第4話 悪魔はあらわれる

、やったのは私達で間違いないです……」


「ね、姉ちゃん? 知り合いなの!?」


「……さっき話したこと思い出して」



 さっき話したこと? …………あ、もしかしてリスポーンしかけたっていうのはこのリチアという人が関係してるのか?

 王女だし当たり前か。


。ソロで群れて他のパーティと関わりが無いからといって、私達のような一般市民に迷惑かけるなと前に伝えたはずだが……?」



 あなたは王女だから市民ではないのでは……と余計な一言を挟みそうになったので自分で口を塞いだ。



「黙られても埒が明かないな。とにかくお前らをここで野放しにすることはできない。この二人を謁見の間まで連れてこい。私は先に待ってるぞ」


「はっ! そこのガキ今すぐ起きろ! そうだ下敷きになっている奴も起きろ!」


「おい」

「その二人は



 彼女の声に命令してきた兵士も恐れているのか、釘を刺されてからは口をモゴモゴとさせて急に話さなくなった。しょうがなく僕と姉は黙って立ち上がり、リチアという姫とその部下に着いていき城内へと入っていく。


 僕ら二人の周りに兵士が一人もいないのはさっきの姫のせいであえて近付かないようにしてるのか、逃亡しようとしてもリチアが僕達を倒せるからなのか、それとも姉のシュウとは案外仲が良くて信頼しきっているのか考えてみたが、何もわからずじまいだ。


 しばらくすると先頭のリチア様の足が止まった。兵士達の隙間から覗き見ると、とても広く奥に王様が座るような大きな椅子が見える謁見の間らしき所だった。

 そしてその前に見覚えのある背中が見えた。


「あっ、シュウさんと天汰くんも捕まったんですね……」


「ゼルちゃん!? ダイアさんも……」



 別行動をしていた二人も先に捕まっていたみたいだ。二人の手を後ろにし、手首は謎の紋様が描かれており縛られているようだ。

 ――なんで僕らにはされてないんだ? あの二人よりもはっきり言って僕の姉ちゃんの方が危険だろどう考えても。



「シュウ、そして子供。そこの二人の横に並んで跪け」


「は、はい……」



 リチア様の言われた通りに二人の隣に跪いた。跪いてから段々と不安になってきてしまった……やっぱり町中で喧嘩した挙句に技を打って生き物を殺したのは罪に問われるだろうか……。もしここで死刑にでもなってしまったどうしようか!?



「四人が何故ここに並ばされているのか、分かるだろうな。シュウ、ダイア、アレゼル、子供。誰でもいい答えてみろ」



「俺とゼルちゃんが服屋で買い物を楽しんでいたからか?」


「そんな事で罪に問わん。次」


「年齢が2つあることでしょうか……?」


「それは興味無いしここでは8歳だ成人ぶるな」


「私が町中でを使ったからでしょうか?」


「……あれはしょうがない。怪我人が出なかったのが奇跡なくらいだからな。ただそれでもない!」



 駄目だ、もう一つも思い浮かばない……もしかして気付かないうちに何かやっちゃったのか? うわー不用心な発言とか素振りでもしちゃったのかな。



「ちょっと分からないです……えーリチア様」


「……一つしかないだろう!! だろうが! 子供、貴様はどこから来た? まさか女神からの刺客じゃないだろうな」


「いいえ違います! この子は……私の弟なんです!」


「本当か? 顔もあんまり似てるように見えないが……それに聞いたことがないぞ、シュウに弟がいるなど」


「いや、その血も繋がってる正真正銘の弟なんですけど、ここでは血は繋がって無いという……えー――」


「――余計なこといわないで!!」


「もういい。シュウの弟を名乗っていようが国の存続に関わる、だ」


「え」


「よく聞こえなかったか? 貴様は、死刑だ」



 死刑。急におかしな世界に飛ばされたと思ったら、死刑だと。異世界だと悪魔は言っていたがこんな治安の悪い所なのかよ。



「な、なんで天汰が死なないといけないの?」


「なんでって言われてもな。それにもう一つある。シュウの弟らしいが何故?」


「で、データ?」



 急にメタ的な話をされても……というかこういう話はしてもいいものだろうか。



「……まだ分からないか。シュウ、右手のそれ外してくれないか」


「……はいどうぞ」



 シュウは右手に着けている鎧を外し、手の甲を僕とリチア様に向かって見せた。



「IDを見るわね」



 そう言ってリチア様はシュウに近付いた。流石王女様だろうか、綺麗な橙色の髪を持っているが目元に薄くクマが見えた。

 リチア様は片足の膝を付き、彼女の手の甲を触った。すると手品のように9桁の数字が浮かび上がった。



「プレイヤーならこんな風に目視も出来る。他の二人も見ようと思えば見れるけど、この国に立ち入った時点ですぐに安全か分かるわ。ただ、貴様だけがを無視してここまで入ってこれた。その理由を説明出来たら、死刑については取り消すことも許すわ」



 さっきよりもリチア様との距離が近くなり、威圧感を先程よりも強く感じてしまう。



「説明って言われても……」



 何から伝えればいいのだろう。別の世界からやってきたとか伝えるにはここがゲームの世界だってことも言わないといけなくなる。そうしたらリチア達は信じてくれるのだろうか。いやまてよ、姉ちゃんのことはプレイヤーだって知っているんだよな。だったら、普通に言えば伝わるな!



