第16話 子供に泣かれると困るよね
「ご主人様!」そう叫んで
彼女は地面に座り、俺の首に両腕を回して抱きしめる。顔を俺の肩口に埋めていた。
耳元で彼女の嗚咽が聞こえる。
俺は座り、気を失った幼馴染みの
しがみついて泣いている瑞希をどうすることもできない。
首だけ回して妹の祐実を探す。
祐実は立ち上がって、俺達を呆然と見ていた。右手を右頬に当てている。殴られたところが痛むのか?
「ご主人様……。ご主人様……」瑞希が嗚咽混じりに呟く。
「よかった。今度は守れた」そう呟く。
「もう死なせない」そうはっきりと聞こえた。
何が何だかさっぱりわからない。それでも何も言えず、ただ抱きしめられていた。
祐実が近付いてくる。彼女も何も言えず、ただ瑞希を見下ろす。困惑の表情に幾分かの怒りの混ぜていた。
瑞希が落ち着くのを待つ。
嗚咽が止まったところで、「睦さん」と声をかける。
「はい」瑞希は俺に顔を埋めたまま小さく返事をした。
「ありがとう。助かった」
俺が礼を言うと、彼女は息を飲んだ。
そしてまた泣き出した。今度は小さな子供が泣き叫ぶように。
彼女は事実、まだ中学生だ。
俺は耳元で泣き叫ぶ瑞希に困惑するしかなかった。
祐実を見る。助けを求める俺に、祐実はただ困った顔をするだけだった。
俺は胡座を組んで、気を失っている瑠璃の頭を膝の上に下ろした。
使えるようになった両手で、泣いている瑞希を優しく抱きしめる。
「睦さん、もう泣かないで」そう言って彼女の頭を撫でる。
彼女は泣き叫ぶのをやめる。でも、まだ嗚咽は止まらない。
俺は頭をなで続ける。
「もう泣かないで」もう一度言った。
「うん」彼女は嗚咽をこらえながら返事する。
「祐実」俺は首を回して、祐実を呼ぶ。
「何?」
「瑠璃姉の家を見てきて」
瑠璃の家は目の前だ。祐実は瑠璃の家の胸の高さぐらいの、セミクローズドの門を開け、玄関のインターホンを押す。
「おばさん留守みたい」
「開けて」
祐実は一旦門からでて、落ちていた瑠璃のカバンを拾う。悪霊に憑かれたとき、落としたのだろう。
カバンについているカギで玄関を開ける。
「睦さん、ごめん。この人を運びたいから、離れてくれる?」
瑞希はすぐには離れなかった。
俺はそれ以上声をかけずに待つ。
瑞希はしばらくしてから、嗚咽を我慢しながらゆっくりと手を離した。
少し離れたことで、彼女の顔が見えた。
涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔が見える。まだ嗚咽が止まらない。不安そうな目で俺を見ている。
俺はブレザーのポケットからハンカチを出して、彼女に差し出した。
彼女はハンカチを見ずに、俺を見ている。
「使って」
俺が促すと、やっと彼女はハンカチを受け取った。
それからおもいっきり鼻をかんだ。
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