第10話 一国の王女は

「今日から2日で女神襲撃に対抗出来るように連携練習を行う。えー……シュウとクローン組はに入ったら奥のボス目指して行ってくれ。貴様と悪魔は私に付いて来い」


「分かった。天汰、リチア様を怒らせないでね。疲れやすいから!」


「……いいから早く行くんだ」



 異世界生活2日目。結局、姉ちゃんが帰ってきた朝の7時くらいだった。やけに息切れしていたのは何だったのか理由は知らないが姉ちゃんのことだ、心配は不要だろう。




 * * *

「まずは剣術だ。私を手本にしろ」


「ワタシは何すればいい?」


「悪魔はアドバイス何かあったら教えてくれ」




 昨日ぶりにリチア様と会ったが、服装がより戦闘に特化していて何だかかっこいいぞ。陽光に照らされ麗しい髪がなびいている。



「よし。盗賊狩りだ」



 これは姫がやることではないかもしれない。はっ……ストレス発散の為にパーティーを組んだのか? 


 しかも悪魔と僕のせいにしてしまえば怒られない……死刑と扱いは然程変わってないわけか。



「貴様は囮だ。フラついてこい」


「イヤです」


「行け」



 とほほー……。立場的にも力的にも勝てる訳もないので、仕方なく彼女に従う以外に選択肢は無かった。



 * * *

 シュウ達が向かったのはマアイトワノ森内に存在するダンジョンであり、僕達が今いるのは舗道された観光客向けのエリアだ。


 そこでは魔物なんかは出現しないがかなりエリアが広いため見張りがいない所も沢山ある。ましてや女神襲撃が寸前にまで迫っている。


 ルドベキアに近いとはいえ流石に本陣の方が大切だ。その為にいつもより見張りの数が少なくなっているから、テュポーンズとして依頼を受けたとのこと。


 さっきはあんなことを思っていたけど、人を守りたい目的なら僕だって一緒だ。


 但し、懸念すべきことは2つある。たった三人(一人悪魔、一人戦闘経験無し)で務まるものなのかということ。そして、僕はリチア様ではなく、姉ちゃんに着いていったほうが戦闘を学べるのではないかだ。


 前者はリチア様が規格外の強さだと聞いているしへラルがいれば大丈夫だとは思うが、後者は簡単に盗賊と出会えるものじゃないと思っている。

 いくら異世界といえどそこまで治安は悪くないだろう。しかも観光スポットだし。



「あー涼しいなぁー! 草木も生い茂って自然って感じだー! ソロキャン楽しむぞー!」



 会心の演技。やたらと大きなリュックを背負わされているから傍から見れば完全に観光客に見えるはず!



「へへへ、おいガキ! たっぷり詰まったその荷物、降ろしな。わりぃけど抵抗する気なら──」



 まじかよ。いくらなんでもこんなに早く出会えるとは。ってボーッとしてる暇はねえ。


 盗賊の人数は9人か。僕はシュウから貰った剣を持って構える。この剣、ちょっと重いな、金属バットを2本持ってるみたいだ。



「お? やるかガキィ。俺達のこのナイフが血に染まっちまうなぁ!」



 盗賊の長は懐から小さく禍々しいナイフを取り出し、僕の方へ突きつけた。


 まだか? あいつら僕がどこに行ったか見失ったりしてないよな? ジリジリと男達がナイフを舐めながら距離を詰めてくる。



「な、何をするんだ!」


「まずは身ぐるみから剥がしていこうかなぁ? ガキは高値で売れそうだ……ぐへへ」


「きっ……! た、助けてーっ!!」


「誰も来ねえぜ、へっへっへっ」


「いいや、私がいる」


「誰だ!?」


「今は名乗れぬが……この戦い方を見ておけ、貴様」



 なんだ……? オーラがさっきまでとは桁違いに感じる。覇気ってやつか? 



