフェ}と{チーズケーキ}と、{アイスピーチティー}をお願いします」

 「僕は、{アップルパイ}と{チェリーパイ}をアイスで、それと{キューピット}をお願いします」

 店員さんは、「かしこまりました~」と言って下がった。店員さんが下がった後、二人は、雑談を始めた。

 「乗り気じゃなかったくせに、注文は結構ちゃんとするんやね友貴」

 「甘いものはもともと好きだしな」

 しばらくそんな話をしていると、パフェ以外のメニューがそろった。美月は、友貴に出された飲み物に興味を示した。

 「友貴の飲み物、キューピットとか言ったっけ?不思議な色だけど…。どういう奴なのそれ?」

 「ノンアルカクテルってやつだ。コーラと乳酸菌飲料の原液を5対1の割合で混ぜて作る。半世紀ほど前に流行ったやつらしい」

 「少しもらっていい?」と美月が聞くと、「いいぜ」と言って、友貴はコップを差し出した。遠慮がちにコップを受け取ると、美月は中に入っている液体を飲んだ。

 「…おいしい!」

 「だろ?酒はまだ飲めねぇけど少しだけ大人に近づけたような気分になれて気に入ってんだ」

 美月から返されるコップを受け取りながら友貴は言った。友貴はたびたび美月に「早く大人になりてぇなぁ」と言っていた。酒の話をするのもその一つなのだろう。

 「お前の見た目で大人じゃないってのも不思議な話だけどね」

 「遠回しに老けてるって言いてぇのアンタ?」

 「そういうことじゃないよ」と美月は笑いながら言った。友貴は老けているというより、{大人びている}という表現が似合う男だ。まだ16になる前だというのに、身長が177センチ近くあるらしく、かなり背が高い。それに加えて、他の同年代の男子生徒にない落ち着きないし、貫禄があるやつだ。言葉遣いや私服の着こなしのせいか、ヤンキー漫画に出てくるキャラを彷彿とさせることが多々ある。

 「お前だって、普通にお酒飲んで喧嘩とかするヤンキー漫画のキャラに似てるもん」

 「俺はヤンキーじゃねぇ!」

 こういう会話も入学してから今までで、何度も繰り返されたやり取りだ。美月は最初、友貴のことが少し怖かった。さっきから言っている貫禄だのなんだのと、睨むような目つきが苦手だったが今となっては、(友貴はこうでなくっちゃ!)と思えるほどだった。美月自身にも、なぜこれほどまでに友貴と波長が合うのか不思議だった。だがそれは、友貴自身も感じていることだった。

 「じゃあ友貴。お前が漫画のキャラでかっこいいと思うキャラの特徴は?」

 「元ヤンの教師とか、ヤンキーチームの義理に熱い幹部とか、あとスカジャンとかライダースの似合う一匹狼みたいなのがかっけぇかな…」

 「好きなキャラの特徴のセンスが尖りすぎでしょ!?」

 好きな漫画のキャラだけ聞いていったら、ほんとにヤンキーになっていきそうで怖い。だが、友貴がそれらのキャラに似たような行動や言動をとっても、美月は違和感を感じないだろうと確信していた。