「僕は、別の世界から転移……召喚されたんです!」


「召喚? 誰が貴様を呼んだのだ。シュウか? それとも他にいるのか?」


「それは悪魔です!」


「あ……!?」



 そう言うとリチアは自分の口を塞いで青ざめた顔で黙った。……何故だ。ここでは悪魔はむしろ好まれる方じゃないのか!? リチア様だけじゃない、ダイアさんもゼルちゃんも、シュウまでもが僕を見て驚いた表情をしていた。



「……くっ、なら出してみろ。貴様が言う事が事実なら、今すぐここにその悪魔を呼べ。契約したなら貴様から呼び出すことは可能だ」


「呼ぶってどうやってやれば……」


「……名前を呼べば、来るだろう。貴様が言う事が嘘でないならな」


「分かりました……! で、出てくれ!」



 良く考えたらヘラルと契約は出来てるんだよな。さっき呼び出し方を聞きとけば良かったなと後悔したが、もうしょうがない。願うことしか出来ない。



「――はいはーい」


 と、どこからか声が聞こえた。まさか上手く行ったのか!

 僕以外にもしっかりと聞こえたこともリチア様の動揺した顔で分かった。これでなんとか死刑は回避できた……ん?  なんかくすぐったいような……。



「て、天汰! どうしたのその体!!」


「え? ちょくすぐったい!!」



 学ランの隙間から何かが出てくる。僕の腹部あたりで何かがうごめいている。さらに這い回る感覚が全身に襲い掛かり寒気を感じてきた。



「……はぁはぁ。この服出るの面倒ね! 次は服着替えてよね」


「あ、ヘラル。お前も服奇抜すぎだろ。シュウみたいに身体を守るような服装にしろよ」


「はぁ〜? 悪魔ですから! 効きませんから」


「あ、あ、あ」



 おっと。ついついヘラルにツッコんでしまったが緊急事態だ。リチア様は驚きすぎて口をパックリと開いたまま閉じなくなっていた。ダイアさんもゼルちゃんも同様にポカンとしていた。



「これが、契約した悪魔のヘラルです!」


「そう、一応ワタシの諸事情で彼は召喚しちゃったの」


「……手違いでな」



「あ、悪魔だ……」



 忘れていたが同行していた兵士もまだ残り続けていた。彼らは彼女の姿を見るなり警戒心を高めて武器を力強く握り直していた。



「……まて、攻撃はするな。悪魔……しかも悪魔使いはとても貴重だ。こちらの戦力になってもらわねば困る」


「しかしッ! こうやって悪魔を連れて城内まで侵入したのは宣戦布告ということだろう! 王女様、我らに任せなさい!」



 リチア様の護衛隊が僕とヘラルに近付き、その中のリーダーらしき男が懐から銃を取り出しヘラルの眉間に突き付けた。



「……ワタシもしかして脅されてるの! 悪魔なのに!?」


「お前らは奇術を使い、我々を騙そうとする卑劣な若者だと理解したよ。その技術は賞賛できるが、王女様に試すような行為は認められない。ここで終わりだよ」


「馬鹿! 引き金を引くなーッ!」



 リチア様の命令も虚しく、その引き金は引かれた。勿論その即決に僕はとても驚いたが、それ以上に目の前で起きた光景は信じられなかった。



「うふふ」


「……効かない」



 ヘラルの頭上には0と映し出されたのが見える。今まで見えた数字があんなにも長々しく羅列されていたためか、違和感を覚えた。



「だめですよぉ悪魔でもの対象なんですから。効きませんよ。でも、ふんっ」


「ぐっふ……我々の終わりか」



 男はヘラルに振り抜かれた拳が鼻に直撃したようで白目を剥き、鼻血を垂らしながらうつ伏せになって気絶してしまった。ダメージは57145714



「……天汰、何が起きたの?」


「悪魔が、偉い人をぶん殴った」


「え……私には何も……」



 シュウの全身の力が抜けてガクリと魂が抜け落ちてしまった。



「兵士長!? 運べ運べ兵士長を!」



 ああ終わった……これじゃあ僕は死刑だ。

 兵士が居なくなり、リチア様とヘラル以外は誰も動かずにいるとコツコツとヒールの音が響き、僕の目の前で彼女は止まる。



「部屋を移そう。貴様ら、ついてこい」



 処刑場かなぁ……。リチア様についていかなければならないのにヘラルは呆然と立ち尽くしていた。



「……っとりあえず! ヘラル、着いてきて」


「うん、分かったよ」



 なんだ、案外言う事は聞いてくれるんだな。さっきそうしてくれたら、僕は死刑にならずに済んだのに。……いやヘラルがいればリチアになんとか勝てるか……?



「……ここで待っていてくれ。客間だから兵士も覗きに来ない」


「え」


 ぞろぞろと僕らはその部屋に押し込まれてしまった。



「やっと呼んでくれたね! てんた!」


「……ヘラル、僕を守ってくれよ」


「うん。天汰だけは絶対に死なせないから、安心して」



 ここに来てから、いや生まれてきてから一番最悪な気分だ。

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