第5話 我儘な王女達

「先程の無礼は大変申し訳ございませんでした。手加減をされなければその場でわたくしは死んでいました。責任を取ってこの仕事を辞職することでどうにか失態を私だけに収めてくれませんか」



 ヘラルが兵士長のおじさんをぶん殴ったことで彼等は戦意を喪失し、僕らは謁見の間から客間へと移された。その間ヘラルは殴り足りなそうに苛ついていたため僕が何とか押さえ続けた。しかし他の三人はどうも様子がおかしく無言で気まずそうに、飾られている絵をぼーっと眺めていた。


 小一時間ほど経ち、ようやくリチア様と鼻を抑えながら兵士長も戻ってきた。



「いや、あの……僕達は別にいいんですよ。ただヘラルが」


「そもそも悪魔なら皆友好的に接してくれるものだと思ってたのになー。本当に撃たれると思わなかったしー。ま、私にこれから良い待遇を約束するなら失態自体無かったことにしてもいいけどなー」


「……」


「……約束しよう。貴様に対しても悪かったな。無礼を働いてすまない」


「リチア様まで……僕らの方が無礼でした。すみません」



 僕は立ち上がって腰を90度近く曲げ、兵士長さんに頭を下げた。そもそも全て僕のせいだ。僕がルールを守れなかったからだ。



「頭を上げて。貴様達はこれから一ヶ月間はどの宿にも無銭で泊めてもらえるように手配した。が、その前にだ。シュウ達にはやってもらわなければならないことがある」


「え……何をすればいい?」


「シュウ、を組んでくれないか。今はまだ話せないが、パーティーを組んでいないと参加できないイベントがあってな」



 パーティー? ダイアさん達とはパーティーではないのか。前から思っていたけど、姉ちゃんとの関係性がよく分からないな。


「……でも、パーティーを組むなんて……無理だよ……」


「大丈夫シュウならね。とりあえず転送するから。貴様も目を潰れ」


「……はい」



 先程までは柔らかい表情でシュウと話していたが、急に僕の方を向き睨みつけられた。だが、その指示に従う以外も無いので黙って目を瞑ってみる。



「――あら、お客さん? いつのまにあなた達カウンター席に座ったの?」


「えっ?」



 目を開くとバーみたいな所に僕達は座っていた。そして目の前には僕の一回りほど年上の、とても綺麗な女性がグラスを拭きながらも多少驚いた顔をしている。部屋の空気もさっきまでの爽やかな風は無くなり、どんよりとした不思議な香りが漂っていた。



「あ、もしかしてあなた達パーティーを組みに来たの? うふふ、この『』ですぐ登録できるわよ。坊やと綺麗な女性のお二人ですね?」


「いや、僕らは5いますが……」


「え?」


「え?」



 えっ……とこの人にはダイアさんは見えていないのかな? それとも冗談?



「君――坊やと、鎧が似合う女の子。あなた達二人がいればパーティーは作れますよ」


「……ああ、悪い。天汰、俺達説明を忘れていたな」

「――あたしたちはなんです。基本的にあたしを従える主に従うだけですから、こういうのには数えられないんですっ」


「クローンってのは俺やゼルちゃんみたくオリジナルがいんだよ。リチア様なんかは一人しかいないNPCなどと外の奴等からは言われているな」


「姉さん、残念だけど一緒にゲームをやる友達はいなかったんだよねーはは」



 …………クローン? くそ、設定が多すぎだろ! NPCか……そう言えば姉ちゃんと街で喧嘩した時もそんな事言ってたな。だから、リチア様が姉ちゃんのことをソロだとか言ってたのか。

 僕は考え込むうちに口元を手で覆って考える、いつもの癖が出ていた。



「ううん……ま、そういうことですね。が最低1人以上、NPCもしくはプレイヤーを含めた最低二人からパーティーは組めます。IDを見せて下されば登録の手続きはこちらで済ましますよ〜」


「あの、すみません。僕にはIDが無いんです、それに恐らくここのNPCでもありません」


「ええっ!? でも君はクローンの子でもありませんし……ちょっとお手手触れますね」



 口を覆っていない右手を彼女はいきなり掴んで手の甲をじっくりと睨みながらベタベタと触られたが、何にも変化は起きない。



「失礼ですが、お名前は何でしょうか?」


「天汰、です。瓜生天汰うりゅうてんたです」



 僕達に背を向けて分厚い住民帳と機械的なパネルを同時に扱いながら僕の名前を平仮名、漢字、英語……様々な言語で探してくれたが1件もヒットしなかった。



「ええ……」



 ルースさんは首を傾げて辺りをキョロキョロと見渡し、一つの提案を僕らに囁いた。



「……あんまり言いづらいのですが、この酒場にも何人か一人で飲みに来ている方が居ます。今見渡した限りでは一人だけ居ました。あちらの壁の近くで飲んでいる黒いフードを羽織っている人です」


「……っ」


「シュウさん、大丈夫? ううっ、ごめんねあたし力に慣れなくて……」


「大丈夫だよ、ゼルちゃん。ルースさんその人を名前を教えてください!」


「彼の名前は です。彼もパーティーを組まずに単独で行動しているNPCです。ただ、ちょっと気難しい性格なので下手に出ないと……酒場出てもらうことになりそうですね」


「まぁ、酒場全体に私が魔法をかけているので何をしてもダメージは入りませんが。ほっ!」



 そう言うとルースさんはもう一度僕の手に触れ、力強く握り締める。が、どれだけ強く握られようが、ルースさんの手の血管が浮き出ようが痛みもダメージも0、だった。



「うふふ、握り心地良いわね君」


「あはは……」


「ありがとうございますルースさん、行こう天汰。二人は待ってて!」


「あれ、ヘラルは――」


「――ヘラル、服の中。ワタシ、見つかるとちょっと良くない」


「そ、そっか」



 まじか、全く気が付かなかった。声は僕にしか聞こえない声量で話してくれてはいるが、ヘラルがいる感覚がないので少し不気味だぜ。


 僕と姉ちゃんは立ち上がり、ジュマという男の元に近づいていく。だけどさっきからシュウの様子がどこかおかしい。段々と息が荒くなっている気がする。でも、ここで話しかけられるようにならなきゃいけないんだ。今までの姉ちゃんに戻るためには。

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