 「いいだろ!?かっけぇんだよ!俺も将来はああいう感じにかっこよくバイク乗り回してみたり、仲間と飲んだりしてみてぇなぁ…」

 「友貴ならきっとバイク似合うよ」

 友貴がバイクを乗り回している姿も容易に想像がつく。そうなったときに会って見たいとも美月は思った。

 「バイク買ったらうちも乗せてよ。友貴がどんなバイクを買うのか見てみたいし」

 友貴は上機嫌で、「おう!アンタなら大歓迎だ」と言った。こう言ってくれることは、美月にとっては大変うれしいことだった。すると、今度は友貴が美月に話題を振った。

 「アンタはなんか将来やってみてぇこととかねぇの?」

 「う~ん…あんまり思いつかないかなぁ…強いて挙げるなら結婚がしたいね~」

 相手もまだいないが、いつか素敵な相手に巡り合いたい願いも込めて言った。

 「アンタならいい嫁さんになるよ。子供が仮に生まれたとしてもアンタはいいおふくろさんになると思うぜ?」

 先ほどのののしりあいの時と打って変わって、まじめな口調で友貴は言った。言った後に、少しだけばつが悪そうにチェリーパイを口に入れた。

 「なんか…ありがとうね?友貴。お前がそう言ってくれたらなんか自分でもそうなれそうな気がしてくるよ」

 「よ、よせやい。面と向かって言われるとなんだか小っ恥ずかしいじゃねぇかよ」

 照れ隠しに、友貴はまたチェリーパイを口に入れた。その様子を見て、美月はクスリと笑い、自分の分のチーズケーキを口に入れた。

 食べ終わると、二人して店を出ようとした。しかし出たところで友貴が、「悪りぃ、やっぱちょっとトイレ行ってくるわ」と言って戻ってしまった。美月が外で待っていると、ヘラヘラとした笑みをたたえた若い男二人が、美月に声をかけた。金髪にピアスをはじめ様々なシルバーアクセサリーをチャラつかせた、見た目は完全に俗に言われる{チャラ男}という奴だ。

 「そこのおねぇさん。今暇っすか?」

 「俺ら今予定のドタキャンくらって超暇なんすけど。ちょっと付き合ってくれない?」

 「え…?ご、ごめんなさい私今友達を待ってるので…」

 美月が断ろうとすると、男二人は、「いやいやちょっとだけでいいんで」とかなんとか言って、しつこく言い寄ってきて仕舞には美月の腕をつかもうとしてきた。美月が「やめてください」と言おうとしたその時、後ろから「おい!」という若干ドスのきいた声が飛んできた。美月はその声に聞き覚えがあった。三人が振り返ると、美月が見慣れた、目つきの悪いそいつが一層目つきを悪くして歩いてきていた。

 「え?誰?」

 「もしかしておねぇさんの知り合い?」

 明らかに動揺する男二人に、友貴はベテランの極道のような口調で話しかけた。

 「にぃちゃん等…俺のツレになんか用か?」

 男二人は、友貴のことを年上だと思ったのだろう。明らかに顔色を悪くしていた。そうでなかったとしても、恐怖に近い感情(こいつはやばい)というのを感じたのかもしれない。急に「あ、いや」とか「あの、その」といった風に、しどろもどろになり始めた。

 「今日は見逃してやるから、帰んな」

 友貴がこう言うや否や、男二人は「はい!すんませんでした~~~!!」と絶叫しながら走り去っていった。

 「悪かったな美月…。油断しちまってた…」

 「い、いや全然大丈夫!むしろ助けてくれてありがと…」

 頭を下げる友貴に、美月は感謝の意を伝えた。

 「ほんとにすまなかった…。だが、無事でよかった…」

 「友貴のおかげだよ。ちょっとビビったけど…」

 流石にさっきの様子は、友達の美月にとっても背筋に冷たいものを感じたようだ。実際、さっきの友貴は普段の雰囲気以上の{圧}のようなものがあった。

 「そりゃぁ、大事なダチに手ぇ出そうとしてたんだ。流石に自制が利かなかった…逆に恐がらせちまったみてぇですまねぇ…」

 「そのことに関してはもういいよ。それよりも守ってくれたことに感謝なんだから!あと、さっきの極道の人っぽいしゃべり方の余韻…まだ残ってるよ?」

 「おっといけねぇ」と言って友貴は口をふさいだ。それを見て、美月は笑った。それにつられるようにして、友貴も笑った。

 「うち友貴がちゃんとキレるの初めて見たかも」

 「ほかのことなら大抵は笑って許すよそりゃぁ…けど、友達を傷つけるやつは俺はぜってぇ許さねぇ…なんたって俺の名前は、{友を貴ぶ}で{友貴}だからな!」

 そう言って友貴はまた笑った。先ほどの威圧感のある表情と違い、その時の笑顔は、年相応の少年の笑い顔だと、美月の目には移った。そして、その笑顔はちょうど今の天気である晴天の青空のように透き通っているように見えた。

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