「避けるなよ? 天日テンジツ


「ひぇ──」



 眩い光が彼女を照らす。正直、さっきまでは厄介事に巻き込まれたと落ち込んでいたが今は違う。

 さらにさっきの言葉を訂正しよう。彼女自身と剣が眩しく輝いていた。瞬間、焼けるような光と共に轟音がこの森林に響き渡る。


 僕はそれにただただ気圧されて、尻餅をついてしまった。



か……どうだ貴様、これが王女の戦い方だ。真似をしてみろ」


「いやあの……そういう技は撃てないです……もっと基礎から……」


「なっ!? 先に言え先に! おい悪魔、昨日は何してたんだ?」


「六人でトランプをやってたよ」


「え!? 何故!? 誰だそいつらは」


「天汰と、シュウ以外の三人と旅館にいたアレゼルツーとワタシの六人。あれ初めてやったけど面白かったねー天汰。あれは天才が作ってるね」


「……貴様ァ! サボってたなぁ!?」



 あっまずい。なんか光り出した。なんて誤魔化そうか……いや無理だな。無理だから今度一緒にやる約束でもするしかないな。



「はい。なので今日の夜は一緒にトランプで遊びましょうよ。昨日は姉ちゃんが居なかったけど、今日なら居ると思いますから。八人なら盛り上がりますよ」


「ハァ!? ……ま——」

「——良いところに女子供がッ……お、おい足元の奴等、おれの兄貴——」


「入ってくんじゃないよッ! 盗人がッ! 天日テンジツ


「——」



 さっきの技とは対称的に、閃光のように瞬きも間に合わない刹那で僕等一帯を包み込んだ。



「……すまない、取り乱した。貴様に基礎を叩きこむ。悪魔は死なない程度に援護を頼みたい」


やるじゃん姫。でもワタシの方がもっと強いけどねー」


「……それはそうだろう。悪魔」



 と、いうことで僕は盗賊を狩りながら剣術の基礎を学び始めた。脇を締めろとか腕だけじゃなくて上半身を使えとかそういうのだと思っていたが、流石姫様というべきアドバイスを沢山頂いた。




 * * *



「……へっへっへっ、小ちゃい子供がこ〜んな所で一人なんて、危険だよぉ〜?」



 まずは、演じる。マアイトワノに迷い込んだ純粋無垢な少年のふりをする。


 出来るだけ無言で無抵抗を演出する。どっちにしろ剣が長いからどんな体制になろうがバレてしまうが、相手の人数と武器さえ分かればたとえ複数相手でもそこまで強い相手じゃない。

 これは……対盗賊での経験で学んだ。



「……おい、その腰に差してる物はなんだぁ? それ、くれよ。金になりそうだぜぇ」



 四人か、人数的には上振れ。リーダーっぽいやつが近づいてきているのが荒い息で分かる。



「こ、こっちに来るなァ!」

「ふひゃひゃひゃ! 振りも甘えなぁ! おいおめぇら囲め囲め!」



 よし。完璧に油断してきたな。リチア様から習った最強の戦術開始だ。



「うぉらりゃ! うわっ!」


「へ……うぐぅ! オマエ、俺の手を斬りやがったな!」


「よし、貴様! さっき教えたことを復唱しろ!」

「はい!」

「は? 誰だお前」


「初めは油断させる為に弱く見せつけ! 胴を切るフリをして手首を狙う!」


「正解だ!」


「そして――」

「全体重を乗せて切りかかる!」



 手首を切られて小さなナイフを落とした盗賊に僕は全力で切りかかる。



「殺してやる!」


「――!?」



 男が懐から何かを取り出し、僕へと突きつけた。それは銃だった。だけどダイアさんも銃を扱っていたから当然想定内。



「死ね! あ?」



 前傾姿勢から敢えて体制を崩し銃弾を回避する。そして、慣性のまま僕はほんの少しだけ宙に浮く。

 右手に握った剣を不安定なこの状態で上半身を捻り、男の胴体に殴り斬った。

 男は軽くうめき声を上げてその場に倒れ込んだ。


 ダメージを見るとも出ている。明らかにおかしな数値を叩き出しているのに、意識を失うだけで済むのは人体の不思議か、もう



「よ、よくも親分を!! ぜってえ殺す! それに女もこいつを殺したらぶっ殺してやるからな!」


「へ、ビビってんのかよ? さっきまで舐めてたくせによく言えるな」


「な、なにっクソガキが!」



 よしよし。今地面に這いつくばって背中を三人の男達に晒している状況だが、リチア様も近くにいるしまぁ、大丈夫だろう! そもそもこの煽り文句もアドバイス通りに行った結果だし。


