第2話 誰?
「ご主人様、会いたかったです……」
学校の帰り道。通学路途中の児童公園。
いじめられていた亀を助けた俺は、その亀に抱きつかれていた。
「ご主人様。おまちしてましたよー」
俺は抱きついている子供を見下ろす。
「誰?」いや、知り合いじゃない。そもそもご主人って何?
中学生ぐらいとは思う。男か女かは、よくわからなかった。
「私ですよ!」抱きついたまま、俺を見上げてくる。涙ぐんだ目をキラキラさせている。
「だから、誰?」
「久しぶりなのです!」
「人違いじゃないか?」
「ご主人様を見間違えるわけ無いじゃないですか」
「全く見覚えがないのだけど?」
「え?」ショックを受けた、て顔をする。
「わるい。お前、俺を誰だと思ってるの?」
「ご主人様です!」
うーん、困った。会話が進まない。
「お前が思ってる人の名前は? 俺の名前を言ってみろ」
「えーと……」その子供は困った顔をする。
「今の名前は知りません」
「今の名前って何だよ。名前ってそんな簡単に変えられないだろ。そもそも何で名前変える必要があるんだよ」
婚姻や養子縁組みで名字が変わることあっても、名前はそんな簡単には変えられない。
子供は困った顔のまま、黙ってしまった。
「じゃあ、前の名前は?」
子供はそれにも答えず、困惑したまま黙りこむ。
「わからないなら、人違いかどうかも確かめられないじゃないか」
「うぅ……」
「名前も覚えてないような人が、どうして俺だと思えるんだ?」
「昔すぎて、忘れました……」
あー、小学校の低学年とかの時の事だろうか。
「小さい頃の記憶なんてあてにならないだろ。人違いだ」
「小さい頃の話ではないのです」
「お前、いくつ?」
「13歳です」
「中学生?」
「2年生です」
「昔なら、小さい頃だよな」
「おとなの時です」
中学生でも、おとなと主張したいお年頃なのか。
「何年前の話? 2、3年前でも小学生だよな」
「違うのです」大きく首を横にふった。
「前世の話です!」
……、ん。
ヤバイ。
ヤバイヤバイ。ヤバイやつにからまれてる。
俺は子供の肩を押して、引き離した。
背丈は俺の胸位。髪はショートカット。服装も短パンにTシャツとパーカー。
服装からは性別はよく分からない。胸もお尻も目立って出ていないし、腰もくびれもない。男の子だろうか?
いや、そんなことはどうでもいいか。
もう会うことも無いだろうし。
「悪いけど、俺に前世は無いので、人違いだな。じゃ」
俺は背を向けて立ち去ろうとした。
「待ってください。ご主人様!」
叫んで、俺の腕をつかむ。
「その呼び方やめろ。何の嫌がらせ?」
振り返った俺に、子供が抱きついてくる。
「もう離さないのです」
今度は静かに言った。本気度が増して、こわい。
あ、胸が少し当たる。女の子か?
気のせいかな?
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