 即座に身体を起こし、左手は地面についている不完全な体制ながらも三人を同時に視野に入れ思考し直す。


 ……盗賊ってのはどうして短剣を扱いたがるんだ。ただそうじゃなきゃ僕はこいつらに絶対に勝てない。確かに練習相手としてはこれ以上にないのかも。


 段々と僕の中で姫様の株が上がってきたな。



「……何を躊躇ってんだよ、盗賊が」


「……なぁガキ。煽れば俺らみてーな馬鹿な奴は必ず引っかかるとか思ってねーだろうな?」


「だったら、なんだ? もしかして負けちゃうなんて思ってるー?」



 男達は冷静を装うとしているのが丸出し、最後の仕上げをさせてもらおう。



「まあいいや。こいつのトドメを刺してやる」


「! やめっ──」



 予想通りこのリーダーに忠実そうな奴が真っ先に向かってきた。他の二人も反応は遅れたもののすぐに僕に立ち向かってくる。この僅かな反応差を利用する。



「うおおおおぉりゃああああ!!」



 僕は地を蹴って、向かってくる男に敢えて立ち向かった。リーチが長い分、相手に先手を打たせることで向こうから距離を詰めさせて奴の思考が正常に働く前に縦に切りかかる。



「くっ……そ」



 僕の力の乗っかった剣が男の胸部を叩く。そうして今度は会心の一撃が通ったようだ。男の図症には、ダメージと金色の数字で表記されていた。



 ドン!






!」


「ぐふぇァ! だ、だがあのガキは……殺して……やっだ……ぜ」



 耳を劈くような強烈な破裂音に加え、僕に突撃してくるような風圧を感じ取ったと同時に、リチア様が隠れるのをやめて技を発動し後列の二人にくらわせたらしい。


 まあ、確認不足だった。飛び道具を持っているのは親玉だけじゃないって多少、僕も油断はしていたんだな。



 僕が一人に切りかかったタイミングに合わせて後ろの二人が、弾丸を死角になる僅かな隙間から僕に向けて撃ちこんだようだ。


 事後になるが、火薬の匂いと散った火花の余韻に僕の脳もようやく処理が追いついた。僕の身体は銃弾を貫いたと。そう、錯覚していた事に。



「やっぱ銃って最強の武器だなぁ、ワタシには効かないんだけどね」


「ありがとうへラル。防御を任しておいて正解だったよ」



 幸い、守りに関しては今回無視していたのだ。へラルに服内に入り込んでもらうことで、さっきのように防ぎきれない攻撃から身を守ってもらう戦い方が良いことに僕達は気が付き実行しただけ。


 へラルはどちらの弾も米粒みたく摘んでいた。



「あーあれだ! 『切り札は最後まで取っておけ』ってやつだ!」


「はは確かに。……流石ですねリチア様。貴女のお陰で二人倒せました。ありがとうございます」


「ああ。貴様の戦い方は何とか合格点って感じだが、鍛錬さえしていれば必ず貴様は強くなれるはずだ」



 あれ。なんか姫様目を合わせてくれないな。さっきから何か言いたそうにしていたけれど、目を逸らしたり背を向けたり……やっぱり昨日のことで怒ってるのかな。



「それとだ……いや、やはりいい」


「な、なんでですか? テュポーンズはじゃないですか!」


「か、家族?」



 この話はリチア様だけに話し忘れてた。どう言えば伝わるんだ……勘違いされると面倒くさいって昨日知ったばかりだし――。



「ふ、ふふ……あっははは。そうか、…………。ああ、その、だ。私も、今日は混ぜてほしいのだが……ああっアレだぞ情報共有のためにだな」


「ふ、はい。こちらこそよろしくです、リチア様」


「『』でいいぞ、貴様は。家族、なんだろう」


「リチア、早くシュウのとこまで行かなーい?」


「悪魔も、家族……なんだろう? 貴様」


「そうだ! へラルなんだぜ!」



 僕達が家族だってことは伝わったみたいで良かった。リチア様……いや、リチアは明確に笑みを浮かべていた。



「姉ちゃんのとこまで行きましょう二人とも」


「ああ。急がないとボスを倒し終わっているかもしれんな」


「まーあのが勝てない奴なんて




 その後僕達は、ダンジョンのボスであるゴブリンオークをボコボコにした四人と無事合流した。


 ちなみに、今回僕達がとっ捕まえた盗賊は何と25組。一二時間でこの数は流石に治安が悪すぎるんじゃないか? 

 総勢100名を超える行列をルドベキアに連れて行った際には昨日の喧嘩の比にならない騒ぎになってしまった。

 それから数時間ほどマアイトワノ森に戻って連携特訓を行い、日が落ちてきたと同時にテュポーンズは宿へ帰宅したのだった。

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